2026年5月12日火曜日

越冬3兄弟

 先に、いわき市のムカシトンボが生息する渓流わきで、オツネントンボとホソミオツネントンボを多数確認し、さらに県内では最近になって記録が出始めたホソミイトトンボまでもいたことを述べました。この状況なら中通りの郡山市にもすでに分布を広げているのではと、家から自転車で10分のところにある溜池に行ってみました。最初に目に入ったのがホソミイトトンボの連結ペアでした。なんだ、ちゃんと居るではないですか!さらに注意して周囲を見渡すと、そこそこの個体が確認できました。ウーン、いったいいつ頃から居たのだろう?全く気が付きませんでした。

                                                                                           

                                                    灯台下暗し、目と鼻の先に居たとは!

 ホソミイトトンボは東南・南アジアを中心に30種ぐらい同属種がいて、多くが平地の止水域に極々普通に見られるトンボです。一方、このグループは同定が非常に難しくて、実際ラオスからも数種を記録していますが、同定には二の足を踏んでいました。そんなこともあって、正直最近まで日本のホソミイトトンボにもあまり関心がありませんでした。


 この時期に池でみられるのは御三家以外ではアジアイトトンボしかいません。朝一番に現れるのはオツネントンボで、次にホソミオツネントンボになります。ホソミイトトンボは 9:00 を回らないと出勤して来ません。結構敏感で、撮影しようと近づくとすぐに飛ばれてしまいます。
 しかし、数ある Aciagrion の仲間でなぜこのホソミイトトンボだけが、突出して高緯度の地域に生息しているのか不思議です。しかも成虫で越冬するなんて。
 ロシアのトランスバイカル地方からは Aciagrion hisopa  が記録されていました。このトンボは本来、インドや東南アジアに分布するトンボです。ですからなぜロシアなんかにいるのかという疑問は、当のロシア人研究者の多くがもっていたようです。最近、この問題は Oleg Kosterin 氏らによって追究されて、A. hisopa はホソミイトトンボの誤同定であったことが明らかになりました。またロシアにおけるホソミイトトンボの生態も分かって、それは日本のものとはちょっと異なるようです。
 レポートによればロシアの生息地は乾燥地帯にある非常大きな湿地で、周囲に森林は全くありません。ホソミイトトンボの生息は湿地の水生植物に依存しているそうです。またシベリア地方の冬季間の気温は-30℃以下になり、日本とはその厳しさは比較になりません。日本では一般に平地・丘陵地帯の樹林内の樹木の枝や草むらの枯葉に静止して冬を越すといわれていますが、日中気温が上昇すると飛び回ることもあります。しかしロシアでは自ら雪に埋まるところで越冬し、雪によって外気との接触を断つと共に、雪の保温効果を利用して厳冬期を乗り切ることが報告されています。
 なぜここまでして、過酷な環境に進出するのか?ロシアの研究者たちはその謎をAciagrion 
属のDNAを調べることで答えを見出したいようです。
 
 個人的な話になりますが、この  Oleg Kosterin 氏はロシア中部、シベリアの入り口となる要衝ノボシビルスクの大学の生物学の先生です。彼はトンボの分類分野では世界的な研究者で、分類学上極めて重要な論文を多数発表しており、彼の動向には常に目が離せません。以前はカンボジアのトンボを精力的に研究されていて、私がラオスのトンボをやっていた関係で良くメールを寄こしていました。また、共著でカンボジアからアジアサナエの新種を記載したこともありました。その時分かったのですが、ロシア人は記載文にもかかわらず、不明な点や関係することがらは徹底的に明らかにして、それを論文に取り入れることにこだわります。ですから文章が何というか記載に直接関係ないことがらにも波及して膨れてしまい、記載文なのに大論文風(大げさに言うと)になってしまします。彼からのメールが来ると、1回の文章量がものすごく多くて、気が重くなるぐらいでした。
 彼だけがそうなのかと思っていましたが、他分野の方がこれはロシア人研究者の特徴なのだと言っていました。
 ボシビルスクの大学は今、ウクライナ戦争の影響で学生の強制徴兵がすさまじく、勉強や研究どころではなくなってしまっているそうです。
                      
