2021年11月20日土曜日

晩秋のアキアカネ Sympetrum frequens (Selys, 1883)

暖冬?温暖化? 

 アキアカネ Sympetrum frequens (Selys, 1883)がまだまだ活発に産卵しています。最近(いつからこうなったのかは分かりませんが)福島県中部でも、12月になっても生き残っていることが多く、明らかに生存日数が2週間ぐらい伸びていることになります。ということは、福島県ではだいたい6月下旬に羽化しますから、アキアカネって5ヶ月以上も生きているんですか?ちょっとこれはどうなのでしょう。今時点でもアキアカネの個体数は決して発生末期とは思えないほど多く、5ヶ月間の累積死亡率から考えても、個体数は相当少なくなっていなくてはならないはずです。しかしアキアカネの場合は別で、考えられないような低い死亡率で長期間乗り切ってきたとでも言うのでしょうか。本種の羽化期間は長いのですが、それにしても数があまりにも違います。何か本質的なことが隠されているような気がします。
 11月19日、今日も快晴で、久しぶりにアキアカネを撮りに須賀川市新井田に出かけました。昨晩は零下近くにまで気温が下がったのですが、どうでしょうか。
                    
    
                     
                   アキアカネを観察した雑木林と周辺の水田            

 写真の奥の雑木林がアキアカネのねぐらです。時間は9:30です。気温は12℃、アキアカネたちは次々に林の南側の日当たりの良い斜面や農道に降り来てます。すでに活発に飛翔し、雌が降りて来るとすかさず雄たちがとらえようと殺到します。空中でカップルになった雌雄はすぐに交尾態となって近くの地面に降り立ちます。数例交尾を観察しました。いずれも降りてきた雌がすぐに雄に捕捉されて交尾に至ったものです。空中で交尾態になったものの、他の雄がアタックして交尾をほどき、そのまま連結態で飛び去るカップルもありました。どうも朝ねぐらで目覚め、活動開始の直後に交尾するようです。
                     
                   農道で交尾するペア

 ここで、一つの疑問が出てきます。水田地帯のアキアカネの交尾は普通、産卵場所に連結態になったペアが飛来して、産卵場所で2,3回産卵様行動(疑似産卵ともいうようです)を行った後に、その場所が気に入った場合のみに、その周辺に降りて交尾するのを良く見ます。おかしいですね。上のように、朝すでにねぐら近くでほとんどのカップルが交尾はしているのに、またすぐに同じ雄と産卵場所で交尾するのでしょうか?
                     
                    産卵場所の水田で交尾するペア

 それと、気になるのは、連結ペアは産卵場所に飛来して、産卵様行動を行った後、ほとんどのペアは交尾・産卵をおこなわないで飛び去ってしまうことです。何が気に入らないのか不思議です。しかし、気温が高くなるにつれ今度はどこからともなく多数の個体が産卵におとずれるのです。もちろん交尾するペアも多くなりますが。さらに不思議なことに、ねぐらから産卵のために飛び立つ方向、あるいは産卵場所の水田に飛来してくる方向は皆同じ。反対方向に飛んでいくものはありません。なぜ、一定方向に皆が飛ぶのでしょう。その先には何があるのだろうと考えてしまいます。市街地のど真ん中でも、連結アキアカネの集団をしばしば観察することがありますが、全てが一定方向に飛んでいきます。いったい、これらはどこから来て、どこへ飛んでいくのだろうと。
                      
