2024年12月7日土曜日

福島県のネアカヨシヤンマとマルタンヤンマ

 トンボ好きのあこがれのトンボ

  福島県におけるネアカヨシヤンマとマルタンヤンマは、現在こそ多産地や記録が各地にあるなど、今ではトンボ仲間の中では普通に語られる種類となっていますが、以前はマルタンヤンマはともかく、ネアカヨシヤンマが生息しているなどと全く予想しておらず、わざわざ茨城県のトンボ仲間に水戸市周辺のネアカ産地を案内してもらったものでした。
 マルタンヤンマも同様に福島県内では無理かなと思っていました。ラオスに行った時、早朝の村のマーケットでヤゴがたらいに入って並んでいました。良く見るとヤンマ科のヤゴが混じっていて、それはAnaxとAnaciaeschna属のヤゴであることが分かりました。オバチャンの不信者を見るような視線を感じつつ、無数のヤゴの中からAnaciaeschna属のヤゴをつまみ上げ、ただ同然のような代金をはらって持ち帰りました。後日羽化したのはマルタンヤンマとトビイロヤンマでした。このように東南アジアでもマルタンヤンマはたくさんいるので、マルタンは南方系のトンボという感が強く福島県には居ないだろうなと思っていました。
 
 運命の電話
 忘れもしない2006年夏のある夜、梁川町の三田村敏正博士から電話が掛かって来ました。何でも松川浦でネアカヨシヤンマが多数見られたと。ネアカ?咄嗟に何を言っているのか理解できませんでした。はて、何で松川浦なのか?ちぐはぐな返答に、当の三田村さんは私がとうとうラオス病に罹り日本のトンボを忘れてしまったと思ったそうです。
 まあ、そのぐらいありえない事と自分では思っていたのです。翌日、半信半疑でカメラもバカチョン(当時のコンパクトカメラ)だけを持って、松川浦に出かけて行きました。本当かいな?
 震災前の松川浦の産地は公園化され遊歩道も完備していましたが、何処にネアカがいるのか皆目見当が付きません。遊歩道を歩っていてもそれらしい姿はおろか湿地も見つかりませんでした。しばらく行くと、水溜まりにヤンマの死体が浮いていました。近寄って良く見てみると、ムムッ!何とネアカの雌ではありませんか!えっ、本当かい、本当にネアカかい!三角紙も持って来ていません。震える手で、ほぼ原形をとどめていない個体をフキの葉に包んで、大切にリュックにしまいました。
 その後散々歩き回ってようやく発生地を探し当て、夢にまで見た生きたネアカヨシヤンマに出会うことができました。そして黄昏の大群飛、うわー!なんとういう素晴らしい光景!ここは福島、本当に目の前の光景は現実なんだと実感した瞬間でした。中学生の時、初めて石田省三さんの日本のトンボで衝撃的なネアカヨシヤンマのカラー写真を見て以来、やっと念願のトンボをしかも福島で見ることが出来ました。本当に三田村さんには感謝、感謝しかありません。
                     
                         初めて見た感動の産卵
 生息地は一面のヨシ原で、所々に倒木・流木(海岸が近いため、満潮時に時として海水が入り込んでいる可能性がありました)があって、樹林に近く日陰になった湿地のそうした木に♀が産卵に来ていました。最初に見た時には大きな蛾がバサバサと飛んで来てドタッて木に止まるように見えました。この日はものすごく個体数が多く、いっぺんに5頭もの♀が同じ木に押あうように産卵している場面も見ることが出来ました。
                    
                                                        非常に敏感な♀、最初5頭いたが次々に飛ばれて、結局2頭のみ
                        
                         後日の撮影、ストロボを弱く当てたもの
                          
                            自然光で撮影
                          
                     昼過ぎの猛暑時に下枝に止まる♂を見つけた
                          
           当地を訪れていた茨城の友人Sさんが見つけた交尾個体、ちゃっかり撮らせて頂いた
                                            
 ネアカヨシヤンマの産卵は昼ごろまでで、それ以後全く観察できませんでした。図鑑や解説書あるいはSNSでは昼ごろから午後にかけて産卵が見られると記述されています。どうも解せません。また、♂の行動も交尾を含めてほとんど観察していませんので、オオルリボシが片付いたらいよいよ本丸を攻める必要がありそうです。
 このネアカヨシヤンマの生息する湿地にはアオヤンマやヤブヤンマさらにマルタンヤンマも多産していています。マルタンヤンマが福島県で初めて記録されたのは2004年でしたが、その後急速に県内各地で記録されるようになってきました。この松川浦にも本種は多産していて、当初その存在にだれも気付かなかったのです。まさかマルタンがいるとは思いもしなかった、と言うよりその生態を知りませんでした。夕刻のヤンマ類の群飛の観察において、はじめて本種が混じって飛んでいることに気が付いたわけです。
 私はどうしても♂の写真を撮りたくて、確実に見られるこの松川浦に足しげく通ったわけですが、現在まで♀はともかく♂はファインダーに収めることができていません。納得いく♂の写真が撮れるまでは写真の発表をあえて控えようと考えていました。しかし2011年の東日本大震災でこの湿地も津波に呑まれ、より海岸部にあったヒヌマイトトンボの生息地は消滅。湿地内外の環境も地形そのものが変わるほどの被害を受け、トンボ類も大打撃を受けました。こうなるといつまでも写真をストックしていても全く意味がないように思う様になって、次第に機会があれば出していこうと思う様になりました。
 本種の交尾は論外ですが、♂のいわゆる「ぶらさがり」は他県の生息地では一般的なのかも知れませんが、松川浦では1度だけ♂が足元に止まっていて、気づかず飛ばれてしまったっきりで、その後1度もぶらさがりを見ていません。♀は見るのですが😢。なんで♂はぶらさがりがいないのだろう?何としても♂の写真をものにしたい中で、ぶら下がりが見れないのは痛い。
 ただその一方で、昨年の9月中旬に(マルタンの発生時期としては当地でも遅い)、樹林に囲まれた沼で夕方遅く♂が池に飛来して、水面上1mほどを1分ぐらいホバリングするのを見ました。また、同刻に複数の♂がホバリング気味に池を不規則に旋回するのも目撃しました。これ、撮影できるんじゃね?と今年期待していたのですが、コロナの後遺症で行けずじまいでした。

 来年こそ♂を撮りたーい!
 
                         
                      羽化した♂、♂の写真は羽化時のしかない
                          
                     沼の土手が笹薮で、♀はその根元に良く止まる
                          

    ルタンも落ち着くまでは非常に敏感ですぐ飛び立つ


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