                           
                                                                                         
                                                                                         
                                                                                          
                                                                                           
                                                        郡山市のホソミイトトンボの姿 (11/Ⅴ/2026)       
                          
                                                                                               
                          オツネントンボもまだまだ元気、集団産卵の写真は以前虫の会のブログで使ったもの
                          
                           
          ホソミオツネントンボはここ郡山市でもオツネントンボから10日ほど遅れて飛来する


   
参考にした文献
Kosterin, O. E., (2005): Dragonflies (Odonata) of the Daurskii State Nature Reserve and its  
   surroundings.  Insects of Dauria and Adjacent Territories, Issue 2; 5-40.

Oleg E. Kosterin & Elena I. Malikova (2019): Check-list of Odonata of the Russian      
  Federation.  Odonatologica 48 (1–2): 49–78.

2026年5月3日日曜日

ムカシトンボの季節 (越冬トンボ御三家)

 今年のサクラの開花は異常に早く、西会津町だと10日以上も早く開花したところもあったようで、 ギフチョウの観察タイミングも難しかったと聞きます。さて、ムカシトンボはどうでしょう?4月28日にいつものいわき市三和町の産地を下見に行きました。今年から本格的に風力発電所の建設が始まることになっていますので心配でした。当地に着くなり、ある程度覚悟はしていたとはいえ、広範囲にわたる伐採でかつての林道の面影は全く失われており愕然としました。さらにひっきりなしにダンプカーや建設関係の車両が行きかっていて、とても観察が行える状況でないことは明らかで、もうここはダメだと思いました。良いところだったのですがね😞

 あらたな観察地を決めるために、急きょ近くの候補地を見て回ることにしました。ムカシトンボは三和町内に広く見られ、ほとんどの沢に生息しています。できれば車で直接乗り付けて、車から楽して観察できる場所はないものか。
                    
                      候補地の林道沿いの渓流
                         
                      この先に支流があって、そこかなあ
                        
                          支流の出会
                        
                         環境は申し分ない
                      
                流畔にはフタバアオイの大群落がいたるところにある

 幸い、そう遠くないところにまあまあの沢を見つけて一安心。これで何とか観察できるといいのですが。一帯での羽化はすでに始まっているはずなのですが、ここでは見つかりませんでした。しかしその一方で、越冬トンボ御三家をこの新たな沢沿いで多数見つけることができました。

                     日ましに緑が濃くなっていく
 
                 ニリンソウの開花が盛期
                        
              渓流沿いの樹々から降りてきたホソミイトトンボが集まる草地

 特に県内ではまだまだ珍しいホソミイトトンボを4月28日に初めて渓流脇の草地で1頭を発見!この個体はほとんど越冬時の体色で、わずかに胸部と腹部先端が淡く水色を呈していました。ところが5月2 日には、同所でさらに見つけた3頭すべてがほぼ成熟したブルーの鮮やかな体色にかわっていました。ホソミイトトンボについてはほとんど知識がなかったので、正直この渓流で見つけた時はびっくりしました。状況を考えるとやはりこの渓流沿い(標高544m)で越冬していることは間違いないようです。このトンボと同じ場所にはホソミオツネントンボがたくさんいました。白河市の例もあることから、ホソミイトトンボと同じく秋には平地からムカシトンボが生息するような山地帯にまで登って来て、なぜだか分かりませんが渓流脇の樹林の中で冬を越すのでしょう。こう考えると、本種はすでに阿武隈高地全域に分布していている可能性があります。今年以降、県内どこからでも記録が出てもおかしくない状況にあると思います。ホソミイトトンボとホソミオツネントンボはほぼ同時期に平地の池に見られるので、多分この後、一緒に山を下るのでしょう。
                    
                    
               ムカシトンボの住む環境で越冬した♂、体色はやや薄いか
                   
 一方のオツネントンボは4月中旬にかなりの個体が見られたのを最後に、すでに山を下ったのか全く観察できなくなっていました。前 2 種より越冬が早く終了するようです。オツネントンボとホソミオツネントンボは1ケ所でかなりの個体数がまとまって見ることができますが、ホソミイトトンボは全部で4頭ほどで個体数はかなり少ないようです。しかし、こんな山地の渓流脇で越冬とは、なかなかこのトンボも面白いですね。てっきり平地周辺の丘陵地の林だと思っていました。 
                   
