2022年8月30日火曜日

マダラヤンマの謎(発生期間中は随時更新あり)

 マダラヤンマは何物?

 先のブログで述べたように、これまで日本産のマダラヤンマはAeshna mixta soneharai であったものが、Aeshna soneharai として種に昇格したことを紹介しました。その後このことについて、少し調べていたのですが、あらためてマダラヤンマ A. soneharai (A. mixta の和名はヨーロッパマダラヤンマとでもなるのでしょうか)をみてみると、まだまだ謎に満ちた部分が多いように思えました(と、いってもまた、私だけの思い込みなのかもしれませんが)。                 
                     
                         生息地の景観
 マダラヤンマと欧州産 mixta (いちいちめんど臭いので、ここではとりあえずヨーロッパマダラヤンマとします)の青型メスの違いは斑紋の違いから何とか区別ができそうに思いますが、オスはますます難しいように思えてきました。識別点の1つである頭部の前額上に明瞭に現れる黒のカタカナのエの字斑はweb上で見てみると、これも結構変異があって一概にこの部分で両者を区別できないことが分かりました。結局、遺伝子型の違いでしか識別できないとなるとこれはこれで、論議になるのではないでしょうか。
 マダラヤンマの発生は地域によっても異なるのでしょうが、ある日にワッと現れて、しかも年によって見られる個体数が大きく変動することが多いように思います。その「ある日」は、本州の中部、関東あたりで8月末期から9月第1週と毎年大体同じで、福島県の産地もこれに含まれます。
 ところがです。県内の生息地の場合、実際にはヨシ原の開放水面にて日中ホバリングや交尾が見られる9月第1-2週よりも、さらに10日以上早く現地に飛来してることが分かりました。これらは夜明けの早朝5時前後から30分程度しか活動せず、以後、夕刻を除いて終日全く見られなくなります。早朝の飛翔は多分は摂食を目的としているのだと思いますが、詳しいことは分かりません。この時間帯にはギンヤンマが活発に活動していますが(この時間に活動しているとは思いませんでした)、常に決まった水域上を低く、恐らく摂食飛翔だと思いますが、干渉しあうこともなく多数のオスが入り乱れて飛んでいます。マダラヤンマが水域に出てホバリングする場所とは異なり、両者が争うことはありません。そして、ギンヤンマも20分程度で5:20には水域から完全に姿を消します。

つづく
                    
                黎明の空を背景にホバリングするまだ若いオス


9月1日 投稿

 2022年のマダラヤンマは8月24日に初確認しました。例によって早朝5:01に1オスが水域をホバリングしました。これ以後、姿は見せず、9月1日にようやく同じく4:56、5:40にそれぞれ1オスが水路に出て、ホバリングしながら摂食行動するのを確認しました。一方、この時期にいわゆる成熟期に見られるの黄昏飛翔は全く観察できませんでした。成虫は一日を通してヨシ原内で過ごし、出てきません。それでも夕方になるとヨシ原内部のヨシがまばらに生えたような場所(約2m四方)で縄張りを作ってホバリング飛翔しながら摂食行動おこないます。時折、上空を飛翔するトンボを急上昇して迎撃します。これ以外ほとんどの時間はヨシ内部に静止していることが多いようです。この行動も17:30には終わってしまいます。この他では1例だけ夕刻、池の縁のフトイの根際を突っつくような飛び方をする個体を見ました。

 もしかすると、この時期はまだ完全に成熟していない可能性があるのではないでしょうか?半成熟の状態で広いヨシ原を伴う池沼に飛来して、そのヨシ原内部で約10日以上かけて完全に成熟するのでは、と。早朝飛ぶ行動は成熟するとともに時間が遅くなり、繁殖時期には6:30ころになります。これまで私や、多くの同好者の方々は朝7時ころから現れる、配偶行動を行う完全に成熟した本種の姿だけを見ているのだと思います。実はそれ以前に約10日間以上の謎の成熟期間がマダラヤンマにあるようなのです。ちなみに9月6日に採った♀は体の硬さや色彩も完全に成熟しているように見えましたが、卵巣は未発達でした。
 観察地では、これまで一回に数頭の個体が早朝の飛翔をおこなうのですが、1昨年、溜池の工事があったせいか環境が変わり、今年の飛来は極端に少なくなっています。さらに、この池は春先に水路を完全に干し、水生植物群落を刈り払って焼却する作業が行われていて、マダラヤンマが育って羽化することはありません。観察個体全てがどこからかの飛来個体なのです。

