2026年5月12日火曜日

越冬3兄弟

 先に、いわき市のムカシトンボが生息する渓流わきで、オツネントンボとホソミオツネントンボを多数確認し、さらに県内では最近になって記録が出始めたホソミイトトンボまでもいたことを述べました。この状況なら中通りの郡山市にもすでに分布を広げているのではと、家から自転車で10分のところにある溜池に行ってみました。最初に目に入ったのがホソミイトトンボの連結ペアでした。なんだ、ちゃんと居るではないですか!さらに注意して周囲を見渡すと、そこそこの個体が確認できました。ウーン、いったいいつ頃から居たのだろう?全く気が付きませんでした。

                                                                                           

                                                    灯台下暗し、目と鼻の先に居たとは!

 ホソミイトトンボは東南・南アジアを中心に30種ぐらい同属種がいて、多くが平地の止水域に極々普通に見られるトンボです。一方、このグループは同定が非常に難しくて、実際ラオスからも数種を記録していますが、同定には二の足を踏んでいました。そんなこともあって、正直最近まで日本のホソミイトトンボにもあまり関心がありませんでした。


 この時期に池でみられるのは御三家以外ではアジアイトトンボしかいません。朝一番に現れるのはオツネントンボで、次にホソミオツネントンボになります。ホソミイトトンボは 9:00 を回らないと出勤して来ません。結構敏感で、撮影しようと近づくとすぐに飛ばれてしまいます。
 しかし、数ある Aciagrion の仲間でなぜこのホソミイトトンボだけが、突出して高緯度の地域に生息しているのか不思議です。しかも成虫で越冬するなんて。
 ロシアのトランスバイカル地方からは Aciagrion hisopa  が記録されていました。このトンボは本来、インドや東南アジアに分布するトンボです。ですからなぜロシアなんかにいるのかという疑問は、当のロシア人研究者の多くがもっていたようです。最近、この問題は Oleg Kosterin 氏らによって追究されて、A. hisopa はホソミイトトンボの誤同定であったことが明らかになりました。またロシアにおけるホソミイトトンボの生態も分かって、それは日本のものとはちょっと異なるようです。
 レポートによればロシアの生息地は乾燥地帯にある非常に大きな湿地で、周囲に森林は全くありません。ホソミイトトンボの生息は湿地の水生植物に依存しているそうです。またシベリア地方の冬季間の気温は-30℃以下になり、日本とはその厳しさは比較になりません。日本では一般に平地・丘陵地帯の樹林内の樹木の枝や草むらの枯葉に静止して冬を越すといわれていますが、日中気温が上昇すると飛び回ることもあります。しかしロシアでは自ら雪に埋まるところで越冬し、雪によって外気との接触を断つと共に、雪の保温効果を利用して厳冬期を乗り切ることが報告されています。
 なぜここまでして、過酷な環境に進出するのか?ロシアの研究者たちはその謎をAciagrion 
属のDNAを調べることで答えを見出したいようです。
 
 個人的な話になりますが、この  Oleg Kosterin 氏はロシア中部、シベリアの入り口となる要衝ノボシビルスクの大学の生物学の先生です。彼はトンボの分類分野では世界的な研究者で、分類学上極めて重要な論文を多数発表しており、彼の動向には常に目が離せません。以前はカンボジアのトンボを精力的に研究されていて、私がラオスのトンボをやっていた関係で良くメールを寄こしていました。また、共著でカンボジアからアジアサナエの新種を記載したこともありました。その時分かったのですが、ロシア人は記載文にもかかわらず、不明な点や関係することがらは徹底的に明らかにして、それを論文に取り入れることにこだわります。ですから文章が何というか記載に直接関係ないことがらにも波及して膨れてしまい、記載文なのに大論文風(大げさに言うと)になってしまします。彼からのメールが来ると、1回の文章量がものすごく多くて、気が重くなるぐらいでした。
 彼だけがそうなのかと思っていましたが、他分野の方がこれはロシア人研究者の特徴なのだと言っていました。
 ノボシビルスクの大学は今、ウクライナ戦争の影響で学生の強制徴兵がすさまじく、勉強や研究どころではなくなってしまっているそうです。
                      
