2024年11月4日月曜日

アキアカネの配偶行動 (2)

 精子置換はいつおこなうか?

 今のところ、新井論文が非常に的を得ているように思えました。このままではやはり妄想論でしかなかったことになってしまいます。そこで改めて、新井さんが述べておられる、ねぐらでのアキアカネの配偶行動を再度観察してみることにしました。
                   
1. ねぐらでの配偶行動の再調査 
                    
                    調査地の景観 11/4

 11 月4日、この時期まだまだたくさんのアキアカネがいました。気温は11℃、8:40にはすでに多くの個体が樹上から農道わきの斜面や農道の上に降りてきています。また水路の斜面の草付きにはここで夜を越したと思われる個体も多く、♂は活発に探雌飛翔を行っていました。すでに数組の連結態のペアが日向の斜面や農道上に止まっています。やはり、新井さんが言っている通り、交尾個体は少なく、数え方を間違ったのかと思いました。しかし9:30ぐらいになると、今度は交尾個体が多く見られるようになりました。観察を続けると、朝方斜面や草付きに止まっていた連結ペアが飛び出して、すぐに交尾態になるものが多いことが分かりました。
                                                           
                                 ♀を確保直後に交尾せず連結態となって静止するペア
                           
                          同
                          
                          雑木林の法面で交尾するペア

 やはりねぐらで交尾することは一般的なアキアカネの習性だと思われました。新井さんの報告では連結態で飛び去るものが一番多いという事でしたが、一旦飛び去るようでも周辺に着地して、その後、その周辺で再度飛び上がった時に交尾するようでした。
 ♂が最初に♀を捉えた時に、瞬時に♂は移精するようですが、その後交尾態、連結態になるのは♀の意思で決定されていて、その気が無ければ連結態のままとなります。交尾を嫌がる♀は尾部をだらりと垂らしたまま、♂主導の連結態で飛びまわります。

 ♀を捉えた瞬間から交尾および連結に移行するペアの数を数えました。ただその瞬間をみることが難しく、わずか9例を確認したにとどまりましたが、すぐに交尾態になったのが5例、連結態になったのが4例でした。この連結態は多分次に飛び立った時に交尾するのではないかと思います。
 ですが、観察していると確かに新井さんの述べられている通り連結態で飛び去り、近くの水田の水溜まりで産卵様行動の後に交尾するケースを複数観察しました。これは非常に引っ掛かります。すでに観察地に着いた以前に交尾を終えていたペアの可能性もあるため、来年はこの点を確認したいと思います。

2. ねぐら周辺での交尾の実態
 ねぐら周辺での交尾がアキアカネにとって一般的な習性だとしたら、ますます水田の産卵場所での交尾は一体何なのかという疑問が生じます。なぜ2回交尾が必要なのか?
  
 アメリカのWaage 氏が1979 年に北米産アオハダトンボの1種を用いて発表した、いわゆる精子置換1)はその後の昆虫界における繁殖システムの研究に革新的な進展をもたらしました。現在トンボ類においても生態を観察する上で、精子置換は常に配偶行動や交尾に極めて重要な役割を果たしています。
   これまでアキアカネを見ていて、不思議に思っていた事柄について我流で観察をおこなってきたわけですが、いよいよこの部分に手を付けざるを得なくなってきました。アキアカネについての精子置換の研究例はあるのかも知れませんが、Web上ではまだ見つけられません。同じSympetrum 属では主にムツアカネでの研究例が多く、その他では北米産のSympetrum rubicundulum の例が報告されていています2)。精子置換のメカニズムも両者で異なっているようで、アキアカネの場合はどのような置換メカニズムなのか解明する必要があります。
 
 最初に考えるのは交尾場所ごとの♀の精子保持量の違いをみることです。単に交尾場所が違うだけで、1回しか交尾しないならば、場所によって精子保持量が大きくことなることはないでしょう。このために、かわいそうですが♀を解剖して交尾嚢・受精嚢内の精子の様子を観察しなくてはなりません。次に両者の♀が保持している精子量を数えて比較する必要があるでしょう。
 解剖については前年マダラヤンマでやっていますから、より小さなアキアカネでも何とか出来ると思います。精子量は血球計算板を用いて精子数を数えます。
 途中のこまごましたことがらは割愛して、結果を見てみましょう。
                   
