2023年11月26日日曜日

平地のオツネントンボの越冬

 

      落日をむかえるいつもの観察地、右の斜面にオツネントンボが集まっている 11/23 須賀川市

 以前標高700mに位置する山間部におけるオツネントンボの越冬を観察して、このブログに概要を載せました。それらの結果から、越冬には温度よりも太陽高度の位置によって越冬時期が決まるのではないかと予想を立てました。
 それから20年、確実に温暖になって本種の越冬も変わったのではないかと思っていました。11月アキアカネを観察する須賀川市の水田地帯の雑木林には多くのオツネントンボが生息しているのが気になっていました。山間地に登らず、低地での個体群はどのように越冬するのか。山間地だと毎年11月10日以前が越冬開始時期となりますが、どうも低地だとかなり遅くなることが分かりました。そうすると越冬開始時期は以前予想した太陽高度によるものではない可能性が出てきました。うーむむむ。
 大体コーなります。勝手に自身で描いた予想は見事にはずれることが多いのです。そんなに甘く、単純じゃねーぞ、と。
 観察当日の23日は異常に暖かく、当地では最高気温が18℃を記録して、オツネントンボ、オオアオイトトンボ、ナツアカネそしてアキアカネが午前中活発に活動していました。普通ならほとんどトンボは見ない時期なんですが。午後3時すぎになると、オツネントンボは陽に当たる雑木林の縁にある農道の斜面にどんどん集まります。さらに3時30分あたりから斜面の小枝に止まって静止状態を保つようになって、全く活動しなくなります。気温は14℃で結構高めです。どうやらこのままの状態で夜を越し、樹上に上がって眠ることはしないようです。
 このまま、地面近くの植物体につかまったまま、越冬に入るのでしょうか?だとすればオランダなんかで報告されている越冬態と変わらないという事になります。
  
                                           まだまだ元気なナツアカネ、だいぶ老熟している 
                     
          日中は明るい南向きの斜面で小昆虫を捕食したりしながら過ごす
                     
                夕日を受けて静止する♂、このまま夜を迎える

 26日、この日は午前中は晴れでしたが、朝の気温が氷点下まで下がりました。これで、お陀仏となったトンボも多かろうと、いつもの観察地に出かけてみました。時間は9時半です。気温は6℃、現地に着くと何とアキアカネが交尾してます。こんな低温でも盛んに雌雄が飛び回っています。敏感でカメラで寄るとすぐに飛び立ちます。多くは雑木林の南側に作られた農道の法面に止まっています。10:00には気温は7℃になりましたが、こんな低温でもアキアカネはペアとなってどこかに飛んでいきます。ずいぶん低温には耐性があるようです。
                      
     気温6℃のなか、連結態のアキアカネ、交尾していたが驚かせてしまい、交尾を解いてしまった。

      この時期でも11時頃(気温8℃)になると♂は産卵に来る♀を捕えようと水田に飛来します

 オツネントンボは?と、法面を探しますが全く飛びません。よくよく探すと、刈り払われたササや小灌木の根元にしがみついている個体を発見しました。慣れて来るとそこかしこに厳しい夜を越したオツネントンボが静止しているのを確認することが出来ました。この温度では飛翔することは無いのですが、気配を感ずると止まっている枝の裏側に体を隠します。寒さで動けないわけではないのです。結構敏感で、すぐ裏側にまわりこんでしまいます。その動きはハゴロモ類やヨコバイ類のようです。「お前らトンボだよなと、」言いたくなります。
 こうなると、平地での越冬はこうした日当たりのいい斜面にある植物体の地際で越冬するのでしょうか?まだ、本種の越冬態は朽木や岩の割れ目に入り込んで越冬するイメージが強く、このような観察は意外でした。もう気候は冬になっていますから、これをもってオツネントンボの越冬態だとすべきなのでしょうか、悩みますねえ。もう少し観察を続ける必要があるのかないのか、分かんねーなあ😕
                                  

    
   どこにいるかわかりますか?

                         生息地景観
    
 つづく                                                          




                  
  
 
 









2023年11月5日日曜日

アキアカネの観察(2023)

                      
               いつもの観察地の景観、那須の山並みが遠くに見える

  アキアカネの観察はいつも10月下旬からになってしまいます。これまで、このトンボほど興味が無かったトンボはありませんでした。秋にはごく普通に見られるトンボですし、採集意欲なぞ全く湧きませんから。その感覚は一般の人と同じだったかもしれません。このトンボが持つ数々の不思議な生態についても、興味はなく「Tombo」や「昆虫と自然」なんかに特集が組まれても、またアキアカネかい、とすっ飛ばして読んでいました。
  20年以上前に尾瀬のホソミモリトンボを探索に行った時、8月なのに湿地の水溜まりにアキアカネが数ペア産卵しているのを見かけたことがありました。あれ?何で尾瀬でこんなに早く産卵するのか、と。このことが少しずつアキアカネに関心を向けるきっかけを作っていたのではありますが・・・🙄

10月25~31日の観察
 まず、福島県中通り地方中部で成熟個体が大挙飛来して来るのはいつなのか、あまり注意してみていませんでしたが、2022年だと9月10日に初めて多数の連結個体が飛んでいるを観察しました。また以前水田地帯の農道でアカトンボ類の発生消長を調べたことがありましたので、その図を見てみると、9月13日に初めて観察されていますから、まあ9月10日前後といったところなのででしょうか。
                  
