2023年7月28日金曜日

また始まった、泥沼状態のオオルリボシヤンマの観察 (このブログはパソコンでご覧ください)

 羽化消長                                                      
 これまでオオルリボシヤンマの羽化を、わざわざ早朝に見に行くことなどしたことはありませんでした。ですが、昨年までの観察から、どうもオスとメスの羽化時期がかなりズレているような気がして、そのことが配偶行動の観察を難しくしているのではないかと、悶々と考えていました。本当に羽化時期がずれるのか、今年はまずこれから見ていくことにしました。
 観察地を1週間ぐらい毎日訪れ、その日残されている羽化殻を拾い集め、オス、メスを区別して集計すれば簡単に決着がつくだろうと思っていました。ところがこれがそーでなかったのです。羽化は延々と20日間も続き、終わる気配がありません。先の見えない、池がよいを強いられる事態となっています。早く終わってくれえ!
 今日、7月29日時点での羽化消長を示します。
                     

 確かにボーとながめると、期間の前半はオスが多く、後半はメスが多いようにみえますが、前半にメスの羽化がほとんど見られないわけではなく、ケッコウな数が羽化していることが分かります。オスもまたしかりです。オスもメスもなぜこんなに長期間にわたって羽化するのか、かえって謎は深まるばかりです。
 しかし性比をみてみると徐々に拮抗してきていることが分かり、ようやく羽化が終了するのかなと期待が高まります。

成虫の観察
 観察している池に成虫が戻った(飛来した)のは7月21日でした、さらに7月27日にはかなりの個体が活発に縄張り争いをしていました。しかし、このところの猛暑で、とても観察どころでなくなってしまい、日周行動の観察のように、1日張り付いて観察するなどとてもその気になりません。
                      

                 メスの羽化、オスは羽化末期で見当たらない AM3:50         

早朝活動
 羽化写真ぐらいは撮っておこうと早朝出かけ、その際、成虫の黎明時の摂食行動を観察することが出来ました。昨年、8月18-19日に観察した結果では、早朝飛翔(摂食行動)は5時ころから始まったと述べました。ところが今回7月29日は4時05分にものすごい(こんなにいたのかと思うほど)数のオオルリボシヤンマが林道20mの範囲で上空10数メートルにわたって蚊柱のように群飛しました(実際には3時50分には飛んでいたと思われる)。明らかに摂食行動で雌雄入り混じっています。特に10数メートル上空には100頭以上が集まって、それはそれは見事な群飛で、久しぶりに感動しました。この群飛は上空高く飛び回る群と地上1メートル程度を飛び回る群の2つがあって、上空高く群飛するものは4時25分には完全に姿を消し、地上低く飛び回るものは4時50分には見られなくなりました。暗くて良くみえませんでしたが、上空高く飛び回っていた個体は全て隣接するスギ林の上部に姿を消すようでした。反対側の杉林は30mほど離れていて、そちら側に飛んでいく個体は観察できませんでした。
                                                                
                                                        黎明の空を群飛するオオルリボシヤンマ AM 4:05 7/27
 
 ここでまた疑問が。本種は日齢の経過と共に早朝活動の時間が遅くなっていくのでしょうか、それとこんなにたくさんの個体が観察される事は、羽化後あまり遠方に分散しないで一帯に滞留しているからなのでしょうか。現時点で、調査している池の外周1/3から150頭が羽化しました。ですから少なく見積もっても約300頭が羽化したのではないかと思われます。ここには連続する同様な池が、他に4つあるので、少なくとも1,000頭前後の羽化があったと推定されます。結局、観察すればするほど疑問は山積してきます。もう泥沼に泥船でこぎ出したようなものでござんす。

8月7日追記
羽化を調べてみて
 結局、今年のオオルリボシヤンマの羽化は7月31日で終了しました。昨年、オスとメスでは10日以上、羽化時期がずれているという印象があったので、実際に調べてみたところ、羽化期間はオス、メスで差異は無く、期間前半はオスが、後半はメスが多く羽化することが分かりました。それぞれの羽化数を累積羽化率でグラフにすると少し異なった曲線を描くことが分かりましたが、メスが10日以上遅れて羽化するとはとても言えませんでした。印象と実測ではこのように異なるのかと、少々考えさせられました。
 累積羽化率でみると確かに羽化個体が50%に達する日数は5日ほどメスが遅れるのですが、羽化期間がオスの終了してからメスの羽化個体数がピークを迎えるといったことはありませんでした。
                      

