2023年6月8日木曜日

中通りのムカシトンボの生態 1

 1ヶ月遅れの発生地では

 中通り地方の発生地は阿武隈高地の西麓部の一部を除いて、全て奥羽山脈にあって、これまで述べてきた生息地と異なり冬季間かなりの積雪があります。発生時期は標高や積雪の状況によって変わり、少なくとも浜通り地方とは1ヶ月以上遅れます。また生息地はブナ帯に多く、浜通り地方の多くの生息地とは環境が異なります。今回の観察は郡山市近郊の山地帯で、標高は600mほどですが、標高がもう少し高くなるとヒメオオクワガタやヨコヤマヒゲナガカミキリが見られるようになります。また、例にもれずツキノワグマの生息地ともなっていて、2,3日前直ぐ近くで、サイクリングをしていた方が襲われました。幸いムカシトンボの観察時間帯で遭遇したことはありませんが、夕方はしばしば目撃しています。浜通りと違って長時間定点に留まった観察にはこれが脅威となります。まあ、結果は大したことはないのですが、それよりたまに現れる人間のほうがはるかに緊張します。 

                 渓流脇に続く林道、舗装されていてこの上を飛ぶ

今年は早くなかった羽化時期

 通常この生息地は5月下旬から本種の姿が林道上にみられますが、今年は6月5日に初めて確認しました。福島県も例にもれずサクラは2週間も早く開花しましたが、一方、山々には例年以上の積雪がありました。こうしたことが逆に発生を遅らせたのかも知れません。そこで発生初期6月8日に林道での飛翔行動を終日観察してみました。この日は午前中は晴れ、12時ころから薄曇りで14時すぎには完全な曇りとなりました。気温も例年より少し高めでしたが、14時以降は急激に気温が低下しました。結果を下に示します。                   


 いわき市三和町の繁殖期前期の林道の飛翔行動と比較すると郡山市の場合、まず気温が比較にならにほど高い環境の下での飛翔開始となることが分かります。また、その飛翔パターンもいわき市では見られなかった、明らかに昼を中心にした時間帯に集中することが分かります(むしろいわき市の繁殖期間後期のものと同じような)。これらの個体ではいわき市においてみられたような、樹木に沿って上昇しながら枝先を覗きながら探雌飛翔することはまだ確認できませんでした。多分これから個体数が増加して、探雌飛翔もみられるようになるのだと思います(ここでも♀を捕捉して連結状態になるのを観察しています)。その頃の飛翔パターンはいわき市のものに似て来るのでしょうか。

今年度のムカシトンボの成虫の観察はついにキイロヤマトンボの時期になってしまったため、今回で一応終了します。いろいろ興味深いことがらが次々にでてきました。来年はそれらを少しでも解明できたらと思います。

今年、ムカシトンボを観察して分かってきたことを箇条書きすると、
1 県内では発生時期ごとに飛翔開始時間(林道での摂食・配偶行動)が変わる。
2 発生が早い地域には低温の影響が大きいが、12℃ あたりが飛翔最低温度となる。
3 発生が遅い地域において、飛翔時間(主に摂食)が早まる傾向は認められず、昼以降が活発となる。
4 オスの探雌飛翔のパターンは繁殖前期と後期では大きく異なる。
5 産卵は繁殖時期の初期に多い (おそらく交尾も)。
6 気温と飛翔行動(摂食・配偶飛翔、探雌・産卵飛翔)は浜通り地方のように5月上中旬に活動する地域では低温の影響が大きいが、5月下旬以降に活動する地域では気温との関係性は無いように見える。



                    



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