オオルリボシヤンマの交尾は今シーズンも観察できませんでした。これまで、スギの林に沿って午前中5,6mの高さで連結態になって飛ぶペアを2回観察したのみで、♂たちが争う池で交尾態はおろか♀を捕捉することも観察できませんでした。ではなぜ、オスたちは早朝から夕暮れまで池で激しく争うのでしょうか?♂たちの日周行動をみると、下のグラフのようになりました。個々の内容については面倒なのでここでは触れずに置きます。連日の観察で消耗してしまいました。前項の事柄等を御参照ください。グラフが全てを物語っています。
観察から、池を占有する♂は複数の侵入♂に対して毎回有効な迎撃をおこなって、全てを排除できているという印象を持ちましたが、個々に♀が侵入してくると状況は一変し、たちまち、いわゆる縄張りは崩壊して混乱の極みの状態になります。♀が単独の場合は占有♂は♀を捕えようと必死になって、♀を追尾します。同時にどこからともなく侵入♂が複数(の場合が多い)それに加わって、長い列を作って♀の跡を追います、この時、♂同士の争いがひっきりなし起きて、占有♂がどれなのか全く分からなくなります。追尾をあきらめる♂もいて、これらはそのまま池で占有するための闘争を繰り返します。特に複数♂が占有できる池では♀の侵入は頻繁に起きてそのたびに、せっかくの縄張りは白紙に戻ってしまい、新たな縄張りが、多分、新な♂によって形成されていくものと思われました。
はたして占有♂が最終的に池に戻る場合は、また縄張りのヌシとなれるのか、また、♀について池を離れる♂たちの先頭は池での占有♂なのか、この部分がわかれば本種♂の縄張りの意義が明確になると思います。
もしそうでなければ、いったい縄張りを形成・占有して侵入者を排除する行為は何のメリットがあるのか分からなくなります。結局♀が来ると占有♂は優先的に♀を確保できなくては縄張りの意味がありません。下の写真を見て分かる通り、侵入♀が単独であれば占有♂は♀を独占的に追尾できます。しかし、それは稀で、多くは複数の♂が占有♂と一緒になって♀を追いかけます。その間。池はがら空きで、新たな侵入♂が占有してきます。縄張りの定義がオオルリボシヤンマの場合、非常に曖昧で簡単に言い表すことが困難です。
いろいろな事がいっぺんに起きるため、個体識別は絶対必要でビデオカメラでの記録がどうしても必要になります。簡易にマーキングでもできればいいのですが、本種のさらなる行動の解明にはこれらを無くしては進めないでしょう。憶測や思いでは話になりません。
オオルリボシヤンマの♀はこれまた曲者です。侵入したかと思うとすかさず産卵する者もいて、この場合付きまとっていた♂は交尾の可能性がないと思うのか、さっさと諦めて離れていきます。しかし前にも述べましたが、多くの♂を引き連れ、産卵もせずにふらふらと池を飛び回って、しばしば♂からのアタックを受け、草むらや水面に落とされても逃げもせず、相変わらず♂を引き連れて最後は池を離れ林間に飛び去る、ふてぶてしい♀が必ずいます。時として産卵個体より多い場合があります。私はこの♀が交尾に関係しているとにらんでいます。しかし、追いきれません。優に数十メートルこの行列は飛んで行くことがあります。多くは最終的に1,2頭の♂だけ引き連れて、産卵もせず林の中に消えていきます。交尾はこの後起きるのではないかと。ブログや知人からは交尾の写真やその観察記録を伝えてもらったりしていますが、いづれも断片的で、恒常的に交尾が見られる場所・状況ではないように思います。
ただし、加納一信さんが以前に報告した本種の配偶行動の内容は、非常に重要で、ある意味でこれがオオルリボシヤンマの配偶行動を言い表しているようにも思います。それによれば、北海道の湿原での観察で、♂は産卵が終了して縄張りを離れる♀を追って周囲の草原上で♀を確保・連結に至る。その後タンデム状態で周辺の樹林に飛んで行く( 1989, 昆虫と自然, 24: 43-44.)とあります。ただこの時♀を確保する♂が縄張り♂なのかについては述べられてはいません。私が観察している森林に隣接している溜池とは環境が異なりますが、縄張り♂も溜池から出ていく♀を追って行くことから、基本的に交尾に至る過程は同じなのかも知れません。
オオルリボシヤンマの縄張り行動の解明にこの♀を追っていく単独♂、あるいは複数♂の先頭が縄張り♂であるのかを見極めることができれば、これまでの疑問は一変に氷解するでしょう。
産卵
♀を必死に追う♂たち
同
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