2023年8月17日木曜日

今期オオルリボシヤンマの交尾について分かったこと(整理)

ひとまず今期分のまとめを

 羽化から今日までその生態を、特に交尾の実態について観察を続けてきましたが、結局ますます交尾については謎が深まったという状況になってきました。そこで、一旦、これまでの分かった事実を整理して、頭のもやもやを払拭したいと思います。

(1)羽化
 交尾が全く見られない理由に、雌雄で羽化時期がかなりずれるため、性成熟期が一致せず交尾を見るタイミングを逸している?という疑問。

 このために羽化調査を行いましたが、羽化期間において羽化ピーク(50%羽化率)は5日程度のずれしかなく、確かにオスの羽化が早まるも、同時期にメスも羽化していることから、この疑問は却下!

(2)早朝に交尾しているのでは?
 多くの、というよりオオルリボシの採集や写真撮りを目的に早朝から行う人はさすがに少ないでしょうから、まだ知られていない?のではという疑問。
 
 観察を行えば行うほど振り出しに戻るのがこの疑問。いまだ、明らかな交尾行動を確認したことはありません。確かに、本種はトンボの中でも際立って早朝。暗いうちから活発にオスは活動するのですが、何のためにというか、何してんだか全く分かりません。これもひとまず保留。

 一方明らかになった個人的な新知見(かも?、すでに報告されているかも)
(1)羽化消長と性比
 具体的な数字で示すことができました。羽化は7月上旬から下旬までだらだらと続く。性比について、文献では性比が偏っているとするものがあるのですが、郡山の山地帯において羽化時の性比はほぼ1:1でした。

(2)オスの成熟度(日齢)によって行動様式が変わる
    ①早朝の摂食飛翔
 オスの累積羽化率が初めて100%になった7月29日(約半数はほぼ成熟、残りの半数は未成熟)の早朝の摂食飛翔は4時前後から始まり、未成熟個体は地上から10数メートルを大集団で飛翔しました。一方、成熟虫は地上すれすれから2mほどの高さを不規則に俊敏に飛び回る。摂食時間は未成熟が短く、成熟はその倍でした。
 ②摂食飛翔時間の変化
 日齢の経過とともに摂食飛翔時間の開始時間は遅れ、7月27日と8月17日では35分の差が生じました。
 ③摂食飛翔と制空飛翔の関係(生態学でいう縄張りの語句は、まだ使えない。確かにそうなんだろうと思いますが、今のところ、オスにとっての意義やその利益が認められないので、当面軍事用語の制空飛翔、制空権および制空域を使用します。その方が見ていてしっくりします)
 8月15日以前は摂食飛翔後、約30分後に制空飛翔が始まりましたが、8月16日より摂食と制空飛翔は区別できなくなって、制空飛翔のなかで摂食がおこなわれることが多くなりました。

(3)オスの制空域について
 本種の制空域は池、隣接する草地、林道および隣接する杉林の樹冠・樹頂の3つであり、彼らにとって価値の高い(今のところその価値自体が曖昧ですが)制空域は池>草地、林道>スギの樹冠・樹頂の順であると推察されました。
 ただしこれは検討の余地があります。すなわち、早朝池に初飛来する時刻にはスギの樹冠で同様に活発に飛翔するオスを多数確認できます。この時、まだ林道では制空飛翔はありません。となると、本種は夜はスギの樹冠部で過ごしている可能性が出てきます。多分メスもそうなんでしょう。もう少し樹冠部での観察が進むと3つの制空域の持つ意味がより明白に分かって来る可能性が考えられます。樹冠で制空飛翔している個体はしばしば池への侵入を図るため、降下して、池周辺の個体と乱戦になることがあります。でも直接池には侵入しません。
 いずれの制空域でも摂食、巡回、ホバリングおよび侵入個体との闘争が見られました。樹冠と林道で制空飛翔している個体は常に池への侵入を狙っているが、池の先住オスの排除力が圧倒的に勝るようでした。

(4)成熟オスとメスの飛来時期について
 メスの池への頻繁な飛来はオスの飛来に比べ2週間以上遅くなることが再確認されました。こんなに差が生じることは極めて不自然なことだと思います。これも謎。

(5)メスの早朝産卵
 メスは朝6:00前後から池に飛来し、産卵する個体が居る一方、飛来目的が分かりませんが、オスを引き連れて放浪的飛翔(かなりの距離を飛翔する)をおこなって池を離れる個体が多く観察されました。このメスの行動は要注意で、この先、交尾が起きる可能性も考えられます。メスの飛来は約30分間で、以後、飛来が絶えました。