                産卵飛翔するペア. 雌の翅はボロボロで体は薄汚れている
  
              別のペア. 老熟個体の色彩は産卵初期の頃とはまるで異なる
                      
                     産卵初期の10月上旬のアキアカネ
                    
                                                          
                     産卵に勤しむペア
                             
                    雌が完全に疲れ果て飛べなくなった
                        
                      それでも雄が引き上げる

 この日、14:30になるとほとんどの個体は水田から姿を消し、雑木林のある丘陵地に戻ってきました(多分もどってきたのだろう)。林縁の日の当たる南斜面に多数の雌雄が入り混じって止まって、陽を浴びています。時折個体間の干渉で飛び上がりますが、すぐに止まります。落ち葉や地面に直接止まる個体も多いですが、枯れ木には多数の個体が集中します。15:00で15℃でした。15:20を過ぎると樹上高く飛翔する個体が出始め、それらは次第に個体数を増していきました。多くはそのまま、まだ落葉しないコナラの梢に姿を消しました。アキアカネは止まっていた場所から飛び立ち、最初ゆっくりと、ホバリング気味に周囲を飛び回ります。それは次第に飛翔範囲を広げ、さらに高度を上げてかなり高所のコナラの葉に止まりました。地上の個体が全て樹上に上がったのは15:55でした。こうしてアキアカネの一日は終わりました。
                                                                               
                               一日の終わりに日当たりの良い、 ねぐらの林縁に集まるアキアカネ. 5頭飛んでいる
                         
                   斜面の土が露出した部分に集まる      
                          
                          
枯れ木に花?10頭ぐらい集まっている

 アキアカネは日本人に最も身近なアカトンボです。しかし、その生態についてはまだまだ分からないことが多くあります。特に成虫の移動や配偶行動など解明しなくてはならないことが多々あります。
 アキアカネの行動はダイナミックな面があり、簡単にその全貌を知ることは困難でしょう。しかし、少しずつ数量的な記録を集めることが必要だと思います。ほんとにこのトンボには不思議なことが多いです。なかなか手ごわい、最も身近なトンボです。

追 12月10日、午後14:50にまだ3雄が元気に飛んでいました。気温は9℃でした。12月17日、午後14:10、気温14℃、まだ健在、数頭が生き残っていました。この場所より3.5km離れた最も近いアメダスの記録で10日から17日までの8日間を見ると、最低温度が零下だったのは6日あり、その間の平均気温は4.7℃でした。かなりアキアカネにとっては厳しい気象条件で、良く耐えるものだと思います。アキアカネの終見日なんかには感心が無かったので、今回、郡山で実際に調べてみて、こんなに遅くまで生き残こることに驚きました。


 


 







                   

2021年10月21日木曜日

アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma Selys, 1883、驚異の飛翔能力

驚異の飛行術 

 福島県におけるアオヤンマ Aeschnophlebia longistigma Selys, 1883 の生息地は会津坂下町、会津若松市、磐梯町、北塩原村など会津地方と浜通りの相馬市に限られていていますが、近年、生息地が特に猪苗代湖周辺で広がっているように思います。かつては確認できなかったような池沼で、本種がかなり発生していたりすることがあります。アオヤンマが属する Aeschnophlebia 属には全部で3,種が知られていましたが、最近は本種とネアカヨシヤンマの2種のみに整理されています。国外では中国、朝鮮半島およびロシアの限られた地域にしか分布していません。
             
     本種の羽化時刻は早く,22:00前から始まり早朝にも見られることがある (7/7/2020 相馬市)

 アオヤンマの魅力は何と言っても圧倒的な質量感。そしてヤンマには珍しい鮮やかな緑(青色)の体色だと思います。さらに私の場合はその独特の飛翔に魅せられます。あんなにでかい体なのに良くもまあ、密生するヨシの群落内を器用に飛ぶものだと。雄はどのように飛び回っているのか全体像は分かりませんが、探雌行動は明らかに飛翔するコースが決まっていて、でたらめにヨシ群落内を飛ぶことはありません。やはり、ヨシが風などで帯状に倒伏したようなところや、ヨシ原の外周など、さらに人が歩いてできたヨシ原内の踏み跡などを好んで飛びます。しかし、必ずヨシ群落の中に入り込みながら雌を探します。また、ヨシ原の上を飛んでいた個体が翅をすぼめて、ストンとヨシ原に飛び込む姿を目にすることもあります。
                     
 
          何とかフレーム内に収まったアオヤンマの探雌飛翔 (27/7/2018 相馬市)
                                                              
  
                                                                                                   
 
                                                       探雌飛翔( 6/8/2021 相馬市)

