ひとまず今期分のまとめを
羽化から今日までその生態を、特に交尾の実態について観察を続けてきましたが、結局ますます交尾については謎が深まったという状況になってきました。そこで、一旦、これまでの分かった事実を整理して、頭のもやもやを払拭したいと思います。
(1)羽化
交尾が全く見られない理由に、雌雄で羽化時期がかなりずれるため、性成熟期が一致せず交尾を見るタイミングを逸している?という疑問。
このために羽化調査を行いましたが、羽化期間において羽化ピーク(50%羽化率)は5日程度のずれしかなく、確かにオスの羽化が早まるも、同時期にメスも羽化していることから、この疑問は却下!
(2)早朝に交尾しているのでは?
多くの、というよりオオルリボシの採集や写真撮りを目的に早朝から行う人はさすがに少ないでしょうから、まだ知られていない?のではという疑問。
観察を行えば行うほど振り出しに戻るのがこの疑問。いまだ、明らかな交尾行動を確認したことはありません。確かに、本種はトンボの中でも際立って早朝。暗いうちから活発にオスは活動するのですが、何のためにというか、何してんだか全く分かりません。これもひとまず保留。
一方明らかになった個人的な新知見(かも?、すでに報告されているかも)
(1)羽化消長と性比
具体的な数字で示すことができました。羽化は7月上旬から下旬までだらだらと続く。性比について、文献では性比が偏っているとするものがあるのですが、郡山の山地帯において羽化時の性比はほぼ1:1でした。
(2)オスの成熟度(日齢)によって行動様式が変わる
①早朝の摂食飛翔
オスの累積羽化率が初めて100%になった7月29日(約半数はほぼ成熟、残りの半数は未成熟)の早朝の摂食飛翔は4時前後から始まり、未成熟個体は地上から10数メートルを大集団で飛翔しました。一方、成熟虫は地上すれすれから2mほどの高さを不規則に俊敏に飛び回る。摂食時間は未成熟が短く、成熟はその倍でした。
②摂食飛翔時間の変化
日齢の経過とともに摂食飛翔時間の開始時間は遅れ、7月27日と8月17日では35分の差が生じました。
③摂食飛翔と制空飛翔の関係(生態学でいう縄張りの語句は、まだ使えない。確かにそうなんだろうと思いますが、今のところ、オスにとっての意義やその利益が認められないので、当面軍事用語の制空飛翔、制空権および制空域を使用します。その方が見ていてしっくりします)
8月15日以前は摂食飛翔後、約30分後に制空飛翔が始まりましたが、8月16日より摂食と制空飛翔は区別できなくなって、制空飛翔のなかで摂食がおこなわれることが多くなりました。
(3)オスの制空域について
本種の制空域は池、隣接する草地、林道および隣接する杉林の樹冠・樹頂の3つであり、彼らにとって価値の高い(今のところその価値自体が曖昧ですが)制空域は池>草地、林道>スギの樹冠・樹頂の順であると推察されました。
ただしこれは検討の余地があります。すなわち、早朝池に初飛来する時刻にはスギの樹冠で同様に活発に飛翔するオスを多数確認できます。この時、まだ林道では制空飛翔はありません。となると、本種は夜はスギの樹冠部で過ごしている可能性が出てきます。多分メスもそうなんでしょう。もう少し樹冠部での観察が進むと3つの制空域の持つ意味がより明白に分かって来る可能性が考えられます。樹冠で制空飛翔している個体はしばしば池への侵入を図るため、降下して、池周辺の個体と乱戦になることがあります。でも直接池には侵入しません。
いずれの制空域でも摂食、巡回、ホバリングおよび侵入個体との闘争が見られました。樹冠と林道で制空飛翔している個体は常に池への侵入を狙っているが、池の先住オスの排除力が圧倒的に勝るようでした。
(4)成熟オスとメスの飛来時期について
メスの池への頻繁な飛来はオスの飛来に比べ2週間以上遅くなることが再確認されました。こんなに差が生じることは極めて不自然なことだと思います。これも謎。
(5)メスの早朝産卵
メスは朝6:00前後から池に飛来し、産卵する個体が居る一方、飛来目的が分かりませんが、オスを引き連れて放浪的飛翔(かなりの距離を飛翔する)をおこなって池を離れる個体が多く観察されました。このメスの行動は要注意で、この先、交尾が起きる可能性も考えられます。メスの飛来は約30分間で、以後、飛来が絶えました。
(6)連結飛翔の確認
今回の観察において、早朝2例ほど連結してスギ林に沿って飛翔しているのを確認しました。いずれも10m以上の高さをゆったりと飛んでいましたが、すぐに見失いました。どこで連結したのか確認できませんが、もしかしたらスギの上部でオスがメスを捕捉しているのかも知れません。なお、オスがスギ等の樹木の枝先や幹に沿ってメスを確認するよう上昇飛翔する行動が少なからず報告されていますが、ここでは期間を通じて2例しか見ていません。これが頻繁に起きたなら、連結飛翔の最初の雌雄の出会いに関連がありそうです。
以上をもって、今期のオオルリボシヤンマの交尾に迫るは終了します。敗北宣言!「相手が悪すぎました」。
を警戒して頭を林の方向に、斜め上に向けている
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