サラサヤンマはまだあまりトンボの知識が無かった高校生の時に、どんなところに居るのだろうかといろいろ想像していました。当時は湿地などがある里山には自転車でしか行くことができず、そう簡単に生息地を探すことは容易なことではありませんでした。現在は車でどこへでも行くことができ、そうするとこのサラサヤンマは決して珍しいヤンマではなく、ちょっとした林を伴う湿地にはだいたい生息していることが分かりました。カメラでトンボを追うことを始めたころは、ホバリングしてすぐ止まる本種は良い練習対象でした。そうしてかなりの数の写真がたまっていったわけですが、ここからが本題!
サラサヤンマの眼など未熟時は明るい黄褐色、成熟すればエメラルドグリーンと決まっていて、何の疑問も持たず気にもしていませんでした。ところが2020年に北海道の横山さんたちによって、北海道産の本種には複眼と腹部斑紋が青くなるものがいるという報告がありました(横山ら、TOMBO,62: 109-110)。私はこの報告を目にした時に、今は石川県に移り住んでいるMさんが、当時まだ郡山に住んでおられた時に、お邪魔して北海道のサラサヤンマの眼が青いことをスライドで見せてもらっていたことを思い出しました。その後、加納一信さんのトンボ写真集「蜻蛉の記憶」(六本脚で販売しています)の中のサラサヤンマも美しい青色の複眼の個体でした。私は妙にこの青色の眼をしたサラサヤンマが気になっていました。横山さんの報告では個体が老熟すると青く変化する可能性を示唆しています。そこで、撮りためた写真を見ていくと、何と我が郡山市内の良く通う湿地で撮ったサラサヤンマに青い複眼をしたものがあるではないですか!
今年、エゾトンボの観察に会津若松市の生息地を訪ねたところ、まだ少数のサラサヤンマが、多くのエゾトンボに交じって摂食行動をおこなっていました。よく見ると、何だか感じが違います。何となく黒い感じがしたので、写真に撮ってみたところ、これまた「青い眼ちゃん」ではありませんか!そしてほどなく、クマザサの茎に例によって地面すれすれの高さで止まりました。そーと近づいてみると、眼はやはりエメラルドグリーンではありません、かと言って目を見張るほどのブルーでもありません。
複眼部を少し拡大. 腹部背面の斑紋のやや青っぽい. 自然光で撮影 14/Ⅶ/2021 会津若松市
複眼部を少し拡大. 腹部背面の斑紋のやや青っぽい. 自然光で撮影 14/Ⅶ/2021 会津若松市
良く観察するとこの個体は腹部斑紋も幾分、通常個体より緑青的な色彩になっていて、この複眼と腹部斑紋の特徴は北海道で報告されたものとほぼ一致するように思います。ついでに、複数を採集して調べてみると、まったく同様な特徴を呈していることが分かりました。
サラサヤンマとしては時期が遅く、翅の痛みも多く見受けたことから、これらの個体は老熟個体であることが分かります。同様な個体は郡山市でも確認しましたから、横山さんたちの考えの通り、老化個体の眼が青みが増してくるようなら、このような傾向はどの産地でも見られることなのかも知れません。
発生時期が終盤を迎えるころ、サラサヤンマの複眼は青くなってくるという仮説をぜひ来年調べてみたいものです。皆さんもどうですか?
0 件のコメント:
コメントを投稿