            この沢では急激に個体数が減って、4月28日には見られなくなった

               ホソミオツネントンボは渓流脇の若いササの葉に集まっていた
                    
                まだ体色が淡く、もうしばらく滞在が続く
                     
                     
     日陰だと色が映えるが、まだかなあ
                    
             ♀は集まって見られ、♂はほぼ単独でメスから離れた場所で見つかる

追 ホソミオツネントンボとホソミイトトンボは 5 月 5 日以降全く見れなくなりました。恐らく繁殖地を求めてこの地を離れたのだと思います。また、同じ日にムカシトンボが初目視(以前の観察地において)されました。
         




2026年2月18日水曜日

原点回帰、長沼への思い

 トンボと私

年をとってくると、なにやら人は昔を懐かしむことが多くなるらしい。97才になった伯母を施設に見舞った時に、ぽつりと、「でも、いろいろ楽しいこともたくさんあったからね。もう思い残すことは無いよ・・・」と。考えれば伯母は施設に入ってから長い。入所後、楽しいことがどれほどあったか、そう思うと、なるほど楽しい思い出の多さは人生の終末期において、残された日々を過ごす中でとても大切な事柄になってくるのだろう。

トンボは僕の生きがいの1つだ。トンボを好きになったのは自然の成り行きだった。母の実家は長沼町だ。家は釈迦堂川の近くにあって、城下町らしく、水路が集落のいたるところに張り巡らされていた。もちろん現在と違って、コンクリート護岸などはない。川岸にはいたるところに水草が茂り、夏にはそうした場所でカジカやヤマメをヤスで突いた。街中でこうした遊びができるところも、子供にとって魅かれるものがあったのだと思う。

遊び場はほとんどが屋外で、従兄と一緒にゴム動力の飛行機飛ばしや、ビー玉やめんこなどに興じ、夏休みは川での水泳に毎日通った。運命の出会いは川で泳いでいる時だった。水面に顔を出したその目の前を大きなトンボが水面すれすれを飛び去った。コヤマトンボであった。もっともこの名前を知ったのはずーとかなり後になってからだったが。

僕はその時のトンボの姿に心を奪われ、この時スイッチが入ったのだと思う。以後毎日、水泳などすっかり忘れて、このトンボの捕獲のために川に通った。なかなか採ることができなかった。ようやく仕留め、指に挟んだトンボをドキドキしながら見たら、その摩訶不思議で、思わず吸い込まれてしまうほど綺麗なグリーンの目玉や、金属光沢をまとう胸部と鮮やかなレモン色の紋。トンボへの興味は一気につのった。

夏休みになると東京から遊びに来た従妹を連れて、良く川にトンボ採りに行った。夏の青い空にもくもくと沸き立つ入道雲。そして彼女のかぶる麦わら帽子と、そこから覗く笑顔。僕はただ黙って一緒に草いきれの立つ田んぼのあぜ道を歩いた。

