2022年7月19日火曜日

福島のヒメサナエ Sinogomphus flavolimbatusを求めて

福島県では生息地が少ないヒメサナエ
  福島県で最も生態的知見が少ない種と言えば、まず何と言ってもこのヒメサナエでしょう。これまで知り得た生息地は、地図にしめしたように、なぜか県の端っこばかりです。このトンボの生息地はどんな環境?と聞かれても、すぐにパッと説明することができません。何というか、表現できないような独特の雰囲気・特徴があって、単に山間の渓流とはいかないように思います。
                                                           
                                       福島県におけるヒメサナエの生息地(地図は国土地理院地形図より)

 喜多方市(旧山都町)の生息地は飯豊山麓にあり、本種が広く見られて個体数も多いのですが、クマが結構いて数年前にも出くわしました。まあ、かなり離れてはいたのですが。今回ヒメサナエの観察地をいろいろ考えた末、やはりまた、この旧山都町宮古の渓流に行って見ることにしました。 
 これまでこのトンボの生態をじっくりと観察したことがなかったので、今回は少し腰を据えてみてみたいと思いました。観察ポイントは上空が開けた渓流で、写真のような景観です。もうこの段階で、ヒメサナエの生息環境をうまく説明できません。
                     
            
                  生息地の景観(喜多方市山都町宮古付近、18/07/2022)

 当地には9:40に到着しました。すでにオスたちはそれぞれ石の上に止まって、メスの飛来を待っています。視野には5頭のオスが、近い場合は40~50cm間隔で止まっており、サナエ類のなかでもその間隔は最も狭い感じです。オスどうしの争いもそれほど激しくなく、すぐに決着が付いて、また同じ石に仲良くならんで止まったりします(写真下)。他のサナエにこういうのはないでしょう。
 気になることがあります。オスの止まる石は、何というかこれまた説明しにくいのですが、止まる石がどんな環境にあるのか、まったく一貫性がないのです。かなりの急流の中にある石だったり、片やさらさらと流れる浅い流れにある石だったり、大きな石、小さな石さらに堰堤の上であったりで良く分からないのです。逆にこれはメスについても同様なことが言えるのかも知れません。もしオスたちが止まっている石の周辺に産卵に飛来するとすれば、メスが好む産卵場所は河川のありとあらゆるところになって、あらかじめ飛来場所を予想することは出来ないでしょう。  
                    
            全く逃げないカジカガエル、石になり切っている?
                          
                    あなたたち、雄同士でも仲が良いのかい?

                         


ただひたすら、ほとんど飛んでこないメスを待つオスたち、何やってんだろ?

 観察に選んだ場所は、オスが数頭、石の上に点々と止まっている、流れがやや穏やかな場所で、両側と上空が開けています。観察を始めてすぐにメスが上流から低空を猛スピードでオスたちがいるところへ飛来しました。2頭のオスが瞬時に反応してメスを捕まえ、塊になって水面に落下しました。そしてペアになって飛び立ち、目の前をゆっくりリング状になって飛び、隣接する木々の梢に上がっていきました。この間10秒もなかったと思います。この後同じようなメスの行動を1回観察し、やはり交尾態となって樹上に消えました。

私の個人的な思い込みによるヒメサナエの配偶戦略?
 最初に目撃したメスの行動を見ていると、明らかに産卵を目的に飛来しているのではなく、交尾を目的とした行動なのではと思われるのです。午後、4時半までこの場所に張り付いて観察を続けましたが、その後オスたちはメスをみつけることはありませんでした。ただひたすら石の上に定位し続け、時折位置を変えるだけで、多くの個体が1時間以上、長いものは2時間近く辛強くメスを待ち続けたのです。しかし、この場所、つまりオスたちが監視している後ろの水域にはこの日計6頭のメスが飛来して産卵して行っていたのです。
 もしかするとメスは産卵と交尾に際して、飛び方、飛ぶ場所を慎重に選んでいるのではないでしょうか。一方、オスはメスの交尾飛翔(仮にこう呼んじゃいます)につられて、どんどん本来の産卵域から遠ざけられた場所で、メスを待つようにうまく仕向けられているのではないでしょうか。交尾飛翔は強い流れのあるようなところ、堰堤を通過したりなど、河川全域をわざと飛んではオスに捕まり、それを経験したオスはまたそのような場所でメスを待つようになるのでは。これを前提にして以下をお読みください。