                           
                                                                                         
                                                                                         
                                                                                          
                                                                                           
                                                        郡山市のホソミイトトンボの姿 (11/Ⅴ/2026)       
                          
                                                                                               
                          オツネントンボもまだまだ元気、集団産卵の写真は以前虫の会のブログで使ったもの
                          
                           
          ホソミオツネントンボはここ郡山市でもオツネントンボから10日ほど遅れて飛来する


   
参考にした文献
Kosterin, O. E., (2005): Dragonflies (Odonata) of the Daurskii State Nature Reserve and its  
   surroundings.  Insects of Dauria and Adjacent Territories, Issue 2; 5-40.

Oleg E. Kosterin & Elena I. Malikova,  (2019): Check-list of Odonata of the Russian      
  Federation.  Odonatologica  48 (1–2): 49–78.

2026年5月3日日曜日

ムカシトンボの季節 (越冬トンボ御三家)

 今年のサクラの開花は異常に早く、西会津町だと10日以上も早く開花したところもあったようで、 ギフチョウの観察タイミングも難しかったと聞きます。さて、ムカシトンボはどうでしょう?4月28日にいつものいわき市三和町の産地を下見に行きました。今年から本格的に風力発電所の建設が始まることになっていますので心配でした。当地に着くなり、ある程度覚悟はしていたとはいえ、広範囲にわたる伐採でかつての林道の面影は全く失われており愕然としました。さらにひっきりなしにダンプカーや建設関係の車両が行きかっていて、とても観察が行える状況でないことは明らかで、もうここはダメだと思いました。良いところだったのですがね😞

 あらたな観察地を決めるために、急きょ近くの候補地を見て回ることにしました。ムカシトンボは三和町内に広く見られ、ほとんどの沢に生息しています。できれば車で直接乗り付けて、車から楽して観察できる場所はないものか。
                    
                      候補地の林道沿いの渓流
                         
                      この先に支流があって、そこかなあ
                        
                          支流の出会
                        
                         環境は申し分ない
                      
                流畔にはフタバアオイの大群落がいたるところにある

 幸い、そう遠くないところにまあまあの沢を見つけて一安心。これで何とか観察できるといいのですが。一帯での羽化はすでに始まっているはずなのですが、ここでは見つかりませんでした。しかしその一方で、越冬トンボ御三家をこの新たな沢沿いで多数見つけることができました。

                     日ましに緑が濃くなっていく
 
                 ニリンソウの開花が盛期
                        
              渓流沿いの樹々から降りてきたホソミイトトンボが集まる草地

 特に県内ではまだまだ珍しいホソミイトトンボを4月28日に初めて渓流脇の草地で1頭を発見!この個体はほとんど越冬時の体色で、わずかに胸部と腹部先端が淡く水色を呈していました。ところが5月2 日には、同所でさらに見つけた3頭すべてがほぼ成熟したブルーの鮮やかな体色にかわっていました。ホソミイトトンボについてはほとんど知識がなかったので、正直この渓流で見つけた時はびっくりしました。状況を考えるとやはりこの渓流沿い(標高544m)で越冬していることは間違いないようです。このトンボと同じ場所にはホソミオツネントンボがたくさんいました。白河市の例もあることから、ホソミイトトンボと同じく秋には平地からムカシトンボが生息するような山地帯にまで登って来て、なぜだか分かりませんが渓流脇の樹林の中で冬を越すのでしょう。こう考えると、本種はすでに阿武隈高地全域に分布していている可能性があります。今年以降、県内どこからでも記録が出てもおかしくない状況にあると思います。ホソミイトトンボとホソミオツネントンボはほぼ同時期に平地の池に見られるので、多分この後、一緒に山を下るのでしょう。
                    
