かつての生息地(前のブログから転載)植生豊かな河畔
福島はようやく平地でサクラが満開となって、トンボの本格的な季節を迎えました。長らく気分がのらず、このブログの更新をしませんでしたが、今日は書かずにはいられない気持ちです。
福島県いわき市にはこの地方だけにしか見られないキイロサナエ Asiagomphus pryeri (Selys, 1883) や Macromia d・・・・(近く発表になります)などの貴重なトンボが生息しています。しかし発見直後のこの年になって、よりによって、まるで待っていたかのように生息地(両方の種の)の大規模な環境の改変が行われる事態となったのです。今回は一昨年発見されたばかりの、キイロサナエの生息地の状況を報告したいと思います。
キイロサナエの生息地としては典型的な環境で、福島県でもこうした環境はなかなかありません。良く残っていたものだと思っていました。今月12日、只見のブナセンターのOさんと当地を訪れたところ、驚愕の光景を目にして声をなくしました。
早速、ヤゴを探しました。幸い中令幼虫を確認できましたが、あまり手が入っていない上流部でしか見つかりませんでした。昨年の成虫発生期に一度訪れましたが、こんなことになるならもっと腰を入れて観察しておけば良かったと、今更ながら残念に思いました。
昨年7月19日に撮ったキイロサナエをアップしておきます。
キイロサナエが棲む小川は、すぐ下流にある溜池に流れ込みます。この溜池はほとんどがヨシに覆われ、生息地の対岸に広がるヨシ原はてっきりこの溜池のヨシだと思っていました。しかし、どうしてヨシ原より数十センチも低く、脇を川が流れているのか不思議に思っていました。もっと上流部で直接溜池に繋がるのが普通なのにと。そこで、この生息地の過去の姿を調べてみました。国土地理院で開示している米軍が撮影した1945年当時の航空写真と1970年代に作成された複数の1/2.5万地図を見てみました。すると、この川岸に広がるヨシ原はかつての水田の跡地であることが判明し、さらに戦前にすでにあった上流の溜池から流下する川は数回にわたって改修されていることも分かりました。一方、上流の水田も簡単な基盤整備が入っていたことも判明したことから、その都度、かなり河川自体に手が加えられていたことが予想されます。
生息域での川幅の拡張工事(流水量確保のため)はヨシ原側の川岸が高いことから、これまでも、過去に行われてきた可能性が考えられました(拡張した際の土砂を今回同様、ヨシ原側に積み上げた)。このことから、今回の川幅拡張によって、今後の生息が完全に否定される可能性は低いのではと思います(個体数にはかなりダメージがあったと思います)。ただ、昔とは異なる状況、例えば、現在異なる地域の個体群の交流が多分ほとんどないとも予想され、個体数が減った時に、この生息地の個体群が永続的に維持できるか、については注意深く観察を続ける必要があるかも知れません。
さて今年はどのような状況になるのか、再びその姿を見せてくれることを願いたいです。