 先日、webのサイトで北海道のマダラヤンマを紹介していました。驚きました。その日付です。何と8月中旬に成熟虫が採れているのです。その方に詳しく伺うと、すでに水域に8月上旬から見られるとのことでした。つまり本州の中部から東北地方にある生息地より一ヶ月以上早く発生しているのです😱。北海道すべてがこうだとは言えないのかも知れませんが、文献を見ても本州よりは早いように思いました。
 そこで、なぜなんだろう、です。少なくとも本州よりも寒冷な土地で発生が早まる理由は何か。
つづく

9月16日投稿
 最近、私は見れば見るほどヨーロッパにおけるヨーロッパマダラヤンマ(勝手につけた)と日本のマダラヤンマは、同種じゃないかという気がしてきました。この辺りは核DNAの比較も行わなくては結論が出ないとする専門家( F 博士、ガンバレー😃)の意見もあることから、今後紆余曲折が出てくるものと期待しています。
 さて、福島の場合、マダラヤンマは配偶行動が見られる7-10日前の期間はヨシ原内部で何をしているかは分かりませんが、早朝を除いて表にでてきません。この時期の個体は成熟個体と体色や体つきでほとんど見分けが付きません。私はこの時期の個体は見かけ、仮の成熟期でまだ精巣や飛翔筋が未発達なのではと考え、体重を計測してみることにしました。特に飛翔筋はトンボの場合、体重の30%以上を占めると言われ、この時期に飛翔筋の筋肉量が増加すると考えたのです。つまり、♂どもは日々鍛錬しているのだと。

マダラヤンマの体重増加
 早速、早起きして採集に努めましたが、さすがにここ3年コロナで網を1回も振ったことがなかったので、腕が鈍り、せっかくのマダラヤンマをみすみす逃す失態を繰り返し、ようやく9月1日に2♂を捕獲しました。デジタル式の化学天秤(0.001gまで測定可能)を用いてこの♂たちの体重を測定してみたところ、何と1gもありません!1円玉よりも軽いのです。これは今後どんどん体重が増えるぞ、とほくそ笑みながら、捕獲を続けました。ところがガーン、いっこうに体重は増えませんでした。というより見かけの成熟期と成熟期の個体の体重は全く差が見られません。当初の飛翔筋の増加や精巣が発達する期間との予想はもろくも崩れ去りました。ジャー何なのこの期間は😡
                                                             
                                                                                                                                                                                       最初の飛来後、新たな個体が池に飛来することは殆どない?
 もう一つ、気になったことがあります。最初、マダラヤンマを捕獲した池は通常多くて4頭がホバリングするキャパの池です。ここで4頭を採って、2頭を振り逃がしました。4頭体重を測った後、夜にガマの下茎に戻しました。ところが、最後の個体を採った翌日から、この池には1頭も見られなくなりました。慌てた私は直ぐ近くの池でも同様に♂を捕獲して体重を測りました。しかし、この池も同様に全くマダラヤンマは姿を見せなくなってしまいました。今現在、この2つの池にはマダラヤンマが不在です!
 最初の池は冬季にカラカラに水を干してしまうので、マダラヤンマが羽化することはありません。2つ目は多分、羽化はしている可能性はあります。いずれにしても2つの池には、8月中旬に最初に飛来したマダラヤンマしかいなかったということです。ギンヤンマのように採集すれば、翌日にはまた別の新たな個体が入ってくるということは、どうもなさそうなのです。これは意外でした。こんなことがあるのでしょうか?福島特有の現象なのでしょうか。