 密生したヨシの茎や葉を避けながら飛ぶだけでも、集中しなくてはならないのに、雌を探すことも同時にこなしているのは驚くべき飛翔能力です。
 近年、超小型飛翔体 MAV(Micro Air Vehicle)の研究が盛んに行われていて、特に軍事部門で研究・開発が進んでいると聞きます。もちろん小型ドローンなどプロペラ浮揚・推進の飛翔体はあるのですが、このMAVは主に昆虫のように超小型羽ばたき飛翔するものを対象とするそうです。そしてそれらの研究対象として、トンボの飛翔メカニズムの解明が急速に進んで、多くの事柄が明らかになってきました。
 それらを見るとトンボの飛翔、特に羽ばたきの機能には大きく2つ特徴があって、翅を上下に動かす運動(フラッピング)と翼をねじる運動(フェザリング)があるそうです。トンボの翅は御存じのように翅脈とその間を埋める薄い膜からなっています。その中でも特徴的な構造として、縁紋と結節があります。一般に固定翼の場合、高速で飛べば飛ぶほど空気との摩擦によって翼面に振動が発生し、しまいには翼を破壊するほどの異常振動となります(フラッター現象)。フラッター発生を抑えるために、飛行機は翼構造を強化したり、壊れやすい補助翼などにマスバランスと呼ばれる重りを装着してフラッター破壊を防ぐ対策をとっています。写真は旧日本海軍の零式戦闘機21型に装着されているマスバランス(赤矢印)を示しました。ジェット旅客機などはエンジンそのものの重さがフラッター防止の役目をはたしているそうです。
                   

 トンボにおいても高速になるとフラッター現象が起き、その防止に縁紋の存在があって、高速飛翔を可能にしているとのことです。しかし、これはトンボを模した大型の固定翼を風洞内で実検したもので、実際のトンボの飛翔の動きを再現した状態でおこなったものではありません。また実物大での検証もほとんど行われていないようです。縁紋についてはもっと違う機能があるのではないでしょうか?良くあるトンボの飛翔について翅の動きをスローモーションで写した画像を見ると、縁紋はフェザリング時の翼端補強と共にフェザリングがスムーズに翼端から始まることに重要な役割をはたしているのではと思えるのですが。どうなのでしょう? 
 一方、結節ですが、これはより自然にフェザリングが起きるための機能を持つと言われています。トンボの翅(不均翅亜目)では基部から結節までは前縁のリブを除けば3本が多く、一方結節から先端部は2本、しかも細くなる。この結節がわずかに折れ曲がる構造によって翼端からねじれが自然に発生して強い揚力が生じるとされます。
 このようなことを踏まえて改めてアオヤンマの翅を見てみると、いろいろ特徴がみえてきます。
                     
                              アオヤンマ♂(左)とルリボシヤンマ♂(右)における結節(赤三角)の位置の比較
          基部から結節までと結節から翼端までの長さの比を示した.アオヤンマの方が結節の位置が    
            翅の内側にあり、後翅ほどその傾向が強い

           アオヤンマの翅の機能 フェザリングを起こす部分は後翅がより広い

 アオヤンマのヨシ群落内部の飛翔のスピードは大変遅く、体を前後左右に傾けながら翅を時には完全にたたむようにして密生するヨシの間をすり抜けます。ホバリングの場合は翅の運動周波数は高くなってフラッピングの揚力の割合が高いでしょう。しかしヨシ内部のすり抜け飛翔の場合はホバリングはせず、非常に低速で飛び抜けますので、フラッピングよりフェザリングの揚力が重要になると考えられます。
 よりフェザリングによる揚力を得るためには、結節から翼端にかけての翼後縁部の面積が大きくなくてはなりません。そのためにアオヤンマは結節の位置がヤンマ類の中では際立って前縁中央より内側にあることで翼面積を大きくしているのだと思います。さらに前縁にはより大きな負荷がかかるので縁紋が細長く大きくなって補強の役目をはたしているのではと考えられます。しかし、翼の構造から得られる揚力だけで密生するヨシ内部をすり抜けるように飛ぶには不自然さが残ります。
                    