もう50年以上も前の思い出だ。施設や病院で最後を迎える時、どんな思いがよぎるのか、心に残るやさしい思い出であってほしいと思う。                      

                                             家の前の庭を夕方になると良くコシボソヤンマが通り過ぎた
                            
               大切な思いでの詰まった裏庭、カトリヤンマを見たのもここだ
 

                 初夏の川面を飛ぶコヤマトンボ

                    コシボソヤンマはさすがに今見れないが、当時は町内の水路にもいたし、日中良く家に飛び込んできた








































































2025年10月29日水曜日

スナアカネ Sympetrum fonscolombii の最新の分類学的な位置について

                   
                 夕日を受けて休むスナアカネ 2017.9.19 南相馬市

もう1つの論文 
 文献  A.V. Mglinets et al. ( 2025)では、前回同様に核DNAの分析にヒストンH3-H4領域の配列を用いた系統解析をトンボ類でおこなったところ、この新しいマーカーはトンボの分子系統分類においても有効性を示し、アカトンボ類において新知見を得るとともに既往の研究結果をさらに支持するものになった。と述べています。
 一つ目はキトンボ Sympetrum croceolum  の塩基配列はオオキトンボ S. uniforme  のそれに完全に内包していてキトンボはオオキトンボの単系統的子孫と考えられると述べています。
 もう1つはスナアカネ S. fonscolombii です。本種は他のSympetrum 属の各種から大きく分岐していることが明白に示されました。このことは Pilgrim & von Dohlen (2012) の研究結果と合致していて、スナアカネは アカトンボSympetrum 属から新属に移されるべきだとしています。
 これについてはかつてSchmidt (1987) が、スナアカネは他の Sympetrum 属と違って、移動性が極めて大きく、分布がヨーロッパ、アフリカ、中央アジア、インドさらに一部極東まで広がっていることや、その形態的特徴からTarnetrum 属に移すべきだと提唱しましたが、記載はされていませんでした(最もこの考えは、Pilgrimらの分子系解析でスナアカネがTarnetrum 属に近縁でないことが明らかになって、現在は否定されています)。 
 こうしたことから今回の結果を踏まえて、ヨーロッパの研究者がスナアカネを近々新属で記載することは間違いないでしょう。まあ、とにかくスナアカネはアカトンボの仲間ではない、全くの別物だったということです。
                                                                                               
                                                        参考 ペニスの比較  左:スナアカネ、右:アキアカネ (30倍)
                                                          
 余談ですが、最初にスナアカネはアカトンボの仲間でないと1987年に論文を発表したSchmidt氏 は、Erich Walther Schmidt 博士のことで、当時の西ドイツのボンにあるライン・フリードリヒ・ヴィルヘルム大学の教育学部の教授でした。しかし、2年後の1989年8月に自宅近くで自動車事故によって亡くなってしまいました。博士は独身で、孤高のトンボ学者としてヨーロッパを代表する分類学の重鎮でした。そんな博士は朝比奈正二郎博士と親交が深く、朝比奈博士はしばしば彼の自宅に滞在して、各地の博物館所蔵の標本を調べたそうです。また2人でいる時には夜遅くまでトンボ談義に花が咲いたそうです。博士は意外にも自室にピアノを置き自らクラシック曲を弾くロマンチェストでもあったと言います。彼の死後、その遺言に従って、貴重なコレクションは朝比奈博士に送られ、現在は筑波の科博にシュミットコレクション(マダガスカルのトンボはかなり貴重だと思います)として大切に保管されています。

 ところで、スナアカネの長距離移動についてはかねてヨーロッパで関心が高く、最近では安定同位体比を用いた研究なども行われています。近年行われた水素安定同位体を用いた調査ではロシア・ヨーロッパには春から夏にイランなど南西アジア地域から成熟虫が飛来して、その子孫は晩夏・秋に今度はもとの南西アジア方面に越冬のために回帰飛翔し、それらは2000km、最大で4000Kmも移動すると言います( Sergey N. et al., 2020)。仮に2000kmとすれば、西日本からだと、北はロシアはハバロスクのはるか北、西なら中国北京のはるか西方にあたります。
 本やブログ等によると本種は飛来種で、大陸あるいは南方から飛来すると記述されています。最近は南西諸島では越冬が認められたり、目撃例が増えています、でも南方方面からの飛来と言ってもどこから来るのでしょう?遠くインドシナ半島での記録は多分なかったと思います。香港や台湾での記録も以前はそれ自体が話題に上るほど稀ですから、もしかすると南まわりのルートは可能性は低いかも。ミャンマー東・南部やタイ、ベトナムあたりで多数確認できれば可能性はあると思いますが。どうでしょう?
 Sergeyらの論文のスナアカネの分布図をお借りして示すと、インド洋から南・東シナ海に面する地域からは記録がほとんどないことが分かります。一方、ロシア極東地域一帯、例えばウラジオストック付近から日本海沿岸にかけて2015年にはかなりの個体が見られ、定着しているようだという報告(Onishko, 2019) もあり、急速に極東地域全般に本種が見られるようになったとも述べています。このような状況をみれば、大陸北部(中国)ロシア沿岸部から本種が飛来している可能性も疑う必要があるでしょう。
                     
