Aeschna mixta soneharai が亜種から種 Aeschna soneharai に変更!
朝比奈博士は1988年に、日本産マダラヤンマ はヨーロッパ産に比較して形態や斑紋等に明らかな違いがあるとして、当時マダラヤンマの生態を初めて解明した長野県の曽根原今人氏に献名した亜種 A. mixta soneharai を記載しました (月刊むし 211:11-20) 。しかし私を含め多くの人々は日本産マダラヤンマはヨーロッパ産を原種とするA. mixta 、あるいはもう少し詳しく亜種 soneharai であるとして、それ以上のことは全く考えていなかったのではないでしょうか。先日、国際トンボ学会の会誌 Odonatologica の目次を見ていたら、アッと驚くためごろー!何とAeschna mixta soneharai が種として昇格しているではありませんか🙀、しかもヨーロッパのファウナきりぎりに1種増えたとして。
内容はロシアの研究者たちがモスクワ市近郊で採取した A. mixta に2系統があることに気づき、詳細に形態と遺伝子情報を調べました。その結果、この2種は別種であることが判明し、一方は従来のmixtaで、もう一方は何と日本から記載されているsoneharaiだったのです。そして何よりこれまで亜種扱いであった soneharai が種として取り扱われることになったのです。驚きました。全くそんなことは頭にありませんでしたから。しかし、彼らが示した分布地図によると、残念ながら soneharai は日本固有種ではなく、東アジアから中央アジアそしてヨーロッパ東端のモスクワ周辺まで分布しています。一方、mixtaは北アフリカからヨーロッパ、トルコ、中東、北インドそしてカザフスタン東端部周辺に分布するとされています。mixtaは中国にはいないのですね。中国は東北部のみにsoneharai がいるんですねー。
mixtaとsoneharai 両者の区別はむずかしい
両者の識別は結構むずかしい。飛んでいる両者を区別することは不可能です。こまごまとした違いは結構あって、それはそれなりに両者を分ける部分ではあるのですが。あまり一般的ではありません。でも写真からでもわかる点が2つあるようです。
1 雌雄における頭部の前額上に明瞭に現れる黒のカタカナのエの字斑は mixta で非常に太く、soneharai は細い。オスではこれが唯一。
2 メスを側面からみると(交尾態で見れる)、青斑紋はいずれも淡く黄緑がかる。日本でみられるような鮮やかな青型は稀のよう。ただこの色、結構日本産でも成熟初期にはまぎらわしい色合いになる場合があるので注意したい(下写真参照)。さらに識別は緑系は無理なような気がします。
以下にネットから拝借したmixtaの写真を引用します。
ロシアの研究者たちは遺伝子解析に必要なデータの多くをGenBank (アメリカ) から得ています。soneharai とした日本産のデータには2個体の遺伝子情報が使われています。これは当然、提携元の日本DNAデータバンクの情報がソース源となっています。一方、分布図作成には多くの写真を解析して両者を区別して行ったことになっています。しかし、Web上に掲載されたmixta の画像は結構変異があって、彼らが示したモスクワ近郊の産地から得られた斑紋の違いについて、全ヨーロッパの個体群に当てはまるかは少々疑問です。また、両者の交尾も観察されているので、特に分布境界地域に当たるモスクワ近郊の個体群の扱いは注意が必要だと思います。
いずれにせよ、これからは朝比奈博士の命名した sonehari が呼び名になるのですねー。てっきり今後はソネハラヤンマかーと思ったら、マダラヤンマの呼び名は mixta に対する和名としてつけられたのではなく、1915 年に小熊捍氏が日本産トンボ目録のヤンマ科のなかで単に日本で最初に青森で得られたヤンマにマダラヤンマと名称をつけたしたものだそうです(彼はマダラヤンマがmixta であるとはわからなかった?)。朝比奈論文にちゃんと出てました。とすればこのままマダラヤンマなんでしょうか?しかし今回のことも踏まえて、日本産トンボについて一度、原点に立ち返って精査する必要があるのかも知れませんね。