              アキアカネ前翅における翅胸背面の構造 A:humeral plate B:axillery plate
                                               a: 前縁脈 b: 亜前縁脈 c: 径脈+中脈 d: 肘脈
 
 アキアカネの翅で見てみます(アオヤンマを採集しなかった。失敗!)。humeral plate からは 前縁脈 と 亜前縁脈が、axillery plate からは 径脈+中脈 と肘脈が繋がっていて、それぞれのプレートが独立して動くことができます。humeral plate は上下運動だけでなく、前縁脈を強くねじり下げることができます。一方、axillery plate は径脈+中脈 と肘脈を上下に動かすだけでなく、全体を強くねじり下げることができ、この運動で極めて大きなフェザリングを得ることができるでしょう。翼の付け根の特定の筋肉が独自に翅脈を動かして、結節機能による揚力に加え、より大きな、そして状況に応じて機敏で微妙なフェザリングを自在に起こしているのだと思います(これはアオヤンマに限ったことではなくトンボ全般の特徴として)。この機能をフルに使わなければ、結節機能から生まれる揚力だけでヨシの間をすり抜けることは出来ないのではないでしょうか。
 他種には見られない独特の飛翔を行うアオヤンマは、この特殊飛翔を行えるよう翅の構造が他のトンボ類にはみられない独特の構造に進化したと考えられます。そして、それを支える大きくがっちりした胸部の強靭な飛翔筋の存在は、同時にあの太い腹部の構造と重さを必要とし、腹部が胸部の飛翔時の振動を相殺しているのだと思います。
                      
                フイルム時代に撮った交尾 (7/8/1990) 会津坂下町袋原
                      
                       
                     
     
アオヤンマの産卵は生きた植物組織に行われるのが普通だが、上は枯死した竹の枝に産卵しようとしている
                   28/7/2018 相馬市








 

2021年10月14日木曜日

ハッチョウトンボ Nannophya koreana Bae, 2020の配偶行動

 かわいらしいハッチョウトンボ Nannophya koreana Bae, 2020

 ハッチョウトンボは時折新聞に登場しては話題を振りまくなど、意外にこのトンボの名前を知っている方は多いのではないでしょうか。なにしろ小さくて可愛い姿は、初めて見る人にとって、深く印象づけられることでしょう。福島県では全県下に、海岸近くから高山の湿原まで広く分布していますが、生息地はむしろ限られるように思います。  

         繁殖域である開放水面から離れて活動する若い雄 (29/6/2018, 会津若松市)        
                                                                   
                                                  ほぼ成熟した雌

 福島県では6月上旬から8月下旬までが成虫の発生期で、生息地での個体数は多く、発生中期の7月下旬には未熟から成熟した個体まで入り混じって観察されます。県内におけるハッチョウトンボはいろいろな環境の湿地に生息しますが、中でも長年にわたって湿地の環境が保たれているミズゴケ湿原・湿地では毎年安定した個体群を観察することができます。
 本種は体がわずか体長が20mm程度で、活動域も狭く、観察エリアはコンパクトにまとまっていています。この中で、多くのトンボ類に共通する生態をいっぺんに見ることができます。
 とっておきの本があります。少し古い本ですが、東和敬・生方秀紀・椿宜高氏による「トンボの繁殖システムと社会構造」(東海大学出版会)という本があって、この中にハッチョウトンボの生態について研究された内容が詳しく紹介されています。実は今日、私たちが知ることができるハッチョウトンボの生態は、この本に全て解説してあると言っても過言ではないのです。
                      