     
               スナアカネの分布図(Sergey N. et al., 2020 より転載)
                  白枠は研究対象地域

 この図を見て、東アジアでの記録が少ないことの理由をいろいろと考えてみると、➀観察者の数が少ないため、②物理的障害がある(例えばチベット高原や天山山脈)③そもそも東に向かう気が無い、④たまたま気象条件によって数千キロ運ばれたなど、など。
 やはり中国やロシアの状況が分からない限り、この問題は解決できないと思います。あまりにも情報が少なすぎます。

文献
A.V. Mglinets et al. ( 2025),  A new molecular marker including parts of conservative histone H3 and H4 genes and the spacer between them for phylogenetic studies in dragonflies (Insecta, Odonata), extendable to other organisms. Vavilov J. Genet. Breed. 29 (6): 868-882. 

E. Schmidt ( 1987 ) Generic reclassification of some westpalaearctic Odonata taxa in view of their nearctic affinities (Anisoptera: Gomphidae, Libellulida) . Adv. Odonatol. 3 ; 135-145.

Onishko V.V. ( 2019 ) New records of dragonflies (Odonata) for Russia, with notes on the distribution and habitats of rare species. Evrasiatskii entomologicheskii zhurnal, 18: 222-230.

Pilgrim E.M., von Dohlen C.D. (2012) Phylogeny of the dragonfly genus Sympetrum (Odonata: Libellulidae). Org Divers Evol. 12: 281-295.


Sergey N., et al. (2020) Isotope evidence for latitudinal migrations of the dragonfly Sympetrum fonscolombii (Odonata: Libellulidae) in Middle Asia. Ecological Entomology  2020: 1-12.




2025年10月24日金曜日

最新の遺伝子マーカーによるミナミヤンマ Chlorogomphidae の高次系統分類と種の検討について

 最近の論文から

 1ヶ月ほど前にロシアの研究者から送られて来ていた新しい遺伝子マーカーを用いたトンボの系統分類の論文2編を開いて見てみました(読んでない)。DNA関連の文献はさっぱり分からないので、AI翻訳でパッと見てみたのです。
 まず、その一つThomas Schneider ら (2025) による Molecular phylogenetic analysis of the family Chlorogomphidae (Odonata, Anisoptera),  Invertebrate Systematics: 39 です。直接このブログには関係がないのですが、分子系統分類においても日々解析技術の改良が行われていて、トンボの分類学においても新しい分析方法が検討されていています。それによって新たな分類体系が構築されているということが分かりました。この論文はミナミヤンマ(現時点で南アジア~東南アジアに56種もの本種が記載されているそうで😗、本論文ではそのうちインドシナ半島をメインにした36種を対象にしています)の高次分類体系さらに系統樹から種レベルまで再検討しています。
 調査はこれまで広く使われていた核DNAのITS領域だけでなく、今回はDNAが巻き付いて保持される担体的な枠割を持ちさらに遺伝子の発現に関与するとされるヒストンH3-H4領域とミトコンドリアDNAのCOI遺伝子のバルコーディング断片領域を調べています。
 その結果、ITS、H3-H4およびCOIそれぞれの系統樹は異なるトポロジー的系統樹を示し、これらを特殊なソフトで解析したところ総括的な系統樹を作成できたとしています。
 彼らはこの分子系統分析からChlorogomphidaeは1科1属から成り、これまで Chloropetalia 属およびWatanabeopetalia 属として分けられていた2属はChlorogomphus 属に再統合することを提案しています。
    そのほか種レベルを含めた変更は以下の表のとおりです。
                                                                                               

  この表のようにかなりの種で変更が示されていて、論文によれば今後さらに台湾のタイワンミナミヤンマとイリオモテミナミヤンマをはじめ数種が統合されるようなことが述べられています。さらに分析領域を変えて調べれば、かなりの種がシノニムとなって統合されていくように思えます。
 ところで、共同執筆者のロシア人の Kosterin さんは大のMacromia 属(コヤマトンボの仲間)好きで、近いうちに多分、東南アジアのMacromia 属の分子系統分類をヨーロッパの研究者と一緒にやるに違いありません。いやすでに投稿しているかも?
 世界一の東、東南アジアの Macromia 属の標本を有し、多くの種の遺伝子解析データを持っている日本は結局、データを彼らに提供するだけで何もできないのでしょうか?日本の遺伝子解析データが海外の研究者にどんどん使われて多くの興味深い論文が発表されています。残念なことです。この辺が日本のトンボ界の限界か。
                       