                                                               アキアカネの精子

             ♀の受精嚢内の精子の様子を示したもの

 それぞれねぐら、水田での交尾個体が交尾を完全に終了した時点で、♀を採集して解剖したものが上の組み写真です。Aがねぐらの樹上から降りた直後の♀、Bがねぐらで交尾した♀、Cが水田で交尾した♀、そしてDがやはりねぐらで交尾した♀です。赤い矢印は1対ある受精嚢 (spermatheca)です。受精嚢内の白い塊は精子です。B、DはA、Cに比べ明らかに受精嚢内の精子の量が激減していることが分かります。これはねぐらでの交尾が受精嚢から先住♂(ライバル♂)の精子を除去することを目的としている可能性を示しています。そして水田での2回目の交尾時の初めて射精をともなう交尾をおこなっているかも?。交尾場所の異なるそれそれの交尾が組みになって、精子置換が成立している。こんなことあるのでしょうか?何か眉唾物のような話です。
 もし本当なら、なぜこのような面倒な交尾を行うのか、どういった生態的意義があるのか、これまたメンドクサイ事になってきたような気がします。
 精子数のカウントには、家でもサンプルを正確にホモジナイズできる方法を考えなければならないので、次回以降にアップしたいと思います(もしかすると今期は間に合わないかも)。

引用文献
1)
Waage, J. K. 1979 Dual function of the damselfly penis: sperm removal and transfer. Science.203:916-918.
2)
Cordoba-Aguilar, A., Uhia, E. and Cordero Rivera, A. 2003 Sperm competition in Odonata (Insecta): the evolution of female sperm storage and rivals’ sperm displacement. J. Zool., Lond. 261: 381-398.

つづく



2024年10月22日火曜日

アキアカネの配偶行動 (1)

アキアカネの謎                                            

              この地方の稲刈りは10月に入ってからで、産卵はそれ以前に水田ではほとんど見られません

産卵前に同じパートナーと2回交尾するのか?
 昨年までの観察で、アキアカネは産卵前に2回交尾(ねぐら周辺の地上部と産卵直前の田んぼで)するのではないか?という疑問を持ちました。そこで詳しく調べてみようと思います。
 アキアカネの産卵はとにかく水域であればどこでもその対象になります。でも観察ではなるべく多くの複雑系要因を取り除き、単純なモデルとしてを捉える必要があります。そうなるとやはり見通しの良い平地の水田が適地でしょう。しかもねぐらとなる雑木林が近くにあると良いと思いました。そんなことで、今回も須賀川市仁井田地区のいつもの水田地帯で以下の観察を行いました。 

1. 平地の水田地帯でのアキアカネのねぐらは?
 まず、この時期(10月中旬)のアキアカネのねぐらはどこなのかを調べてみました。これまでの観察で水田に隣接する雑木林や木立がねぐらになっているのを確認していました。今回もまだ落葉していないコナラの葉などに静止している多数の姿が見られました。高さはまちまちで10m以上の梢から地表の雑草まで確認できました。
 一方、産卵場所の水田の周辺の雑草の上で、あるいは草ぐさの中に入り込んで夜を明かす雌雄も相当数いることも分かりました。
                   
                 稲刈りが終わった圃場、手前の水溜まりが産卵箇所

 
 
                     
                      