                     
                  未熟な雄とやや黒化した雌
 
 本の中でハッチョウトンボを担当した椿さん(元京大教授)によると、
 1 本種の雄は朝8~9時頃水域にやって来て、縄張りをはる。
 2 雌は晴れた日の12時をピークに水域に飛来する。
 3 縄張りを張る雄と縄張りを持たない雄(非縄張り雄)が居る。
 4 体の大きい個体が縄張りを独占する。
 5 縄張りは決まった場所に形成される。
 6 縄張りはランクがあって、上位ほど体の大きな雄が占める。
 7 上位の縄張り場所ほど占有者の入れ変えが激しい。
 8 下位の縄張り場所ほど 自発的放棄が多い。
 9 上位の縄張り場所ほど交尾頻度が非常に高い。
10 上位の縄張り場所ほど非縄張り雄の侵入が多い。
11 非縄張り雄は上位縄張り場所に積極的に侵入して縄張り雄の眼を盗んで交尾する。
12 縄張りの乗っ取りはより若く大きな雄によっておこなわれる。
13 大きな雄ほど交尾回数が多い。
14 雌の産卵場所の選定は縄張り上位の場所と一致する。
15 雄の産卵警護行動は雌の縄張り内からの飛び去り防止の意味が強い。

 と、ハッチョウトンボの配偶行動がそれぞれ詳細に解説されています。これを読むと、ハッチョウトンボの撮影をしていて、思い当たる事柄がたくさんあります。ああ、これが椿さんたちが述べていた非縄張り雄たちなんだな、とか。この場所での交尾は縄張りを持たない雄がうまいことやったのだな、とか。
 この本はトンボ類の生態で重要な部分を占める配偶行動について、多くの示唆を与える内容になっています。特にこのハッチョウトンボの部分は、他のトンボ類の研究や観察をする際の参考になるものです。さらに他の章も非常に重要なことがらを含んで、トンボなのに、なぜか私たちの生活や社会のそれとだぶって見えてしまうのは私だけの印象でしょうか。
 この本は特に若い方々にぜひ読んでもらいたいと思います。内容的に難しい部分もあるのですが、参考文献と付け合わせして読破して欲しいと思います。
                    
               縄張り内で雌の飛来を待つ (15/6/2018) 会津若松市
                     
 非縄張り雄が縄張りが張られた水域に侵入して、縄張り雄のスキをついて雌を捕らえ、周囲の草原に移動して交尾する例
                      
       縄張り雄が縄張り内に飛来した雌を捕らえて交尾した. 縄張り雄の交尾頻度はとても高い
                     
         交尾後産卵に移った直後、ライバル雄が産卵中の雌を捕らえようと縄張り雄に挑む
                     
             縄張り雄が侵入雄を排除して雌を警護する
                          
                        産卵を見守る縄張り雄

           産卵に疲れ、休む雌を監視して縄張り内に留めようとする雄

                 縄張り雄の監視のもと再び産卵に飛び立つ雌


 
 













2021年9月11日土曜日

市街地のカトリヤンマ(その2)このページに10月まで随時画像、記事の追加掲載あり

 ことしも飛んだコンテンポラリーなカトリヤンマ

 昨年、郡山市中心部の文化施設の脇でカトリヤンマを発見したことをこのブログに載せました。しかし残念ながら、その後も写真に撮ることができずにいました。今年になって満を持して数回水路でヤゴ採集を試みましたが、ヤゴは全く得られませんでした。こうなると本当にカトリヤンマは居たのかと疑心暗鬼になってきます。
 9月9日、夕方、昨年複数の個体が黄昏飛翔した場所に向かいました。マンションの明かりがまぶしく、こんな所だっけと不安になります。17:50にヤンマが飛び出しました。最初は何とマルタンヤンマ雌が複数飛び、仰天しました。郡山市初記録です。東京の石神井公園でも多数見れるとのことですから、郡山市市街地にいてもおかしくはないのですが。それにしても何でマルタン?そしてその後暗いブルーグレイの空に、飛び交う複数のヤンマが現れました。そのシルエットから間違いなく、それはカトリヤンマでした! 同時に飛び交うコウモリに交じって盛んにトンボ返りをしています。確信を得た私は9月11日午後、昨年確認した雄が必ず飛ぶポイントへ行ってみました。するとカトリヤンマがいきなり現れて探雌飛翔するではありませんか!その雄はフラフラと茂みに消えました。後を追うと暗い茂みの下枝に静止している姿を運よく確認することが出来ました。しかし枝が邪魔で良い位置につけません。まごまごしている内に飛ばれてしまいました。ところが、すぐそばに別のオスがこれまた面倒な位置に止まっています。なんとか身を低くしてアングルファインダーで確認しながら撮影しました。郡山市のカトリヤンマを初めて鮮明 (?) に捉えた瞬間でした。
 これ以降の観察についてはこのページに順次追加掲載していきたいと思います。