2025年10月2日木曜日

消えゆくコバネアオイトトンボ Lestes japonicus

 いつの間にかいなくなったコバネアオイトトンボ

 よくよく考えてみたら、このトンボについては以前からあまり積極的に観察したことがなかったため、気が付いたらほとんどの既産地から姿を消してしまっていることに唖然としています。あれほどいた猪苗代湖畔もほとんど見ることができなくなり、赤井谷地周辺にも姿がありません。迂闊でした。個体数が多いことにかまけ、注意していなかったことが悔やまれます。
 オオルリボシなどに係わっているどころではなかったのです。

       かつてのマダラナニワトンボの大産地、現在はアシが繁茂して姿はない。なぜかコバネも見ない
                          
       マダラナニワとコバネアオの個体数が多かった沼、環境は変わっていないが姿はない

 かつて知った沼のほとんどで、開放水面が無くなりそうなくらいに水生植物が生い茂るなど、環境の変遷が激しく、個体数の多かった本種やマダラナニワトンボの姿は確認できません。その一方で、さほど環境が変わったとも思えない沼でも両種の姿はありませんでした。3年前にはそこそこ見られたはずだったのですが。他のトンボの数も少ないように思います。何かが起きているように感じます。
                   
            ようやく見つけたコバネがほそぼそと生きている沼

 既産地は全てダメ。これは大ショックでした。コバネは何時でもいいや、と高をくくっていたらこの始末です。ここから虱潰しに、ここと思う場所を毎日見て回りました。そして磐梯山山麓のとある沼でようやく数は少ないのですが、コバネアオイトトンボに出会うことができました。しかしこの沼も渇水状態で、開放水面はごく一部しかありません。枯死したコナギやヒシが絨毯のように一面に広がっています。コバネアオは水面に面した岸部の植物群落周辺にしか見られませんでした。
 とにかく個体数が少ない!歩き回ってもしょうがないと、1所にとどまって待っていると、9時ごろから♂が現れだして、10時ごろからは連結個体や産卵個体がしだいに見られるようになりました。
                   
               ♂この時期だと9時前後から活動開始となる。気温は17℃
                         
                    ♀はやや遅れて出て来る感じ

          連結して沼に飛来する。気が付くとこの状態で枯れたヨシなどに止まっている                 
 

         産卵は10時前後から始まり、午後にかけて産卵個体数は増加する。これは産卵のまね事
               
                 多くが枯死したヨシに産卵をおこなう 
                          
                サンカクイの群落があって、ペアが産卵のために訪れる
 
                 
                 水域から離れたブッシュ内の枯れたヨシにも産卵する
 

                     最初から単独産卵する♀も
                          
                    枯れた細いヨシに産卵する♀

                 最初は結構神経質だが、産卵に熱中すると無警戒に

  この地域ではコバネはマダラナニワトンボと一緒に見られるため、マダラナニワトンボも含めていなくなった理由をいろいろ考えてはみるのですが、一向に分かりません。なぜ急激にみられなくなったのか?コバネに限れば、同様なことはすでに青木典司さんのホームページ「神戸のトンボ」でも述べられてます。何なんでしょうね減少原因は。
 一方、「日本のトンボ」には本種の生息地が限られているのは硬い植物に産卵できないことも原因だみたいなことが記述されていますが、ホントかい?この沼での産卵は主に細い枯れたヨシにおこなわれていて、別に変わった植物ではありません。もし産卵植物の分布によって生息域が限られるなら、それはそれでとても面白い現象でしょう。きっともっと別の要因があると思います。
 