        水田の畦や水路の斜面、水田への大型機械の出入り口の雑草内で夜を明かす

 2. 夜を明かしたアキアカネの行動
 雑木林の樹上で夜を明かした個体は陽が射すようになる8時すぎになると、樹上の個体は次々に地上に降りてきます。また地表で夜を明かした個体も夜露が取れる頃、活動を始めます。9月中旬だと気温にもよりますが、だいたい8:00には♂は草むらをぬう様に飛んで♀を探します。樹上からおりてくる♀や農道わきの斜面に止まっている♀を見つけるとすかさず挑みかかって♀を確保、この時ペアは地上に落ち、♂は瞬時に移精と♀を尾部付属器で♀の後頭を把握して飛び回り、交尾態になったペアはすぐに近くの地面や草むらの葉に止まって交尾を続けます。一方♀を把握し、飛び上がって移精・交尾しようとしても♀が応じない場合があります。このこのペアは連結態となってしばら飛びまわったり、近くに着地します。♂は交尾したいのですが♀が拒否するわけです。しかし、オスはあきらめず連結態となったまま一旦付近に静止したあと、飛び去る?(ここがはっきり確認できません)もし完全にねぐらから飛び去るなら、飛んだ先に水田があって、ここで交尾、産卵する可能性は捨てきれません。もしそうなら、この2回交尾の可能性はアウトです。

 産卵までに2回交尾があるとすれば、それぞれに目的があるはずです。交尾の機能に違いがあるなら交尾継続時間に差があるかも知れないと思い、9月13日に調べてみました。まずねぐらでの交尾を見てみます。
 交尾継続時間は 4分50秒~8分54秒、平均7分でした(n=8)。
 次に水田の水溜まりに産卵に飛来するペアの交尾継続時間を計測しました。結果はグラフのとおりです。
                    

 今回も交尾継続時間は2山を示しました(昨年は10月下旬の調査)。何なんでしょうねこの二山は。それぞれの山の平均値を求めると、おおよそ5分と10分でした。しかし、ねぐらでの交尾時間と大きく異なる値だとも思えず、両者の関係は交尾持続時間からは分かりませんでした。やはり交尾場所が違うだけで、産卵前の交尾は1回なのでしょうか?

 さらに私の考えを揺るがすような観察をトンボ界の大先輩、埼玉の新井裕さんが熊谷市で50年近く前にすでにおこなっています(新井, 1976 昆虫と自然 13 (2): 23-25 ) 。新井さんによれば多分9月に調査したんだと思いますが、ねぐらで夜を明かした雌雄は上記したように♂は♀を見つけるとこれを確保、連結態となって、飛びながら移精をおこなう。この辺りは同じ。問題は、、、、その後です。
1. 連結態のまま10分前後休息した後、飛び去る。
2. 休息することなく飛び去る。
3. すぐに交尾態となって静止する。
 と3つのケースが観察され、内1が最も多く、3の交尾は稀であったとしているのです。
 須賀川市での観察とはかなり違う内容です。これはちょっとショックですね。交尾しない方が多い。言い替えれば、これはねぐらで交尾することもたまにはあるということでしょう。
 さらに新井さんは産卵場所となる水田でのアキアカネペアの行動を調査しています。ねぐらから連結態のまま飛び去るペアが多いので、交尾はいつ、どこでおこなうのかが最大の関心ごとであったようです。そうすると下の表のように産卵場所となる水溜まり周辺で40%のペアが交尾することがわかったのです。このことから産卵水域周辺が主要な交尾場所であることが具体的な数字でしめされたのです。
 ねぐらと産卵場所でそれぞれ1回交尾するのが一般的であるとすれば、直接産卵する個体があるとは考えられません。しかも16%もある。産卵場所で交尾するのは、ねぐらで交尾せずに連結態になって飛んできたペアなんだ。あーやっぱり妄想であったかと。 
                      
         
                   (新井, 1976 より)

 私もめげずに須賀川市の水田でも同様な調査をしてみました。ただ、新井さんのように4つの項目に分けて飛来するペアを瞬時に区別して記録することは実際やってみて非常に難しいことが分かったため、今回は明らかに水田の水溜まりに産卵様行動を示したペアが、その後産卵せずに飛び去った数をとりあえず数えてみました。 
                      
         
 調査時期は9月中旬で新井さんが熊谷で行った時期と変わらないと思いますが、産卵場所として関心は示すものの、♀が気に入らず、飛び去るペアは半数以上にのぼることが分かりました。新井さんは観察のなかで、交尾は連結態となったペアがある程度飛翔することで促されるのではと、興味深い考えを示されています。でも、まだまだ隠されて見えないものがあって、真実はもっと複雑なのではないかと思えるのですがねー。
 頭の上を飛び去る多数のペアを見上げると、「どこに行くんだ、どうしてみんな同じ方向に一心不乱に飛んでいくんだ!教えてくれー!」と叫びたいです。

