ハネビロエゾトンボは南会津地方(いると思うのですが)をのぞいて、県内に広く生息しています。ただ、採集記録が多く、生態的な観察は高橋さんの詳細な観察(高橋、2001 )があるのみです。幼虫の記録はありません。私もこのトンボとは長らく出会って無く、特に幼虫については20年前に飼育したことしかありません。
最近は平野部や丘陵地の小河川、湿地が開発や用水路改修によって生息地ごと失われることが目立ち、郡山市、会津若松市および矢吹町の既生息地ではすでに消滅したところがあります。そこで、この冬場を利用して新たな生息地を探してみようと思いました。
とにかく、このトンボは変わっていて旧北区に生息する Somatochlora 属で唯一(多分)流水域を生息域とし、成虫は木陰の多い細流で♂は縄張りをはり、♀は産卵に訪れます。なぜ本種だけ生息地が流水なのでしょう?不思議です。
今回はまず手始めに平野部に接したなだらかな丘陵地にある谷戸水田の奥を探索します。大体、一般の平野部における水田の水源は大きな河川からの用水や大規模な疎水だったりします。しかし、丘陵地に接する地域の水田は丘陵地から流れ出る細流が集まる場所に堤を築き、溜池として水田用水を確保しています。福島県のハネビロエゾトンボはこうした溜池の背後に多く見られる湿地に生息することが多いように思います。
早速、雑魚掬いを開始しましたが、なかなかヤゴ自体が確認できません。次第に上流へと移動しながら見ていくと、オニヤンマが入りだしました。そのうちミルンヤンマさらにヤマサナエ(結構いる)が次々に網に入ります。夏なら結構薄暗い環境だろうこの湿地にヤマサナエが入って来て産卵するのかと、少々びっくりしました。でも、思い当たることがありました。ラオスでトンボの調査をしていた時のことです。山中で山道の脇にできた薄暗い小さな湿地で、Macromia cupricincta が産卵していたり、登山道の脇を浸み流れる、ルリモントンボ類やヤマイトトンボ類が生息するわずかな流れにMacromia 属のヤゴや Asiagomphus acco のヤゴを見出したことを思い出しました。
ミヤマサナエのページでも述べましたが、図鑑や解説書に書いてあるトンボの生態がすべてでは無く、まだまだ分からないことが多いということです。というより、一枚皮をむけば何も分かっていない事が多いのです。産卵に限っても、観察していると、このトンボは止水、これは流水と図鑑にあるような区分が必ずしも明確にできなくなることがあります。この産卵対象域の選択は私たちが考えている以上に複雑なのかも知れません。
湿地の流れは殆ど帯水しているように見えるほど流速がありません。そのため流れには湿地内部の還元状態の土壌に大量に溶存する2価鉄がしみ出して、水中で酸化された3価鉄がオレンジ色のもやもやとなって水中に沈殿します。さらに鉄を養分とする微生物が繁殖してできる油膜状のものが水面を覆う様になります。こうなると、何だか汚らしく思えてヤゴ掬いは面倒になってきます。こんな環境に居るわけないとあきらめ気味に掬うと、何と1回目で2頭のハネビロエゾトンボが得られました。このポイントまで約30回掬ってきたと思います。
しかし、こういう場所にも居られると面倒になってきます。なぜならこの様な環境は、この周辺にどこにもあるからです。
次に探索するのは、カトリヤンマの生息地のを探している内に、友人と見つけた場所です。
つづく
2月23日更新
この湿地は R. S. さんと散策中に偶然見つけた場所で、写真ではわかりませんが、この流れは上流の森の中で数本の細流に分かれています。まさに本種の生息場所に打って付けの場所と思いました。早速ヤゴ掬いを開始しましたが、しかし掬えど、掬えど、ぜーんぜん何も。いやいや、オニヤンマはいた。でも、あとミルンヤンマの若齢幼虫。あんなに成虫がいたのに、若齢幼虫が1頭のみ。おかしい。もっと大きい連中はどこに行った?サナエも全くいません。何で何にも入らないのだろう。
結局、帰りに掬った跡を確認してみると、42回にもなっていました。ヤレヤレこれだけやって、全く入りませんでしたから、ここには居ない可能性が高いように思います。
しょうがありません。いよいよ、本命の浜通りに転戦です。でもその前に少し中通り東部を探索してみようと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