2024年1月27日土曜日

オツネントンボの越冬に関する最後の観察

 オツネントンボはいつどこで越冬に入るか

 これが最大の関心事です。以前のブログでは標高700mの山地での越冬を集団越冬の形で観察してきました。しかし、平地での本種の越冬生態は少し事情が違うようです。12月9日この日は非常に暖かく、朝6時は0℃でしたが、昼には16℃に上昇しました。午前10時に気温はまだ9℃だというのに生き残っているアキアカネは相変わらず交尾して、交尾後繋がったまま迷うことなく南の方角に飛び去りました。しかし付近の田んぼを見て回りましたが、産卵しているペアはどこにも見当たりませんでした。
 さて、12月5日にはほとんど姿を見なかったオツネントンボが、この日は斜面にかなりの数が見られました。どこから出てきたのか不思議です。可能性は低いと思いますが、もし樹上で越冬するならお手上げです。
                   
                   この倒木の周辺にオツネントンボが集まる. 12/9

 この越冬地をもっと詳しく見てみることにしました。雑木林の縁に当たるこの場所は水田 
わきの農道に接していて、急な斜面になっています。トンボはこの斜面に見られるのですが、良く見るとそのオツネントンボは極めて限られた場所に見られることが分かりました。斜面のどこにもいるものだと思っていましたが、この日は上の写真に示す、倒木のある一帯に集まっているのです。そういえば、以前山間地の観察では越冬場所周辺の密度が越冬直前に最高になったことを忘れていました。とすれば、この倒木が越冬地になっているのでは?集団越冬の観察では昼にかけて越冬場所に飛来して、そこから歩いて隙間に入り込むことがわかっていますので、昼前に観察してみました。
                     
                    
                       倒木に飛来するオツネントンボ

 オツネントンボは11時頃から頻繁に倒木に飛来するようになりました。飛来した個体はしばらくすると倒木の上を歩きだし、体が入りそうな割れ目を探すしぐさを見せ、中にはスーと入ってしまう個体もありました。しかし、その場合でもすぐに出てきて、他の個体同様1,2分で飛び去ります。それらの個体は倒木からさほど離れていない(1~3m)場所の笹竹の根元に静止し、午後2時ぐらいまで、倒木や周辺の斜面の樹木のひこばえなどに飛来・移動を繰り返します。
 この状況は山間部の集団越冬を観察した時の状況に非常に似ていました。この状況だと倒木の割れ目に入り込んで越冬するにはまだしばらくかかりそうに思います。その間トンボたちは連日倒木に飛来しては、越冬場所となる割れ目を値踏みしているように思えます。何か考えて行動しているようにどうしても思えてしまいます。
                    
               オツネントンボが越冬していたマツの朽木(自然倒木)
 
  12月21日、この日は朝の気温が前日と同じ-5℃となり本格的な冬の季節となりました。オツネンはどうしたかと、現地に行ってみました。相変わらずの風景、何も変わらないように思いました。予想はしてましたが、オツネントンボはもう斜面にはいません。どこに行ったのか、朽木の割れ目を覗いてみてもそれらしい姿はありません。いよいよ分からなくなってしまいました。しょうがないので帰るしかないかと、マツの倒木(完全に朽ちている)をまたいだ時に、うっかり幹を蹴ってしまい、樹皮が剥がれ落ちちしまいました。樹皮が落下したした幹に、あれっ、オツネントンボが顔を出しているではありませんか!
                    
             ドライバーで突き崩した木質部から現れた越冬中のオツネントンボ
 
 樹皮下の材は穿孔性昆虫によって完全に食い尽くされていて、その孔道内に完全に身を潜めています。樹皮はかなりの材を伴って落下してます。オツネントンボは少なくとも樹皮下2~3cmの材部と結構深く入り込んでいるわけで意外でした。どうりで表皮を剥いだぐらいでは見つからないわけです。
 そこで表皮を剥いで材部を崩していくと、次々に越冬中の個体が見つかりました。
                   
                   
        コツが分かると次々に見つかる。一番下は表皮から5cm以上も深い場所で越冬する個体

 ほとんどが単独、あるいは2頭ぐらいでいることが多く、いわゆる何10頭も固まって見られることはありませんでした。このマツの朽木で何10頭もいっしょに入れるほどの大きな食孔は無いのかも知れません。
 さらに類似の環境で、倒木となった主にマツ、スギの朽木を同様に表皮から数センチの深さの木質部に出来た孔道をバールで慎重に崩しながら調べていくと、写真にあるような環境のもとにオツネントンボが越冬している姿を確認しました。やはり、オツネントンボの自然状態での越冬場所は日の当たる場所に倒木となった朽木で、表皮から数cmの深さにある穿孔性昆虫が穿った食孔の中で越冬することが分かりました。もちろん朽木の割れ目なども越冬場所になるのでしょうが、相当深い割れ目でないと越冬には向かないと思います(表面からは数センチの深さがある割れ目)。
 
 長年、自然状態での本種の越冬態を追い求めてきましたが、個人的にやっと確認できたという喜びよりも、やっと終わったかという気持ちが正直あります。

これまでの観察から、以下のことが明らかになったと思います。
1 標高250m、北緯37度20分21秒、東経140度19分23秒 付近の越冬地での越冬時期は12 
  月15日前後である(ほとんどの個体が越冬状態になる時期)。
2 新成虫が現れる6月下旬から7月中旬以降、越冬地となる地域の個体数は次第に増加する。
3 成虫は夜間樹上には上がらず、地表近くのイネ科植物や樹高の低い灌木の枝で夜を明か
 す。
4 越冬期前には夜間や、気温が10℃以下の日中は越冬地近くの植物の根際10~20cmの位
  置に定位することが多く、気温が高ければ盛んに活動して摂食を行う。
5 11月には晴れて、気温が10℃以上でも活動は14時半には終了して、夜に備える。
6 越冬直前には越冬場所となる倒木や朽木周辺に集まり、飛来ー離脱を繰り返すようにな 
 る。この場合、多くの個体が朽木の隙間や穴に入っては、すぐに出て来るなどの行動が見
 られた。
7 越冬は飛来した個体が歩いて朽木の隙間に躊躇なくすぐに入る。飛来は昼前後に見ら
 れる。越冬場所は朽木の木質部深く、表皮から数cmの深さである。穿孔性昆虫が穿
 った食孔内部を歩いて、深い位置にたどり着くものと思われた。






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