3. 精子量でねぐらでの交尾と産卵場所での交尾の違いをみる
 外見上、異なる2か所で見られる産卵前の交尾はこのままだと、単なる交尾場所が異なるだけで、交尾は1回だけ産卵前に行われるということになりそうです。そこで、最後の手段で一発逆転を狙います。


つづく









2024年10月3日木曜日

アキアカネ観察の前にミルンヤンマを撮る

 ミルンヤンマは県内だと、ほぼ全域に分布するトンボで、夏の中頃から晩秋にかけて山地の渓流で見られるヤンマです。黄昏時に活発に活動する種のようなことが言われていますが、必ずしもそうとも言えず、中通り地方中部の平地の渓流では9月に入ると午前中から♂の探雌飛翔が見られます。
 小学生の時に、旧長沼町の親戚の家に夏休みで遊びに行っている間に、家の傍でこのトンボを捕まえる機会が何回かありました。今でこそ、そのヤンマがミルンヤンマであったことは疑う余地がないのだけれども、当時は名前も知らず、コヤンマと勝手に名付けていました。コヤンマが田舎の家々の間を通る細い小道や畑の上を往復飛翔しているの見つけ、ドキドキしながら採集した思い出があります。採集したミルンヤンマは薄茶色の体にオニヤンマ様の黄色の紋があって、とても気に入っていました。近くに釈迦堂川が流れていて、その川の水を町内各所に引き入れた水路がありましたから、その辺からも羽化はあったと思います。何しろ当時の水質は今とは雲泥の差でしたから。当時は平野部の集落内でも未熟成虫が活動していたのです。
                   
             ここから水がわき出し、わずか30m下流のビオトープに流れ込みます。
                    
               コンクリートの河床に岩を組んで流れを再現してます。

 さて、家から30分ぐらいのところに、ミルンヤンマが見られる場所があります。キャンプ場になっていて、子供たちの昆虫観察会を行った時、水路周辺に多くの羽化殻があるのを1人の子供が見つけました。本種が人工的に作られた短く狭い水路に生息しているのに驚きました。個体数は多くありませんが、楽なのでこの場所で撮影することにしました。
             
                 頭上を飛び抜けるミルンヤンマ

                          同

 そう思うながら、8月上旬にコロナに感染して、結局生息地を訪れたのは10月になってしまいました。さすがに飛んで来る個体数は非常に少なく、シャッターチャンスもほとんどありませんでした。でも、産卵は何とか撮ることができました。撮影中、周りにカサカサと樹々の枯葉が落ちて、秋の深まりを感じました。
                        
                    これは古い写真、場所は隣の沢
                       
                 1枚だけ何とか捕れた♂、結構きれいな個体

 1時間に1-3頭の♂が飛来してきます。次第にボーとした状態になってきた時、いつの間にか、♀がそばの流木に飛来して産卵を行っているのに気が付きました(良くあるケースです)しばらく産卵させます。今動くと驚いて逃げてしまいます。♀が次第に産卵に集中してきた時(産卵管を盛んに流木に刺しながら動き回る)、カメラを向けます。数枚撮影した時に突然強い雨が降り出しました。まだ数枚しか撮っていません。これからという時に、、。しかし雨では仕方がありません撤退です。
                      
              
               一心不乱に産卵に集中する♀, 翅に触れても無視!
                        
              産卵を終えた個体を目で追う事は困難ですが, 幸い近くの枝に止まった.