 こうなってくると、交尾の謎はますます深まってきます。オオルリボシヤンマのメスは多くの不均翅亜目のトンボに見られるように若い時期に積極的に交尾するものと思われます。成熟間もないメスが自ら積極的に交尾をするのであれば、普通ならすでに池に戻って縄張りを張っているオスは恰好のパートナーであるはずで、池に飛来すれば必ず交尾ができるでしょう。昨年はそれを狙って待ち構えていたのですが、とうとうマダラヤンマの時期になってしまい、興味の優先度から観察を打ち切ってしまいました。今年はマダラを捨てて、このオオルリボシの観察にかけてみたいと思います。でもマダラも良いなあ。

8月8日追記
 日齢の経過とともに、黎明の摂食飛翔はどうなるのかを知るために、早朝出撃して見てきました。前回は7月27日ですから、ちょうど10日後になります。
 飛び始めは 4:26 で、飛翔個体数は相当減って、10数頭ぐらいで上空高く飛翔する個体は無く、池の上や林道上1~2mを飛び回りました。終了は4:40で、27日に比べると30分ぐらい遅く飛び始めました。また、終了も早まりました。やはり想像していた通り、日齢が進むと飛翔時間は遅くなるようです。
 この摂食飛翔が終わるや否や池の上をパトロール飛翔する個体が数頭見られました。4:30からパトロールを始めるヤンマなんて全く想像もつきませんでした。明るくなるにつれ、池を飛翔するオスは増加していざこざが頻繁に起きるようになってきました。6:30にメス1頭が池を横切るように飛んで、3匹のオスがその後を追います。もちろん交尾はありません。ただ早朝にオスがパトロールする池をメスが訪れることがわかったのは収穫でした。
 オオルリボシヤンマのオスはなぜ、こんな早朝4時から池で縄張りを張るのでしょう?何かきっとそうしなくてはならない理由があるのでしょう。そして今週あたりから池に戻るメスが多くなってくるのではと期待してます。

  日齢と早朝の飛翔時間については、単なる気象条件の変化とみることもできるため、私はメンドクサイのでしませんが、検証することは必要でしょう。太陽高度は現在、徐々に低くくなっているために、日の出時間も、日々遅くなっているからです。気象条件が関与することを明らかにするなら、照度計で飛び始めの照度を計測したり、毎日通って飛び始めの時間を記録したりすれば、ある程度の予測はつくのだと思います。そして発生期間中のそのときどきの行動なども気象条件、気温だけでなく、日長や太陽高度などが深く関与しているのでしょう。

8月10日追記
 部屋を探したところ、以前、撮影に使っていた照度計が出てきました。どの程度使えるか、夕方、かなり暗くなった時に測定したところ、まあ使えそうなことが分かりました。やらないと言いましたが、折角照度計が手元にあるので試しに使ってみることにしました。
                     
                           こんなの
 
 8月10日は、夜間が雨、朝方少し小雨が降ったりやんだりの気象条件。4:00から5:50までは晴れ、その後霧雨となりました。オオルリボシヤンマは4:32 摂食飛翔開始。地上すれすれを敏速に飛び回わり、個体数は5~6頭。上空を飛ぶ個体は見られません。この時の照度は15 Luxで、急速に値が大きくなりました。摂食飛翔は4:48に終わり、この時の照度は205 Lux でした。この間池の水面上にオスの姿は無く、5:30にオスが飛来しました。この時の照度は1052 Lux でした。飛翔開始時刻は8月8日よりもさらに6分遅れました(雨だったことも?)。終了時間は10分遅れです。

つづく
 




 















2023年7月2日日曜日

キイロヤマトンボやーい!

 いよいよキイロヤマトンボの探索開始。

 阿武隈高地は白亜紀花崗岩から形成されて、特に浸食・風化が進んだ地域と言われています。したがって、河川下流部では風化した花崗岩や片麻岩から成る砂が河床に広範囲に堆積する河川が多く、各地にキイロヤマトンボが生息しそうな河川が見られます。

 夏井川はそうした河川の代表的なもので、私も1990-2000年にかなりの回数かよってナゴヤサナエやキイロヤマトンボの探索を行ってきました。しかし、特に後者のキイロヤマトンボについては全くその生息の痕跡すらつかめないでいました。ところが2021年に斎藤舜貴さんによって中流域で複数が12-Ⅶ-2021に採集されました(斎藤、2022, Tombo 64: 45)。早速、斎藤さんの御厚意でに採集地点を教えていただき、翌年の春に出かけてみました。ところが、現地に行って見てびっくり、生息地は数年前に起きた台風による大氾濫の対策として実施されている大規模河川改修で完全に消失していました。


                 あーあ、もーだめだ、何でこーなる!