         カトリヤンマが黄昏飛翔する空域(赤枠内), 公園の林にできた小空間 
    
          ごみのように見えるのがカトリヤンマ、3頭写っている
                         
茂みに潜り込んで休む雄 まだ若いか?( 11/9/2021, 郡山市市街地内)

庭園のモミジの枝に止まる雄 (12/9/2021 同)


 最大の案件はどこで配偶行動をしていて、産卵はどこにするのかです。てっきりこの水路にするのだとばかり思っていましたが、当てが外れました。さて、そうなると見当がつかなくなってしまいます。どうするか、しばらく頭が痛いかも知れません。

9月13日の観察
 午後1時頃、カメラを下げ散歩がてら行ってみました。例のポイントに陣どって飛来してくるカトリヤンマを待ちました。すると13:18に雄が探雌飛翔してきました。さらに14:21に同じく探雌飛翔してきた雄が、目の前でエノキの細枝に止まろうとしましたが、スズメバチが近くを飛んで、この雄はびっくりしたのか飛び去ってしまいました。その後飛来は絶えて、私も待ちくたびれて、今度は施設の駐車場と隣り合う別の施設の間にある水路沿いを、ヒイラギの垣根を棒で叩きながら歩ってみることにしました。歩き始めてすぐに、高さ2mほどから、何と雌が飛び出しました。雌は昨年、最初に見て以来です。やっぱり居ました。そしてついに。もう一叩きした時、念願の交尾態のペアが飛びだしました。ペアは1mほどの高さを重そうに飛び、すぐに近くに止まりそうでした。水路の反対側に施設の中庭があって、その中の低灌木に止まりました。千載一遇の機会です。そっと近づきました。が!居ません、あれ?確かにこの辺に、、、いくら探しても見当たりません。不思議です。とうとうこのペアは見つかりませんでした。しかし、今日は大きな成果がありました。雌の再発見、そして交尾の確認。昨年以来、雄が伊達に探雌行動していたわけでなかったのです。確かにこの場所で繁殖行動をしていたのです。そうなると、一気に、この水路が発生地である可能性が出てきました。

      ピンボケですが、スズメバチに驚いて飛び去る雄 (13/09/2021, 郡山市市街地 )
 
                                     駐車場脇の3mほどのセイヨウヒイラギの垣根に休む雄  (14/09/2021 同)

 9月15日、昼少し前に行って見ました。着くなりカトリヤンマが探雌飛翔しています。どうもこのパターンが多いので、あるいはこの場所がカトリヤンマの休息場所になっているのかも知れません。休んでいた雄が人の気配で飛び立った可能性があります。
 この観察場所は手前に幅2mの水路があって、カトリヤンマが飛翔したり静止するのは水路の向こう側にある生垣で、近寄れずアップで撮ることができません。探雌飛翔なら手前も飛ぶことがあるので全く撮れない訳ではないのですが。しかし、観察を続けて気になることは個体数が非常に少ないことです。大体1時間に1頭の飛翔ですから雌や交尾を見たとはいえ、まだ見逃している本当の発生地があるかも知れないと、少し周囲を歩いてみることにしました。施設の表側は幹線道路に面していて大きな交差点もあって交通量が非常に多いところです。まあ、こんなところには居ないだろうと、駐車場わきに植えられたヒバの並木を見てみると、何と雄がしっかりと探雌飛翔しているのを発見しました。さらに少し奥まった庭園側の木立に止まっている雄を見つけ初めてアップで雄を撮影することができました。この場所には水域と呼ぶべきものは全くないのに、雄たちはかなり広範囲に活動しているようです。探雌飛翔するからには雌も多分居るんでしょうね。彼らの行動を見ていると何か普段のカトリヤンマとはどこか違った印象を受けます。
                      