 



                                            
 







2024年9月12日木曜日

秋の撮影日記

 今年の7~8月はオオルリボシヤンマに振り回され、挙句、昆虫教室に動員されて、そこでコロナに感染しました。後遺症に悩まされ、ほとんど野外に出ることはありませんでした。

 悶々とした日々のなかで、これではダメだと、思い切って撮影に出かけることにしました。気になるトンボにオオルリボシヤンマの青型♀とナゴヤヤサナエが思い浮かびました。前者はこれまで浜通りと阿武隈高地で見ていますが、中通りや会津地方では見たことががありませんでした。また後者のナゴヤサナエは、唯一の生息地であった夏井川が大規模な河川改修でその後どうなったのか全く分かりませんでしたので、行って見てこようと思いました。

 オオルリボシヤンマ青型♀
 9月の第1週、♀が多かった会津地方の生息地を回りましたが、1頭も見ることができませんでした。30個体ぐらい見たのですが、会津にはいないのかなあ、その後半ばあきらめムードで帰りがてら、いつも通っていた郡山市湖南町の池に寄って見たところ、何と複数の青型♀に出会うことが出来ました。
 写真のように、ここの♀は青といっても淡い青で、一般に知られる鮮やかな青とはいきませんが、これはこれでなかなかいい感じです(自己満足)。青型が多い地方ではこうした淡い青の個体もでるのでしょうか?
                   
                     
           オオルリボシヤンマ青型♀(郡山市湖南町9/8)腹部に枯草が付いている
                    
                     一般的な♀
                     
                    産卵を終えて近くの灌木で休む♀
                      
                歴戦の強者、翅がボロボロでもこの場所は渡せねー!

ナゴヤサナエはどこへ行く?
 夏井川の堤防の大改修は平野部全域を対象にしていて、ナゴヤサナエの生息地も例外ではありませんでした。一昨年の改修前とこの9月12日の状況です。かなり深刻です。現在残っている川岸の樹々は全て伐採され、コンクリートの護岸に変わり、その上を新たに道路が建設されるようです。
                    
                                2022/7/8 
                                                           
                                                                  2024/9/12
 
 夏井川では広域に本種が生息しており、絶滅してしまうことは無いでしょうが、この場所で来年見られるかは分かりません。それと今回気が付いたのですが、以前と違って、ナゴヤサナエの飛び方が変わったように感じました。昨日と今日現地で観察しましたが、とにかく暑い!持っていた気温計は33℃(11日、10:00)で水面からの照り返しも厳しく、長時間の観察は無理でした。この気温のせいか、ナゴヤサナエ♂の独特な飛び方が短時間で終わってしまい継続しないのです。川面を飛び始めたと思ったら、すぐに居なくなってしまします。ある時はいきなり3,4頭の♂が現れて、盛んに争う姿が確認できるのですが、すぐに姿を消します。不思議に思っていると、川面低く現れて旋回飛翔していた個体は直ぐに川岸の樹林の梢に上がってしまうのを見ました。
 当初、7時ぐらいまでは川面に数頭の♂が飛翔するのが見えましたが、8:15以後、ほとんど飛ばなくなりました。そこで苦労して川を横断し、対岸にある樹林帯に行って見ました。すると川面に張り出したエノキの葉に数頭の♂が休んでいるのが確認できました。待っていると上の方からスーっと♂が降りてきて川で緩やかに飛び回り出しました。しかし1分もしないうちに再び、今度はそばの低い位置のヤナギの葉に飛んで来て止まりました。
 9:00以後は川面を双眼鏡で覗いても、姿は見られず、たまに川面を飛んでもすぐに居なくなり、これは以前とは全く違う印象を持ちました。産卵は6:30にあったきりで、この場を離れる11時まで見られませんでした。何か今までとは違うような感じを受けました。
                     
                                  中央部が意外に深く、近づけない.川幅の広い夏井川は撮影には不向き
                     
                              これが限度、とほほほ.
                         
                          すぐに止まりたがる♂
                          
                           エノキの葉に止まる
                          
                             別個体の♂
                                                                              


 







 

2024年8月20日火曜日

結局分からなかったオオルリボシヤンマの配偶行動

  オオルリボシヤンマの交尾は今シーズンも観察できませんでした。これまで、スギの林に沿って午前中5,6mの高さで連結態になって飛ぶペアを2回観察したのみで、♂たちが争う池で交尾態はおろか♀を捕捉することも観察できませんでした。ではなぜ、オスたちは早朝から夕暮れまで池で激しく争うのでしょうか?♂たちの日周行動をみると、下のグラフのようになりました。個々の内容については面倒なのでここでは触れずに置きます。連日の観察で消耗してしまいました。前項の事柄等を御参照ください。グラフが全てを物語っています。