 結局、キイロヤマトンボはその後、また新たな場所で採集され、現在も福島県ではほそぼそ?と生きながらえているようです。今回は河川を変えて探索の範囲を広げてみました。       

どうしてアオサナエなの!                                
 かつて茨城県内の生息地でかなり本種の生態を見てきたため、その時の記憶を基に朝6時に候補の河川中流域に行って見ました。6時10分、すると川面中央部をキイロヤマトンボが飛びまわりました。複数現れたようです。何だ簡単に見つかったなと拍子抜けしてしまいました。キイロヤマが近くまで飛んでくるようになりました。ここで、「ムムッ」と。腹部を高く上げて飛んでいるじゃないですか!飛び方も雑で、よくよく見れば、何だ!アオサナエのオスじゃないか。急に血圧が低下していくのを感じました。
 この川は幅が30m以上あって、岸部に砂地は無く一方は竹林、一方はヤナギ類の灌木帯となっています。典型的なキイロヤマやナゴヤサナエの生息環境です。まあ、アオサナエがいてもそれはかまわないのですが。何でよりによって今ここで!しばらく虚脱してボーっと見ていると、何とこのアオサナエたちは、延々と10分以上も中央部を全く止まらず、まるでミヤマサナエのオスように飛び回ったのです。飛翔範囲は中央部に限って15m×30mぐらいでしょうか。帰宅後で調べてみると、アオサナエのこうしたオスの飛翔は特に夕刻に良く観察されるとのことらしいのですが、早朝の飛翔は初めて見ました。

 そういえば以前、白河市の大きな溜池(水草は全くない)で早朝、アオサナエのオスが水面上を長時間ホバリングしているのを見たことがありました。さらに時間は多分9時~10時にかけてだと思いますが、同じ溜池で、複数のアオサナエが溜池中央部を水面上低く、3,4分飛び続けていたことを報告(Aeschna, 29:26-27)したことをハタッと思い出しました。この場合も今回の河川での飛翔と同じく、尾端を上げて水面低くジグザクに直進しては方向を変え、中央部だけを飛翔しました。実際に見たことはありませんが、多分、湖を生息場所とする場合は同じようなオスの飛翔がおこなわれるのかも知れません。

 さらに驚いたのはメスの産卵です。いきなり産卵水域に水面すれすれに飛来して飛び回ったかと思うと、岸部のヤナギの葉やツルヨシの葉などに止まって、卵塊を作り始めました。最初はホンサナエもいるのかと思いましたが、確認すると間違いなくアオサナエです。卵塊を作ったメスは河川中央部に飛んでいき、水面から高さ5、60cmの普段は見られないような高さでホバリングしながら卵塊を落下させました。産卵は計6回観察しましたが、いずれも同様の行動でした。アオサナエが岸部に静止して卵塊を作る事を初めて見ました。

 あいにく距離が離れすぎて300mmのズームレンズではまともな写真になりませんでしたが、参考のためにこんなことを観察したということでアップします。オスの飛翔行動は8時をすぎると全く見られなくなりました。産卵は9時以降観察できなくなりました。

 なお、この観察地では残念ながらキイロヤマの飛翔は確認できませんでした。コヤマ(多分)が1オスのみが飛んでいきました。転戦です。          

           アオサナエが早朝飛び回る河川の景観、画面中央部の川面を飛翔する               

              川面に倒れ掛かるタケの枝先に止まるオス(画面中央)   

                    朝日を浴びながら中央部分の川面を飛翔するオス              

                           同          

                      長時間中央部を飛翔し続けるオス      

                       中央部で産卵するメス
 
                  産卵を終え、尾端を水面に付け飛び去る寸前のメス



 


ミルンヤンマ、アオヤンマ、ネアカヨシヤンマ、そしてヤブヤンマの学名が変更になった!

(このブログはパソコンで読んでください。携帯では文字化け行づれが起こります。)  先ごろ行われた日本トンボ学会で、トンボ界を代表する若い講演者がクイズ形式で最近のトンボ事情を面白おかしく発表されました。その中にミルンヤンマの学名変更の話があったような気がしました。あまり事の重大さ...