                    
         暗い垣根に沿って探雌飛翔するカトリヤンマ雄 (15/9/2021)
                                                                          
           施設の表側 駐車場脇のヒバの植え込みに沿って雄は探雌飛翔した. 奥に見える木立に雄が止まっていた
            
            
ムクゲの枝に止まる雄

 9月19日 10:00から観察を開始、例によってすぐ雄が探雌飛翔をおこないました。写真はやめて雄を追います。雄は2mほどの高さの植え込みや垣根さらに植栽されている5mほどのコナラやモミジなどを次々に訪れては枝先を覗いて熱心に雌を探します。この飛翔は延々と続き、とうとう幹線道路に出て、今度は街路樹のヤマボウシの木を次々に飛んでは雌を丹念に探します。どうもいつものポイントは単に通過点、休息場所に過ぎなかったようです。車や人の往来など介する様子もなく、雄はどんどん探雌飛翔を続け、やっと街路樹が切れる地点でビルの間に姿を消しました。後でグーグルアースで見てみるとこの飛翔だけで410mの距離がありました。どうもこの連中は思っていたよりはるかに行動域が広そうなことが見えてきました。かれらにとっては市街地はまさに人工の森なのかも知れません。都市に適応したカトリヤンマなのでしょうか。
                     
           ツバキの垣根に沿って探雌飛翔するカトリヤンマ雄 (19/9/2021)  

 9月21日、いつものように昼過ぎにいつもの茂みに行って見ました。すると2頭のカトリヤンマが飛び出し、それぞれが再び別の場所に止まりました。雌と雄です。初めて雌を撮ることができるかも、と心臓が高鳴ります。しかし雌が止まったのは残念ながら高所で、私のカメラで鮮明に捉えることはできませんでした。一方雄は水路に低く張り出したエノキの枝先に止まりました。最高の位置です。
  
               水路奥の茂みがカトリヤンマのいつもの棲家

                    高所のヒノキの枝で眠る?雌
                                   
               エノキの下枝で眠る雄 ( 1時間20分この体勢でいた)
     
                          
              施設裏の駐車場脇の茂みに休む雄 (21/9/2021)

 
こうやって見ると、やはりこの水路が繁殖の場のように思えてきます。毎日、観察の結  
果から、考え方が二転三転しますが、雌もいるしなあ。
 いずれにせよ産卵の確認がどうしても必要なのを痛感します。はたして本当にここのカトリヤンマはコンテンポラリーなカトリヤンマなのか、それとも否か、その時その結論が出ます。

 9月30日、久しぶりにカトリヤンマはどうなったか、午後4時に愛犬の散歩がてらカメラを提げていつもの茂みに行って見ました。相変わらず茂みの下枝に2個体が止まっていました。暗くて奥の個体の性別が分かりません。しかし犬が騒いであっという間に飛ばれてしまいました。しかたがないので黄昏を見てみようと、時間稼ぎに周辺を歩ってきました。時間は17:30。居ました居ました。複数のカトリヤンマがマツの梢にまとわりつくように小昆虫を捕食しています。高所だけでなく、地面すれすれに飛ぶ個体もあり、何か大きな獲物を狩ったようで、上下しながら狭い範囲を飛び回ります。暗くて良く分かりません。あいにく70-300mmのズームレンズ装着のカメラしか持っていませんでしたので、ピンボケの写真になってしまいました。どうやらアキアカネを捕えたようです。
                    
          薄暗くなった空を盛んに摂食行動するカトリヤンマの雌 (30/9/2021)
                                                                         
  

                  アキアカネを捕え、飛びながら食べている雌. 












           












ミルンヤンマ、アオヤンマ、ネアカヨシヤンマ、そしてヤブヤンマの学名が変更になった!

(このブログはパソコンで読んでください。携帯では文字化け行づれが起こります。)  先ごろ行われた日本トンボ学会で、トンボ界を代表する若い講演者がクイズ形式で最近のトンボ事情を面白おかしく発表されました。その中にミルンヤンマの学名変更の話があったような気がしました。あまり事の重大さ...