        

 観察から、池を占有する♂は複数の侵入♂に対して毎回有効な迎撃をおこなって、全てを排除できているという印象を持ちましたが、個々に♀が侵入してくると状況は一変し、たちまち、いわゆる縄張りは崩壊して混乱の極みの状態になります。♀が単独の場合は占有♂は♀を捕えようと必死になって、♀を追尾します。同時にどこからともなく侵入♂が複数(の場合が多い)それに加わって、長い列を作って♀の跡を追います、この時、♂同士の争いがひっきりなし起きて、占有♂がどれなのか全く分からなくなります。追尾をあきらめる♂もいて、これらはそのまま池で占有するための闘争を繰り返します。特に複数♂が占有できる池では♀の侵入は頻繁に起きてそのたびに、せっかくの縄張りは白紙に戻ってしまい、新たな縄張りが、多分、新な♂によって形成されていくものと思われました。
 はたして占有♂が最終的に池に戻る場合は、また縄張りのヌシとなれるのか、また、♀について池を離れる♂たちの先頭は池での占有♂なのか、この部分がわかれば本種♂の縄張りの意義が明確になると思います。
 もしそうでなければ、いったい縄張りを形成・占有して侵入者を排除する行為は何のメリットがあるのか分からなくなります。結局♀が来ると占有♂は優先的に♀を確保できなくては縄張りの意味がありません。下の写真を見て分かる通り、侵入♀が単独であれば占有♂は♀を独占的に追尾できます。しかし、それは稀で、多くは複数の♂が占有♂と一緒になって♀を追いかけます。その間。池はがら空きで、新たな侵入♂が占有してきます。縄張りの定義がオオルリボシヤンマの場合、非常に曖昧で簡単に言い表すことが困難です。

 いろいろな事がいっぺんに起きるため、個体識別は絶対必要でビデオカメラでの記録がどうしても必要になります。簡易にマーキングでもできればいいのですが、本種のさらなる行動の解明にはこれらを無くしては進めないでしょう。憶測や思いでは話になりません。

 オオルリボシヤンマの♀はこれまた曲者です。侵入したかと思うとすかさず産卵する者もいて、この場合付きまとっていた♂は交尾の可能性がないと思うのか、さっさと諦めて離れていきます。しかし前にも述べましたが、多くの♂を引き連れ、産卵もせずにふらふらと池を飛び回って、しばしば♂からのアタックを受け、草むらや水面に落とされても逃げもせず、相変わらず♂を引き連れて最後は池を離れ林間に飛び去る、ふてぶてしい♀が必ずいます。時として産卵個体より多い場合があります。私はこの♀が交尾に関係しているとにらんでいます。しかし、追いきれません。優に数十メートルこの行列は飛んで行くことがあります。多くは最終的に1,2頭の♂だけ引き連れて、産卵もせず林の中に消えていきます。交尾はこの後起きるのではないかと。ブログや知人からは交尾の写真やその観察記録を伝えてもらったりしていますが、いづれも断片的で、恒常的に交尾が見られる場所・状況ではないように思います。
  ただし、加納一信さんが以前に報告した本種の配偶行動の内容は、非常に重要で、ある意味でこれがオオルリボシヤンマの配偶行動を言い表しているようにも思います。それによれば、北海道の湿原での観察で、♂は産卵が終了して縄張りを離れる♀を追って周囲の草原上で♀を確保・連結に至る。その後タンデム状態で周辺の樹林に飛んで行く( 1989, 昆虫と自然, 24: 43-44.)とあります。ただこの時♀を確保する♂が縄張り♂なのかについては述べられてはいません。私が観察している森林に隣接している溜池とは環境が異なりますが、縄張り♂も溜池から出ていく♀を追って行くことから、基本的に交尾に至る過程は同じなのかも知れません。
 オオルリボシヤンマの縄張り行動の解明にこの♀を追っていく単独♂、あるいは複数♂の先頭が縄張り♂であるのかを見極めることができれば、これまでの疑問は一変に氷解するでしょう。
                    