                          ふくしまの虫 (1997) 17:15-16より
   
 ただ、この時期はまだイネの収穫は始まっておらず、田面はコンバインが作業できるよう乾燥させているので、アキアカネが産卵できる環境にはなっていません。全く水田で見ないわけではありませんが、溜池や河川周辺で多く見ることができます。
 この時期のアキアカネはマダラヤンマが本格的に生殖活動を行う時期と重なるので観察はしたことはありませんでした。
                                                             
            産卵するペアたちとそれを狙うミズグモの1種、下のペアが狙われている

                                                        産卵中の♀に飛び掛かり仕留めたクモ
                        
                  産卵場を決めて、付近で交尾するペア

 25日以降、天気が良くてアキアカネの観察にはもってこいの条件となりました。単純な疑問なのですが、福島県内各地のアキアカネ個体群には大きさで違いがあるのか興味があります。それぞれの地域で、平地の水田や湿地で羽化したものが山に登って成熟して、また平地に帰って来て産卵する。単なる地域内の行き来だけなら、会津の山間地や浜通りの海岸部などではかなり地理的な、あるいは気象的な違いがあります。したがって個体群にそれぞれの地域の特徴が出てきそうに思います。そこでまず、浜通り、中通りおよび会津地方平野部(ただし磐梯町は標高540m) のアキアカネ♂の大きさを調べてみました。下はその結果です(標本数は30頭ですが、これが大変でこの時期の30頭を採取することはとんでもなく苦労することとなりました。どこでも30頭採取するのに1時間以上かかってしましました)。
                           

 
後翅長と腹長の関係をみると、何となく関係性はありそうに見えます。相関係数は低いのですが、回帰直線を入れてみました。こうして見てみると各地域のアキアカネ個体群の大きさにはいずれの地域でもかなりのバラツキがあることが分かりました。一方、何か共通性があるのかについては判然としません。これが地域差なのでしょうか。極わずかですが、タイリクアキアカネ程度の小さな個体もポツンといることがわかります。回帰直線の下のエリアは翅が長い個体が分布していることを示し、これも大体ですが、長さが32mm以下になるとその個体数が多くなって、同時に変異幅が大きくなるように見えます。一概に特定地域の個体群といっても異なる特徴を持った複数の小さな群の集まりだという印象を持ちます。
 これらについては、何か言えるまでにはまだまだ記録の集積が必要であることを感じます。もちろんだからと言って何か出て来るとも限りませんが。特に今回はいずれの地域も平地ですので、今後は山間部や、夏山の山頂部に集まる個体群なんかを調べたいと思います。
 なお、アキアカネの生活史については生方秀紀さんの「北海道におけるアキアカネの生活史 」 (2016) Tombo, 58: 1-26. がアキアカネにおける過去の膨大な知見を総括していて、とても参考になります。アカトンボに関心のあるトンボ屋以外の自然志向の一般の人は意外に多く、その人たちにもアカトンボの生活史がどこまで分かって、何が問題なのかを知ってもらうことは大切だと思うのですが、残念ながらこの文献は一般の人たちにとって入手が難しく、日本トンボ学会(本会はいわゆる一般の学会には当たらず、任意団体に該当)に問い合わせしようにもホームページはおろか、事務局の住所すら検索できません。どんどん利用してもらいたいのに、せっかくの重要な文献がこのまま埋もれていくのは誠に勿体ない話です。

 今回はもう1つ、10月下旬の交尾行動をもう一度観察してみたいと思いました。昨年も感じたのですが、本種の生殖期間がかなり長いため、マダラヤンマで見られた、時期によって交尾行動を含む配偶行動全般が変化する可能性はないのか?文献を見ても見つからなかったので、手初めに交尾時間を調べてみることにしました。一般には10分程度の交尾持続時間であるように書いてある文献が多いようです。この10分の根拠を示す出典元には当たれませんでしたが、石田さんたちの「日本産トンボ幼虫・成虫検索図鑑」には10分とありました。一方、数分から十数分としているのは井上さんたちの「日本産トンボ大図鑑」です。はたしてこの時期はどうなのか、♂♀共にかなり老熟個体になってきていますから。
 田んぼの中の水溜まりに飛来するカップルはオス主導で♀を2,3回振り下げて疑似産卵をおこないます。そして♀が気に入れば(何を判断基準にしているかは全く分かりませんが)、交尾態になって付近に着地します(産卵に不適とする判断は♀がするようで尾端をそり返して♂に合図するようです)。その時から交尾を解くまでの時間を計測しました。しかし、この測定が意外なほど難儀するのです。この時期に特有なのか、交尾態で同じ場所に留まり続けるケースは意外と少なく、ちょっと飛んでは止まるを1,2回繰り返すのです。そこで見失うのです。また他のペアに気を取られている内にどこに居たのか分からなくなってしまうことも多く、なかなか計測数が増えないのです。2日かかって、最初から最後までの交尾継続時間を計測できたのは32ペアに留まりました。これをグラフにしました。
                     

これを見る限り、この時期は10分より明らかに継続時間が短いことが分かります。また、5分以内の個体が19%(赤円の部分、データ数が少ないのですが)あって、井上さんたちの図鑑の記述に合致します。しかしこの短時間で切り上げ産卵するペアについては何となく、なにかを含んでいる気がしてもう少し精査する必要を感じました。







 

ミルンヤンマ、アオヤンマ、ネアカヨシヤンマ、そしてヤブヤンマの学名が変更になった!

(このブログはパソコンで読んでください。携帯では文字化け行づれが起こります。)  先ごろ行われた日本トンボ学会で、トンボ界を代表する若い講演者がクイズ形式で最近のトンボ事情を面白おかしく発表されました。その中にミルンヤンマの学名変更の話があったような気がしました。あまり事の重大さ...