なかなか見つからないヒメアカネ
福島県のヒメアカネは生息地が非常に限られていて、過去の記録を含めても10か所程度なのではないでしょうか。20年前ごろから本格的に減反政策が進められ、中山間地の水田が次々に廃田に追い込まれました。こうした水田は平地の水田とは異なり、水源を山からの湧き水を利用している場合がほとんどで、水路の管理がされなくなると、たちまち水田は湿地化して、数年後にはヤナギやハンノキが生えてきて、20年も全く手が入らなければに鬱蒼としたハンノキ林や低灌木の林に代わっていきます。
県内の安定した生息地はほとんどがミズゴケが繁茂する湿地、湿原で山地に多く見られます。時期を変えれば、ハッチョウトンボが同所に見られる場合が多いように思います。休耕田が各地に見られだすようになると、オゼイトトンボ、サラサヤンマ、エゾトンボ、ハッチョウトンボそして本種が決まって進出してきます。しかし、こうした新しい湿地も長くて10年程度しか生息地としてはもちません。いつの間にかヨシが生え灌木が繁茂し、あるいは草地化してトンボたちは姿を消してしまいます。一時的に本種の生息地は各地に増えたのですが、現在はその多くが消滅しています。
1999年8月に小野町在住の和尚さんG氏にいわき市内の本種発生地をご案内いただきました。生息地は幾分ミズゴケが繁茂してきたような山間の休耕田で、まだ若い個体が周辺の林縁部に多く、一部が交尾していました。この時は同時に阿武隈高地では稀なキマダラモドキを発見するなどの副産物もあって、チョウ好きのG和尚の笑顔が今でも忘れられません。私にはなつかしい思い出となっていました。今年、久しぶりに当地のヒメアカネはどうなっているのだろうと、訪れてみました。原発事故以降どうなっているのか全く分かりませんでしたので少々不安でもありました。
秋がすっかり深まりヒメアカネもいよいよ少なくなった10月下旬の生息地生息地は植生の変遷もなく、最初に見つかった時よりも丈の長い植物が全くない整然とした湿地にになっていました。不思議に思っていると、付近にいた農家の方が、この地域の休耕田は原発事故の補償対象で、その条件としてちゃんと管理されていなくてはならないそうです。だからこうやって年に何回か草を刈りはらって維持しているのだと教えてくれました。どうりで綺麗に草がないのかと合点しました。さらにその補償期間がそろそろ切れるので、その後は放棄されるとのこと。休耕田の発生地だったので、すでに変遷して林になっているのではと内心危惧していたのですが、原発事故の補償がこんな形で湿地を維持することになったとは。内心複雑な気持ちになりました。
この湿地の維持は人間の手にゆだねられていることなど、無関係のようにヒメアカネはその華憐な姿を今回も見せてくれました。この湿地はイノシシが入り込むため、その掘り返したあとに湧き水がたまり、本種の発生には申し分ない環境を作り出しているという、これまた皮肉な結果を招いています。
同 胸部の黑帯が少し異なる雌
単独産卵する雌
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