  
               ♀を追ったものの産卵が始まったため、諦める♂
            
       
                            産卵
        
       
                    ♀を必死に追う♂たち
                          
  
                       
                       
       
                       

 
              列を見失った♂たち「おい、どうする?」とでも
          
                     
                     
                     


  

    
                     
 









                     

2024年8月6日火曜日

オオルリボシヤンマの生態(7月下旬~8月初旬)

♂の日周活動(行動) 
 現在、成虫の行動を継続観察しています。昨年の疑問点などを中心に調べていますが、未だ最終的な目的、即ちいつどこで交尾するのかについては糸口すら見えていません😔
 
 8月2日(成熟した個体が最初に池に戻った日から10日目に当たります。)は黎明時の飛翔が4時半過ぎに終了しました。その後パタリと姿を消し、再び池の上に複数の♂が飛来して縄張り飛翔を始めたのは1時間後の5時30分過ぎでした。調査地には5つの池が棚状に連続していて、時間の経過とともに全ての池にそれぞれ1~3頭が占有するようになりました。さらに6時を回るとスギの樹冠部で活発に活動する個体が認められました。この頃になると、池の上でも先住♂に追い出される新規侵入♂が出始め、7時前になると侵入する♂の個体数が増加し激しいバトルが繰り広げられました。勝者は明確ではありませんが、先住♂が縄張りを維持し続けたものと思われました。

 一方、追い出された♂は次第に池の周辺部(林縁や林道上)の一定の空間を占有するようになりますが、時折池の開放水面への侵入を繰り返します。私の思い入れが強いのかも知れませんが、追い出されて林縁部をホバリングを交えながら旋回飛翔する♂を見ていると、何か人間や犬に見られるような感情をトンボは持っているように感じます。激しく追い出された♂の表情(こういう表現が良いかわかりませんが)はかなりの精神的ダメージを受けたみたいで、占有♂が接近してくると、スーと距離をとり目を合わせないような仕草をします。また、池に侵入したいのだけれど、なかなか決心が付かず、躊躇しているような仕草を見せる♂もいるのです。
 黎明時の飛翔終了後から黄昏飛翔がおこなわれる直前まで、池の上で占有行動を示す♂の個体数推移を見たのが下のグラフです。
                   

 縦軸の占有率とは、昨年の観察から5つの池で占有できる最大個体数に対する各時間の総個体数の割合です。私はこれまで漠然と、そのときどきでオオルリボシヤンマの生態を見てきて、本種の習性・生態はこんなものだとしていた概念が、実は♂の日周行動1つを取っても見ても、何一つ具体的なことは分かっていなかったことに気が付きました。
 本種はマダラヤンマと同様に昼にかけて活動が低下し、午前と午後に明瞭な2つの活動ピークをもつこともわかりました。また黎明飛翔終了後と黄昏飛翔が始まる直前では、池での活動が低調になることも分かりました。
 しかしこのグラフからは各池での占有♂と新規侵入♂の闘争の実態・程度が分かりません。ほぼ同時にそれぞれの池での闘争程度を知ることは不可能なので、時間ごとに間接的に池周辺で待機する♂の個体数を数えて、この値で池を巡る♂同士の闘争程度を評価することにしました。

8月9日投稿                                                         
 各池の水域に入れなくて、周辺を飛翔する♂(今ライバル♂とします)は池で占有する先住♂の数が増えるにしたがって、増加することが分かります。この♂たちは隙あらばと先住♂に闘いを挑みますが見事に追い出され、中には完膚なくまで張り倒されてしまう個体もいることは前述のとおりです。観察を続けると、8月8日の午前中にはそれまで15~20mの高さのスギ樹冠部で占有飛翔していた個体が5,6m付近まで降下して旋回飛翔しているのを確認しました。そしてこの中の一部は積極的に池周辺で占有飛翔するライバル♂の占有域への侵入を試みます。