ある日の川面での会話
ヒメサナエのオスA      いや、今日も暑いな。皆すでにお出ましか。
数分後新米オスがAの石の近くに飛来した なんだ!この野郎、ここは俺の場所だ、そっちに行け!
新米オスBはAに追い立てられた    すいません!わからなくて。ここなら良いですか?
A                                 何だ、新顔かよ。皆場所決まってんだからな!
B                川に出るの初めてで、、、
B            兄さんはここ長いんすか?
A         俺は5日前から来てるぜ。ここの石は全て持ち主が決まってんだぞ。
B               そーっすか。でもここで待てば姉さんに会えるんですか?
A   まー運が良ければな。あとは辛抱だ。あんま話しかけんな、気が散るじゃねーか。
B           すんません。こうやってどのくらい待てば良いんすかねー。
A   あのな、気が付いた時では遅いんだよ、気合いれて見張ってねーと
      あっという間に姉御は行っちまう。
B        そーすか。ところで姉さんたちはどこで産卵してんすかねー?
A    おれも見たことねーな、そういえばこの上で張ってるCが産卵中の姉御を手に入    
        れたってことは聞いたな。知りたきゃCに聞いてみろよ。
B  あとで聞いてみます。早く姉さんに合いてーなー。兄さんが
        相手した姉さんは良かったですか、どんな姉さんですか?
A  、、、、、
B      俺も早く合いてーなあ。
A         おめな、そう簡単にはいかねーんだよ。とにかく早い者勝ちだからな
        気合いれて集中してねーと、姉御は手に入れられねーんだ。
       俺も5日ここに居るがまだ姉御は手に入れたことはねー。
B   エっ!、、、、
A         ほら、いつまでもくだらねー事ほざいてねーで、集中しろ!
B             兄貴、男はつらいっすねー。
                    
                   ヒメサナエの産卵が多く見られた水域
                          
                          
             矢印の場所に産卵した。下の写真では同じ個所に複数の産卵が見られた
                       
              狭い(60cmぐらい)範囲を行きつ戻りつしつつ、打水産卵する
                          
                         
                          
                          
                          
                極めて狭い10cm四方の水面にホバリングしながら打水する

 一般に本種の産卵様式は、産卵域に飛来した個体が近くの石の水際などに止まって卵塊をつくってから、少しホバリングして打水産卵して、また止まり卵塊をつくってを数回繰り返す。あるいはホバリングしながら卵塊を作って打水産卵するを繰り返す。というのが一般的で、例外的に石に止まったまま尾端を水中に入れて放卵することもあるそうです。
 今回産卵を最初から最後まで見れたのは4例でしたが、3例は、高速で飛来したメスは産卵に適した水域で狭い範囲(長さ約40~60cm)を時にホバリングを交えながら行きつ戻りつしながら間欠打水産卵を数回繰り返しました。こんなだったかなと、群馬県にかつておられて多くのヒメサナエの産卵を写真にとられているM氏に伺うと、「そんなことあらへん、それは新種や」と申され、痛く感銘を受けました。そうですかあまりこうした産卵は少ない例なんですね。今度ビデオに撮ってみたいです。
 本種のメスはオスの居ない間にサーと来て、チョンチョンと産卵してしまうようです。メスが共通して好む産卵場所というものがピンポイントであるようです。そしてそこで待ち構えるオスは逆に少ないことも間違いなさそうです。
 
 
最後に参考のため、同時に見られたトンボを上げます。
ヒメサナエ
ダビトサナエ(結構いた)
ムカシヤンマ(渓流内の石に止まっていた)
オニヤンマ
ミヤマカワトンボ
アキアカネ
オオシオカラトンボ(渓流内のやや止水的環境の場所に縄張りを張っていた)





                      


                        
       



















 
 
 

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(このブログはパソコンで読んでください。携帯では文字化け行づれが起こります。)  先ごろ行われた日本トンボ学会で、トンボ界を代表する若い講演者がクイズ形式で最近のトンボ事情を面白おかしく発表されました。その中にミルンヤンマの学名変更の話があったような気がしました。あまり事の重大さ...