                    
               ムカシトンボの住む環境で越冬した♂、体色はやや薄いか
                   
 一方のオツネントンボは4月中旬にかなりの個体が見られたのを最後に、すでに山を下ったのか全く観察できなくなっていました。前 2 種より越冬が早く終了するようです。オツネントンボとホソミオツネントンボは1ケ所でかなりの個体数がまとまって見ることができますが、ホソミイトトンボは全部で4頭ほどで個体数はかなり少ないようです。しかし、こんな山地の渓流脇で越冬とは、なかなかこのトンボも面白いですね。てっきり平地周辺の丘陵地の林だと思っていました。 
                   
            この沢では急激に個体数が減って、4月28日には見られなくなった

               ホソミオツネントンボは渓流脇の若いササの葉に集まっていた
                    
                まだ体色が淡く、もうしばらく滞在が続く
                     
                     
     日陰だと色が映えるが、まだかなあ
                    
             ♀は集まって見られ、♂はほぼ単独でメスから離れた場所で見つかる

追 ホソミオツネントンボとホソミイトトンボは 5 月 5 日以降全く見れなくなりました。恐らく繁殖地を求めてこの地を離れたのだと思います。また、同じ日にムカシトンボが初目視(以前の観察地において)されました。
         




2026年2月18日水曜日

原点回帰、長沼への思い

 トンボと私

年をとってくると、なにやら人は昔を懐かしむことが多くなるらしい。97才になった伯母を施設に見舞った時に、ぽつりと、「でも、いろいろ楽しいこともたくさんあったからね。もう思い残すことは無いよ・・・」と。考えれば伯母は施設に入ってから長い。入所後、楽しいことがどれほどあったか、そう思うと、なるほど楽しい思い出の多さは人生の終末期において、残された日々を過ごす中でとても大切な事柄になってくるのだろう。

トンボは僕の生きがいの1つだ。トンボを好きになったのは自然の成り行きだった。母の実家は長沼町だ。家は釈迦堂川の近くにあって、城下町らしく、水路が集落のいたるところに張り巡らされていた。もちろん現在と違って、コンクリート護岸などはない。川岸にはいたるところに水草が茂り、夏にはそうした場所でカジカやヤマメをヤスで突いた。街中でこうした遊びができるところも、子供にとって魅かれるものがあったのだと思う。

遊び場はほとんどが屋外で、従兄と一緒にゴム動力の飛行機飛ばしや、ビー玉やめんこなどに興じ、夏休みは川での水泳に毎日通った。運命の出会いは川で泳いでいる時だった。水面に顔を出したその目の前を大きなトンボが水面すれすれを飛び去った。コヤマトンボであった。もっともこの名前を知ったのはずーとかなり後になってからだったが。

僕はその時のトンボの姿に心を奪われ、この時スイッチが入ったのだと思う。以後毎日、水泳などすっかり忘れて、このトンボの捕獲のために川に通った。なかなか採ることができなかった。ようやく仕留め、指に挟んだトンボをドキドキしながら見たら、その摩訶不思議で、思わず吸い込まれてしまうほど綺麗なグリーンの目玉や、金属光沢をまとう胸部と鮮やかなレモン色の紋。トンボへの興味は一気につのった。

夏休みになると東京から遊びに来た従妹を連れて、良く川にトンボ採りに行った。夏の青い空にもくもくと沸き立つ入道雲。そして彼女のかぶる麦わら帽子と、そこから覗く笑顔。僕はただ黙って一緒に草いきれの立つ田んぼのあぜ道を歩いた。

もう50年以上も前の思い出だ。施設や病院で最後を迎える時、どんな思いがよぎるのか、心に残るやさしい思い出であってほしいと思う。                      

                                             家の前の庭を夕方になると良くコシボソヤンマが通り過ぎた
                            
               大切な思いでの詰まった裏庭、カトリヤンマを見たのもここだ
 

                 初夏の川面を飛ぶコヤマトンボ

                    コシボソヤンマはさすがに今見れないが、当時は町内の水路にもいたし、日中良く家に飛び込んできた








































































越冬3兄弟

 先に、いわき市のムカシトンボが生息する渓流わきで、オツネントンボとホソミオツネントンボを多数確認し、さらに県内では最近になって記録が出始めたホソミイトトンボまでもいたことを述べました。この状況なら中通りの郡山市にもすでに分布を広げているのではと、家から自転車で10分のところにあ...