 このような行動から、オオルリボシヤンマにおいて、池で行われている♂同士の激しい争いは一見、無秩序に起きているように見えますが、実は階層(羽化後の日齢・成熟度)ごとに闘争が起きているらしいことが分かってきました。階層は上からスギ樹冠部、スギ中位部、林縁・林道上そして池(開放水面)の順になっていて、池に向かうほど日齢・成熟度が進んた個体となります。それぞれの階層の占有♂はその上の階層のより若い♂からの挑戦を受け、また同階層からのあぶれ♂も絶え間なく侵入してきます。それぞれの階層で占有する♂たちをはたから見てもこれは相当のプレッシャーで、消耗以外何もメリットが無いのではと思えてきます。こんなことを毎日続けていてはたまらんだろうと思います。とにかく、この時期までにメスなんかまったく飛んでこないのですから。なぜ♂たちは激しい闘争を行いながらも占有飛翔をするのか全くわかりません。
   

つづく
 

 


 
 

2024年7月23日火曜日

また地獄のオオルリボシヤンマ観察始まる(パソコンで読んでください)

 7月23日までの観察で新たにわかったこと
 また私にとって、悶々とする季節が始まりました。今年こそ何とかならないもんかねえ。今年も待ったなしで難敵オオルリボシヤンマの羽化時期を迎えました。
 今のところ、昨年とほぼ変わらない時期に始まった羽化はいよいよ終盤に入り、♀の比率が高まってきています。
                 
                   観察地景観 段々に5つの池がある

 さて、羽化期間(昨年だと20日間)の前期までは羽化した池に終日、本種の姿は見られません。しかし、7月18日(今年の羽化開始は7月8日)の15-16時の間に初めて2頭の♂が池の中や周辺を高速で飛び回り、すぐに姿を消すのを目撃しました。以後、午前、午後を問わず不定期に2,3頭の♂が同様の飛翔をおこなうようになりました。これは採餌のための飛翔ではなく、飛翔能力を高めている、いわば訓練?を行っているように思えました。どの程度の熟度か捕まえてみたかったのですが、何時飛んでくるか全く予想できず、また飛び方が速くすぐに居なくなってしまうため捕獲出来ませんでした。

 つぎに羽化期間における未熟個体の黎明、黄昏の飛翔を観察してみました。まだこれは途中なのですが。翌日の19日の観察では早朝4時過ぎに最初の個体(多分♂)が飛び始め、すぐに数匹に増えました。最初は池、周辺を明らかな採餌を目的とした飛翔で上下動が大きいやや俊敏な飛翔でしたが、やがて池上空2,3mを非常に高速で飛び回るようになりました、これはさほど長い時間ではなく、黎明時の飛翔は約40分続きました。高所を飛び回る個体はありませんでした。
 一方、その日の黄昏飛翔は19:00から始まり20分続きました。飛び方は黎明の時とは異なり、池の水面上50cm以下を行きつ戻りつする個体と上空1~2mを飛ぶ個体が見られました。そこでそれぞれを捕獲してみると、成熟度が異なることが分かりました。
                    

 写真の上の方が黄昏時、水面低く飛び回っていた個体、下が池の上空を飛んでいた個体です。下はかなり成熟度が体色に関しては進んでいることが分かります。また写真にはあげれませんでしたが、この日は羽化後間もないようなまだ体や翅が柔らかい個体も複数得られました(これも水面低く飛び回っていました)。
 一見いろいろな日齢の個体がごちゃ混ぜに飛んでいるように見えましたが、オオルリボシヤンマは日齢ごとに飛ぶ高さをそれぞれ変えて(干渉を避けて?)飛んでいることが分かりました。
 これらの個体がこの池、地域で羽化したのかは不明ですが、案外、本種は羽化後あまり羽化地を離れず、周辺の森で過ごし、周辺で朝夕活発に飛翔活動しながら成熟するのかも知れません。








アキアカネの配偶行動 (2)

  精子置換はいつおこなうか?  今のところ、新井論文が非常に的を得ているように思えました。このままではやはり妄想論でしかなかったことになってしまいます。そこで改めて、新井さんが述べておられる、ねぐらでのアキアカネの配偶行動を再度観察してみることにしました。           ...