先に、いわき市のムカシトンボが生息する渓流わきで、オツネントンボとホソミオツネントンボを多数確認し、さらに県内では最近になって記録が出始めたホソミイトトンボまでもいたことを述べました。この状況なら中通りの郡山市にもすでに分布を広げているのではと、家から自転車で10分のところにある溜池に行ってみました。最初に目に入ったのがホソミイトトンボの連結ペアでした。なんだ、ちゃんと居るではないですか!さらに注意して周囲を見渡すと、そこそこの個体が確認できました。ウーン、いったいいつ頃から居たのだろう?全く気が付きませんでした。
灯台下暗し、目と鼻の先に居たとは!
ホソミイトトンボは東南・南アジアを中心に30種ぐらい同属種がいて、多くが平地の止水域に極々普通に見られるトンボです。一方、このグループは同定が非常に難しくて、実際ラオスからも数種を記録していますが、同定には二の足を踏んでいました。そんなこともあって、正直最近まで日本のホソミイトトンボにもあまり関心がありませんでした。
この時期に池でみられるのは御三家以外ではアジアイトトンボしかいません。朝一番に現れるのはオツネントンボで、次にホソミオツネントンボになります。ホソミイトトンボは 9:00 を回らないと出勤して来ません。結構敏感で、撮影しようと近づくとすぐに飛ばれてしまいます。
しかし、数ある Aciagrion の仲間でなぜこのホソミイトトンボだけが、突出して高緯度の地域に生息しているのか不思議です。しかも成虫で越冬するなんて。
ロシアのトランスバイカル地方からは Aciagrion hisopa が記録されていました。このトンボは本来、インドや東南アジアに分布するトンボです。ですからなぜロシアなんかにいるのかという疑問は、当のロシア人研究者の多くがもっていたようです。最近、この問題は Oleg Kosterin 氏らによって追究されて、A. hisopa はホソミイトトンボの誤同定であったことが明らかになりました。またロシアにおけるホソミイトトンボの生態も分かって、それは日本のものとはちょっと異なるようです。
レポートによればロシアの生息地は乾燥地帯にある非常大きな湿地で、周囲に森林は全くありません。ホソミイトトンボの生息は湿地の水生植物に依存しているそうです。またシベリア地方の冬季間の気温は-30℃以下になり、日本とはその厳しさは比較になりません。日本では一般に平地・丘陵地帯の樹林内の樹木の枝や草むらの枯葉に静止して冬を越すといわれていますが、日中気温が上昇すると飛び回ることもあります。しかしロシアでは自ら雪に埋まるところで越冬し、雪によって外気との接触を断つと共に、雪の保温効果を利用して厳冬期を乗り切ることが報告されています。
なぜここまでして、過酷な環境に進出するのか?ロシアの研究者たちはその謎をAciagrion
属のDNAを調べることで答えを見出したいようです。
個人的な話になりますが、この Oleg Kosterin 氏はロシア中部、シベリアの入り口となる要衝ノボシビルスクの大学の生物学の先生です。彼はトンボの分類分野では世界的な研究者で、分類学上極めて重要な論文を多数発表しており、彼の動向には常に目が離せません。以前はカンボジアのトンボを精力的に研究されていて、私がラオスのトンボをやっていた関係で良くメールを寄こしていました。また、共著でカンボジアからアジアサナエの新種を記載したこともありました。その時分かったのですが、ロシア人は記載文にもかかわらず、不明な点や関係することがらは徹底的に明らかにして、それを論文に取り入れることにこだわります。ですから文章が何というか記載に直接関係ないことがらにも波及して膨れてしまい、記載文なのに大論文風(大げさに言うと)になってしまします。彼からのメールが来ると、1回の文章量がものすごく多くて、気が重くなるぐらいでした。
彼だけがそうなのかと思っていましたが、他分野の方がこれはロシア人研究者の特徴なのだと言っていました。
ボシビルスクの大学は今、ウクライナ戦争の影響で学生の強制徴兵がすさまじく、勉強や研究どころではなくなってしまっているそうです。
surroundings. Insects of Dauria and Adjacent Territories, Issue 2; 5-40.
Oleg E. Kosterin & Elena I. Malikova (2019): Check-list of Odonata of the Russian
Federation. Odonatologica 48 (1–2): 49–78.
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