 コバネアオイトトンボを見ていて、なかなか面白い生態をしていることが分かりました。このトンボについては青森の奈良岡弘治さんが、それまでの知見を網羅しつつ、生殖行動の日周変化等を詳細に報告しています(TOMBO 50: 59-64 )。
 ただ、そこに示されている観察の結果は、ここ福島県猪苗代町での10月3 日における観察とはかなり異なる部分がありました。これは青森での観察が山間部の湿地内で行われたことや、時期が9月中旬(?)であったことによるものか、興味深く思います。
 私は朝8:30頃から16:00まで1ケ所にとどまって、コバネアオイトトンボの行動を写真を撮りながら観察しました。9時をまわるといつの間にか♂が沼の岸部や沼の水面にある主にヨシの枯茎などに飛来して水面上20cm の低い位置に止まります。気温が上ると緩い縄張りを主張するようになって、水面上で活発に他♂と競争するようになりました。水面上よりも水面から1.5mほどの範囲の、ややぬかるんだ岸部(水位が低下して露出した沼底)には細いヨシの茎が多いせいか、地上で縄張りを張る♂が多いようです。♂たちは活発に地面から10cmを低く飛び、丹念に茎に止まっているライバルを探し回っては闘争を繰り返します。
 9:30を過ぎると沼を取り囲む低灌木の茂みから次々に連結態のペアが飛来して、沼内外のヨシに止まりますが、交尾は観察されませんでした。これらのペアは繋がったまま水面を飛んだり、移動を繰り返したりしてましたが、10時ころになると水面上の枯れたヨシの茎に飛来して産卵を開始しました。ほとんどが水面から30cm以下の低い位置で、他のオスの干渉を受けながら産卵を続けました(この間頻繁に産卵場所を変えるペアも多い)。また最初から単独で産卵に飛来する♀も観察できました。
 産卵は昼から午後にかけて増加しました。不思議なことに午後は産卵域が水面から陸地へと移動し、交尾が観察されるようになる2時前後からは沼周囲を囲む茂みの混み入った灌木類の根元付近の枯れ枝に産卵する個体も多く見られ、ほとんどは地面から10cm程度と低い位置でした。生きている植物体への産卵は表皮が硬いサンカクイ(沼内の岸近くにある小さな群落)が唯一でした。
 一見すると水が全く無い場所での産卵はオオアオイトトンボを連想します。ただ産卵位置が極めて低い違いはありますが。
                     
            昼すぎになると地上10cm程度の高さに止まる♂が多くなる

              茂みの中の地際で産卵する 
          
             全く水がない20cmほどの高さの枯茎に産卵

 13:51に初めて交尾が見られました。その後夕方近くになるにつれ交尾個体数が増加しました。さすがに交尾はいずれも地上0.3~1m以下の位置で見られましたが、沼を囲む灌木の茂みに沿って(沼に面した方)ヨシやサンカクイの茎に止まっておこなわれることが多いようです。
                    

               同じペア、♂の翅が1枚失われている
                    
                     
                交尾のいろいろ

 交尾が終わるとどうなるか?残念ながら見てません。朝から見ていて疲れてしまいました。こんなに生態が時間と共に変化することを予想していませんでした。交尾後、♀は産卵するのか、もしかするとこのまま分かれて産卵はせず、翌朝ねぐら付近で再連結となって飛来・産卵するのかも?最もそうなると午後遅く産卵するのは単に飛来するのが遅くなっただけ、かな?それもおかしな気がしますね。やはり交尾したらその日のうちに産卵するのかなあ?このことについての報告はないのでしょうか

 福島県の中央部猪苗代町の放置された溜池でのコバネアオイトトンボ観察で、気になった点は以下の4つです。

1 朝最初に沼に飛来する連結ペアは飛来する前にどこで連結したのか?
2 そのペアは連結した場所で交尾をすましてから沼に飛来するのか?
3 交尾に関して、産卵を終えた♀が再び午後交尾するのか、それとも朝連結せず午前中単独でいる、あるいは新たに沼に飛来した♀が交尾するのか?
4 単独♀の産卵は最初から単独でいた♀か?


 

 





  
 

 
                         

 
 


















越冬3兄弟

 先に、いわき市のムカシトンボが生息する渓流わきで、オツネントンボとホソミオツネントンボを多数確認し、さらに県内では最近になって記録が出始めたホソミイトトンボまでもいたことを述べました。この状況なら中通りの郡山市にもすでに分布を広げているのではと、家から自転車で10分のところにあ...