アキアカネの観察はいつも10月下旬からになってしまいます。これまで、このトンボほど興味が無かったトンボはありませんでした。秋にはごく普通に見られるトンボですし、採集意欲なぞ全く湧きませんから。その感覚は一般の人と同じだったかもしれません。このトンボが持つ数々の不思議な生態についても、興味はなく「Tombo」や「昆虫と自然」なんかに特集が組まれても、またアキアカネかい、とすっ飛ばして読んでいました。
20年以上前に尾瀬のホソミモリトンボを探索に行った時、8月なのに湿地の水溜まりにアキアカネが数ペア産卵しているのを見かけたことがありました。あれつ?何で尾瀬でこんなに早く産卵するのか、と。このことが少しずつアキアカネに関心を向けるきっかけを作っていたのではありますが・・・🙄
10月25~31日の観察
まず、福島県中通り地方中部で成熟個体が大挙飛来して来るのはいつなのか、あまり注意してみていませんでしたが、2022年だと9月10日に初めて多数の連結個体が飛んでいるを観察しました。また以前水田地帯の農道でアカトンボ類の発生消長を調べたことがありましたので、その図を見てみると、9月13日に初めて観察されていますから、まあ9月10日前後といったところなのででしょうか。
ただ、この時期はまだイネの収穫は始まっておらず、田面はコンバインが作業できるよう乾燥させているので、アキアカネが産卵できる環境にはなっていません。全く水田で見ないわけではありませんが、溜池や河川周辺で多く見ることができます。
この時期のアキアカネはマダラヤンマが本格的に生殖活動を行う時期と重なるので観察はしたことはありませんでした。
産卵場を決めて、付近で交尾するペア
これらについては、何か言えるまでにはまだまだ記録の集積が必要であることを感じます。もちろんだからと言って何か出て来るとも限りませんが。特に今回はいずれの地域も平地ですので、今後は山間部や、夏山の山頂部に集まる個体群なんかを調べたいと思います。
なお、アキアカネの生活史については生方秀紀さんの「北海道におけるアキアカネの生活史 」 (2016) Tombo, 58: 1-26. がアキアカネにおける過去の膨大な知見を総括していて、とても参考になります。アカトンボに関心のあるトンボ屋以外の自然志向の一般の人は意外に多く、その人たちにもアカトンボの生活史がどこまで分かって、何が問題なのかを知ってもらうことは大切だと思うのですが、残念ながらこの文献は一般の人たちにとって入手が難しく、日本トンボ学会(本会はいわゆる一般の学会には当たらず、任意団体に該当)に問い合わせしようにもホームページはおろか、事務局の住所すら検索できません。どんどん利用してもらいたいのに、せっかくの重要な文献がこのまま埋もれていくのは誠に勿体ない話です。
今回はもう1つ、10月下旬の交尾行動をもう一度観察してみたいと思いました。昨年も感じたのですが、本種の生殖期間がかなり長いため、マダラヤンマで見られた、時期によって交尾行動を含む配偶行動全般が変化する可能性はないのか?文献を見ても見つからなかったので、手初めに交尾時間を調べてみることにしました。一般には10分程度の交尾持続時間であるように書いてある文献が多いようです。この10分の根拠を示す出典元には当たれませんでしたが、石田さんたちの「日本産トンボ幼虫・成虫検索図鑑」には10分とありました。一方、数分から十数分としているのは井上さんたちの「日本産トンボ大図鑑」です。はたしてこの時期はどうなのか、♂♀共にかなり老熟個体になってきていますから。
田んぼの中の水溜まりに飛来するカップルはオス主導で♀を2,3回振り下げて疑似産卵をおこないます。そして♀が気に入れば(何を判断基準にしているかは全く分かりませんが)、交尾態になって付近に着地します(産卵に不適とする判断は♀がするようで尾端をそり返して♂に合図するようです)。その時から交尾を解くまでの時間を計測しました。しかし、この測定が意外なほど難儀するのです。この時期に特有なのか、交尾態で同じ場所に留まり続けるケースは意外と少なく、ちょっと飛んでは止まるを1,2回繰り返すのです。そこで見失うのです。また他のペアに気を取られている内にどこに居たのか分からなくなってしまうことも多く、なかなか計測数が増えないのです。2日かかって、最初から最後までの交尾継続時間を計測できたのは32ペアに留まりました。これをグラフにしました。
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