(6)連結飛翔の確認
 今回の観察において、早朝2例ほど連結してスギ林に沿って飛翔しているのを確認しました。いずれも10m以上の高さをゆったりと飛んでいましたが、すぐに見失いました。どこで連結したのか確認できませんが、もしかしたらスギの上部でオスがメスを捕捉しているのかも知れません。なお、オスがスギ等の樹木の枝先や幹に沿ってメスを確認するよう上昇飛翔する行動が少なからず報告されていますが、ここでは期間を通じて2例しか見ていません。これが頻繁に起きたなら、連結飛翔の最初の雌雄の出会いに関連がありそうです。

以上をもって、今期のオオルリボシヤンマの交尾に迫るは終了します。敗北宣言!「相手が悪すぎました」。

                   
                                                               

                   オスの制空飛翔、上から2番目までは池に侵入できずにいるオスのホバリング。ライバルオスの飛来  
       を警戒して頭を林の方向に、斜め上に向けている
                                                               
 

 








 

2023年8月14日月曜日

迷宮入りになるかオオルリボシ参り

 さっぱり分からん!8月14日の巻
 この日の天気は非常に不安定で、現地には4時15分に着きましたが、まだほぼ真っ暗で、太陽高度が低くなって日の出が遅くなったことを実感しました。そろそろ摂食飛翔が始まるかという時、天気が霧雨になってしまい成熟虫の飛翔はありませんでした。その後霧雨が小雨になったり、突然止んで晴れてきたり、そしてまた霧雨と、目まぐるしく天気が変わりました。そんな中、オオルリボシヤンマは5時29分に池の上を複数のオスが飛翔し始めました。その後しだいに個体数を増し、それぞれの干渉が激しくなってきましたが、その間メスは現れません。8日にはメスを確認していますから、当然飛来があっても不思議ではありません。すでに多くは成熟しているはずです。
 6:45に何気なく、一番下に位置する池に降りていくと、何と複数のメスが数頭のオスを従え池の中を飛び回っているではありませんか!メスは一見すると産卵に訪れているように見えますが、産卵はせず、池の縁や周囲の草むらなどに入り込んでホバリングを繰り返します。時折水面に出て、水面の植物(ジュンサイ)に止まろうとするしぐさはしますが、すぐにまた、群がるオスたちを従えてふらふらと池の中や周囲を飛び回ります。そしてなかなか池を離れようとはしません。この行動は9月などに見られる、産卵メスに対するオスの行動とは少し異なる感じがします。オスはメスの捕捉にはるかに積極的で、しばしばメスにつかみかかり団子状に草むらや水面のジュンサイの群落上に落下します。ただいずれの場合も交尾には至りませんでした。
 飛来するメスは全てがオスを引き連れて池を飛び回るわけではなく、産卵行動を示すものも複数見られ、そうしたメスに対してオスは直ぐに興味を失うようでした。
 複数のオスを従えたメス(もちろんオスは必死に追いかけるのですが、メスは低速で飛んで、むしろわざと追いかけさせているような気がします)は最終的にどうなるか、ここが問題なのですが、延々と林道を地上低く飛び去るものや、スギ林の中に消え去るものもあって、その後どうなるのかは全く確認できませんでした。しかし、産卵個体もようやく確認できたことから、いよいよ本格的なオオルリボシヤンマのシーズンを迎えたことには間違いなさそうです。
                     
                      まだ薄暗い水面を飛翔するオス AM 5:30                                              
                                                 明るくなってつばぜり合いが多くなったAM6:10ころのオス
                           
                            同

8月15日の観察
 昨日、メスの飛来とその行動を観察することができたので、さらに詳しく観察しようと出かけてみました。前日とは違って、雨は全く降っていませんでした。アカショウビンの鳴き声を聞きながら摂食飛翔が始まるのを待ちました。4:48に池の上を飛ぶオスと林道の上を低く飛翔するオスを2,3頭を確認しました。しかし、飛翔するのはこれだけでした。この飛翔も5:00には全く見られなくなりました。
 池に再び現れたのは5:35になってからでした。これまでの観察ではそれぞれの池に制空権を持てる個体数は決まっていて、陽が登るにつれ、新たなオスが次々に飛来して池に侵入しますが、多分、先住オスによってほとんど駆逐されるようです。マーキングしていないので識別は出来ないのですが、闘争して帰って来たオスは元の場所で何事もなかったように落ち着いて飛翔するので、先住オスだと思われます。新たに勝利したオスなら池を不規則にそして敏速に飛びまわりますから。
 追い出されたオスの一部は再び池に隣接する林の空間や林道の決まった場所を長時間旋回していますが、だんだんその旋回する場所は池に近づいて、隙あらばという風に池への侵入を狙っています。ほとんどが成功しませんが。こうした個体を捕えてみると、まだ色彩が淡い若いオスである場合があります。
 6:00をまわりさらに昨日、メスを観察した時間帯になりましたが、いっこうにメスは現れませんでした。そればかりでなく、全く予想外でしたが6:24に何と連結になったペアが上空を杉林の中へと消えていくのを見つけました。予想していたように、ついに早朝の交尾を確認できたわけです。しかし、どこでオスはメスを捕捉したのでしょう。メスなんかまったく見ていませんし。さらにこの日8:00まで、確認できたのはこのペアのみで、ついにメスは1頭も飛来しませんでした。昨日はあんなにメスが飛来して、産卵まで行ったのにです。どうも腑に落ちません。結局、また明日も行かなくてはならないのです。まさにこれを泥船状態というのでしょう。交尾個体がワーっと飛んでくれないかな、オオルリボシ様🙇