つづく

 10月1日投稿

ヨシ原依存型ヤンマ
 この時期は成熟期後期と言っても良いと思います。さすがに朝夕の気温の低下は著しく、すでに夜明け時で20℃を上回るようなことはありません。大体本種の活動開始は19~21℃(福島では)なので、この時期は9時を過ぎてからの活動開始となります。12:30あたりまでは活動しますが、以後ほとんど活動する♂は見られませんし、黄昏飛翔もありません。日中の活動もヨシ・ガマ原内部の狭い範囲内でホバリングを交えた飛翔を観察することはあるのですが、そのテリトリーの維持は長くて1分、たいてい数秒から数十秒です。そしてヨシ・ガマ原広く飛び交う様にして視界から消えてしまいます。ヨシ原には数頭の個体がいるようですが明確なテリトリーや行動範囲は認められません。

 このためもう一度、これまでの観察記録をひっくり返して見てみると、本種の生息はヨシ・ガマ原と深く結びついていることがあらためて認識できました。ある一定の大きさ以上(良く分かりませんが、30×30mくらい)のヨシ・ガマ原を有する池沼でないと生息せず、最初の飛来個体は理由は分かりませんが、しばらくその中で過ごすことはまちがいないようです。これまで本種は繁殖期に入ってからも水域にギンヤンマがいると、激しく排除され水域に出て繁殖行動ができないと言われ、私もそのように感じていました。水域に出ていった個体がギンヤンマから激しく追い立てられている姿を何度も確認していましたから。そしてギンヤンマの圧力が(個体数が減る)軽減する9月中旬以降になると積極的に水域で繁殖行動を行うものとして理解していました(ただ、はたして生息地となる池に飛来後,混生する大型ヤンマ類によって開放水域に入れないことが原因で生殖行動が遅れることが本当にあるのだろうか、という疑問はあったのですが)。

 2021年、そして今年も、従来の説をくつがえすような本種の生態を垣間見る事態が生じました(以前のブログにも紹介しました)。なぜか、ギンヤンマが姿を全く見せない状況が続いたのです。にもかかわらず本種は9月中旬の繁殖時期になっても開放水域にほとんど出てこないで、ヨシ・ガマ原内部で行動し、時折開放水域に出てきてテリトリー飛翔したり探雌飛翔をおこなったのです。もちろん水域内でも交尾・産卵も確認できました。その後、上述のように発生後期になっても基本的に本種の行動はヨシ・ガマ原内部であって、ますます開放水域には出てこなくなりました。

 これまで言われていた、マダラヤンマは大型ヤンマ類による排斥行動によって、本来繁殖域であるべき開放水域に出ていくことができず、それらの個体数が減るとようやく解放水域で繁殖行動を行うようになる。ではなく、最初から開放水域が繁殖の場ではなくヨシ原内部が繁殖域であったにすぎず、他の大型ヤンマが居ようが居まいが関係なく、水域に出ていく頻度はあまり変わらないのだという考えが今年の観察でますます強くなりました。
 本種は明らかにヨシ・ガマ原がなくては生息できない、ヨシ原依存型の生態を有する典型的なヤンマだと考えられます。これは同様にヨシ原に見られるアオヤンマにも通ずるところがありますが、全く同じとはいえず、本種の方が、よりヨシ原への依存度が高いのだと思います。
 そして、この本種特有の生息地選択性を見た時に、ヨーロッパマダラヤンマとの違いに気が付くのです。

つづく
 



























































ミルンヤンマ、アオヤンマ、ネアカヨシヤンマ、そしてヤブヤンマの学名が変更になった!

(このブログはパソコンで読んでください。携帯では文字化け行づれが起こります。)  先ごろ行われた日本トンボ学会で、トンボ界を代表する若い講演者がクイズ形式で最近のトンボ事情を面白おかしく発表されました。その中にミルンヤンマの学名変更の話があったような気がしました。あまり事の重大さ...