2021年7月8日木曜日

カラカネイトトンボとエゾトンボ

福島県のカラカネイトトンボ 
  カラカネイトトンボ属は世界で6種が記載されています。このうち4種が北米、1種が中米を含む南米大陸から知られており、残るカラカネイトトンボのみがユーラシア大陸(ヨーロッパ、ロシアおよび日本)に分布しています。緑の金属光沢の非常に小さな愛らしいイトトンボで、1934年に福島県尾瀬ヶ原(南会津と記載されている)において、国内で初めて記録されました。国内では東北地方以北に生息地が限られ、北海道と青森県を除いてその生息地は数か所しかありません。        
 県内では尾瀬地区以外に会津若松市、磐梯町の猪苗代湖北西岸部のミズゴケ湿原に生息しています。ただ、磐梯町では湿原が乾燥化してヨシや灌木の侵入が著しく、最近は確認できません。また、会津若松市の産地も同様に、湿原の変遷が著しく、このところ個体数が急激に減少しています。成虫は6月上旬~7月下旬に見られ、ミズゴケに生える背の低いスゲ群落内に静止していることが多く、交尾は午前中におこなわれます。産卵は昼以降に多く♀単独でヨシ、ガマ等の抽水植物やカヤツリグサが密生する水域に出て、枯れた水生植物の水面近くにひっそりと静止しています。そして安全を確かめた後に、水面に浮いた枯れた植物体に産卵します。♀は非常に敏感で、わずかな水面の揺らぎでも飛び立ち、苦しい体勢で長時間の観察は困難を極めます。しかも密生した水生植物が撮影の邪魔になり、なかなか撮影位置につけず、せっかくのチャンスを逃します!また梅雨時期のムッとする湿地からの熱気のもと、ちょっとした刺激で飛び立たれては見失なうの繰り返しで、気が変になりそうです。今回最新の産卵の写真と思ったのですが、相変わらずの♀の動きに、今度やったら脳梗塞や窒息を起こして死ぬかもしれないと、産卵は以前の写真でお茶を濁すこととなりました。
         非常に小さいため、最初は目に入らない。成熟した♂ 8/7/2021 会津若松市
                         
                     成熟すると赤目タイプにかわる♀

                   午前中、交尾するカップルが多く観察される

                          同
                          
                 産卵時の♀は異常な敏感さで、撮影は非常に困難

 カラカネイトトンボの生息地はミズゴケ湿原ですが、陽の当たる非常に浅い開放水面あるいは適度な水溜まりが必要です。尾瀬はさすがに今のところ心配はなさそうですが、会津若松市の産地は正直、高層湿原がさらに草地へと変遷していて非常に危ない状況です。ここは思い切った行政主導(この湿原の管理は会津若松市教育委員会)の対策を打つ必要があります。具体的には重機を入れて、10m四方の池を数か所掘り上げ、開放水面を造ることです。そんなことして大丈夫かい?といぶかしむ人もいるでしょう。そもそも、この本種の生息地は農業用ため池として造成されたものです。それが水田の用水需要が無くなって、放置され現在のミズゴケ湿原に変わった経緯があります。新たに作る池は10年でミズゴケの高層化によって水溜まり程度の湿地に戻るよう、浅くせいぜい30cmほどの深さが良いでしょう。要は、湿原の変遷は止めることができず、放置すれば確実に本種は姿を消すため、人為的に生息地を創生するのです。はたしてうまくいくかは分かりませんが、このまま何もせず消滅させるよりはやってみる価値はあると思います。

湿地の主役エゾトンボ
                     
                  エゾトンボの生息環境            
          ミズゴケ湿原は周囲からヨシが侵入し、次第にヤナギ、ハンノキ類が繁茂していく

 福島県内の本種の分布は詳細には調べられていませんが、ポツポツと県内各地から記録されています。この中で猪苗代湖周辺には生息地がまとまってあります。ここは核となる湿原が広大に広がり、また周辺に小規模の湿地が点在しています。発生する個体数は非常に多く、個体もいわゆる後翅長が41mm以上のオオエゾトンボタイプの大型種(今時この種名を用いる人はいないのですが、何となく愛着を感ずるので)が多く、コヤマトンボほどの大きさの個体も時折見かけます。6月中下旬に羽化した個体は群れて、林縁部や林道上を緩やかに飛びまわり、餌を食べ飛翔筋を鍛えて成熟していきます。この時、♂と♀はそれぞれ別に群れて飛び、あまり異性のグループに混じって飛翔することはありません。時折♀のグループに成熟した♂が現れて、群飛して摂食中の未熟♀と強引に交尾する場面を目撃します。
 この時期の♀は黄色の斑紋が際立っていて、なかなか魅力的です。♀は産卵時にしかお目にかかれませんが、この7月上旬でしたら簡単にその姿を見ることができます。
                    
                 梅雨空の中でも活発な飛翔が見られる湿地脇の農道

 梅雨空を気にしながら、7月7日10時ごろ当地を訪れると、いました、いましたオオエゾトンボタイプのエゾトンボがたくさん飛翔しています。全て♀で、ざっと数えて20頭ぐらいでしょうか、中にはかなり小型の個体(エゾトンボタイプ)も混じっています。林道上3~5mを飛んでいます。飛翔する場所はだいたい決まっています。風上に木立があって風が弱まって巻く場所です。餌となる小昆虫が適度に巻き上がっているのでしょう。こうした場所を長時間、一回の飛翔時間は20~30分、休んでまた同じところで飛翔、これを連日繰り返します。これは本種に限ったことではないようで、かつて石垣島で、翅の一部が破損して一見してそれと分かるミナミトンボが滞在期間中(3日)ずーと同じ場所で摂食行動をとり続けたのを観察したことがあります。
                         
                 いまにも降り出しそうな梅雨空を飛ぶ未熟の♀
                          
              小雨が降る中を群れて飛ぶ♀たち、7頭いるのですがわかりますか?

  この時期はまだ、配偶行動が見られません、ようやく先行して成熟した♂がぽつぽつ出てきたころです。湿原や湿地内での♂のテリトリー飛翔は多分来週頃から見られだすと思います。群飛する、特に♀の休息は隣接するキリの木(枯れ枝が多い)の高所に好んで止まるようです、しかし、時折地面に近い場所にも降りて休止する個体が見られます。なかなか飛翔中の♀を撮影することは難しいのですが、こんなチャンスはありません。
                     
              クリの枝先に止まる♀, 地表から1mもない高さ
                 コナラの枝に休む超大型の♀, これも低い, 5,60cmあるか

                   ゆったりと滑空, 黄色の紋が映える♀

               背景が変わるとさらに黄色が映える
                    
                地表近くまで降りてきて、周囲を飛び回る♀
                     
                     
 珍しくオオヤマトンボが♀の群れに交じって、摂食飛翔していたのですが、突然♀を襲って連れ去りました

 一方、♂の群れに♀が混じることは少ないのですが、♀の群れに交じる♂は少なからずいます。どの世界も似たような者はいるもんですね。♂たちも他者を気にせず、一見仲良く飛ぶ姿をみていると、あのテリトリー争いは一体何なのかと思ってしまいます。間もなく本格的なエゾトンボ達の熱い夏が始まります。
                     
                 小雨のなか湿地の中の枯れた灌木の枝に静止する未熟な♂
                          
                       摂食飛翔するやや未熟の♂







 
 
 


 


    


















                     

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