8月16日 こんなに奥が深いトンボだったとは、とホホの巻
 というわけで、本日も行ってまいりました。台風7号ははるか西に位置していても、台風から伸びた長い腕は福島にも架かっていて、この数日天気が目まぐるしく変化しています。昨夜から朝方までは当地は雨で、早朝の摂食飛翔は当然全く飛びませんでした。それでも6:00には雨は上がり、直後の6:05にはオスが池に初飛来しました。その後6:24までにすべての池の納まる場所にそれぞれのオスが制空権を確保しました。
 次はメスの飛来を待つだけです。今日こそ来るか?6:28のことです。何とマルタンヤンマのメスが20mほどの高さで真っ直ぐやってきました。やはりマルタンヤンマは良いですね。そんなことで、つい上空が気になり時々見上げていると、スギ林の樹冠部をオオルリボシヤンマが数頭飛んでいるのに気が付きました。高さは20mあると思います。

 
                      

       オスが排他的に制空飛翔していた場所(赤円)



         スギ樹冠部をホバリングを交えながら制空飛翔するオオルリボシヤンマのオス                                      6:40-7:10
                                                                           
     
   侵入オスとやり合う

それぞれ単独で、ホバリングを交えながら決まった空域を制空しているようです。他個体が接近すると激しく追い出します。良くみれば、かなりの個体がスギの樹冠部あるいは樹頭部で同様な行動をしています。これらの個体は時折、降下して池の上空に侵入することがあり、猛烈な先住オスの迎撃を受け追い払われます。
                    
           樹冠部から降下してホバリングするオス、すぐに駆逐された。

 これまでの観察から、本種オオルリボシヤンマのオスは生息地の池を中心に、3つの異なる空域の中で、自らが制空することに必死になっているように思えます。まず、彼らにとって一番重要な空域は池上空で(交尾が観察されないのに重要とはおかしいのですが、まっ、トンボ屋の感覚からは自然かと)、ここは最も強いオスたちによって支配されます。池の空域を確保するには、なるべく早く飛来することが重要で、早ければ早いほど良い。8月中旬は5時20分前後には入らないと制空は難しいでしょう。次に、池上空に入ることができないオス(池のオスと闘争で敗れた者)は林道あるいは隣接する空域とスギ林上空の空域にそれぞれ自身の制空域を確保するようです。この際、林道のオスたちとの闘争で負け、林道の空域にも入ることができなかった最も弱いオスたちは(若いオスだと思います)、高所の樹冠に追いやられるのだと考えられます。
 池の中で見られる闘争様式は、林道さらに樹冠部でも場所は変わるが、そのまま同じことが行われていると見ます。そして、樹冠部のオスたちは林道へ、林道のオスたちは池へと侵入・定着を常に試みているのではないでしょうか(妄想部分多し)。
                    
             観察地の景観 池と林道さらに隣接する杉林  

 このように、オスたちの行動はそんなに単純ではないことがわかってきました。相当これは手強いです。今日は結局のところ。早朝から朝9時にかけて、交尾行動を狙ったわけですが、飛来したのは1メスにすぎず、数頭のオスを引き連れて、どこかに行っちまいました。したがって、この件に関しては全く進展がありません。早朝からオスたちはいったい何を目的に活動しているのでしょうか!オオルリボシに直接聞いてやりたいです! 

別タイトルへ続く
                    








                                                                           






      



















 

 

ミルンヤンマ、アオヤンマ、ネアカヨシヤンマ、そしてヤブヤンマの学名が変更になった!

(このブログはパソコンで読んでください。携帯では文字化け行づれが起こります。)  先ごろ行われた日本トンボ学会で、トンボ界を代表する若い講演者がクイズ形式で最近のトンボ事情を面白おかしく発表されました。その中にミルンヤンマの学名変更の話があったような気がしました。あまり事の重大さ...