2024年12月23日月曜日

アキアカネの精子を見る

必要な器具をそろえる( 1-6まではネット通販で簡単に購入できます)

1 解剖バサミ・ピンセット 先が細ければ細いほど良いが高くなる。写真に示したものは1200円ぐらい。
2 ホモジナイザー 小さなサンプルを磨り潰すので最小のものを用意する。今回はアズワン ホモジナイザーペッスル 0.5mLチューブ用を1700円で購入した。10本入り。
3 マイクロ遠沈チューブ0.5ml用 これには目盛りが付いているが1000個入りで2500円
4 血球計算板 中国製だがまあまあの出来。2500円
5 メスピペット  1mlアズワン製980円
6 解剖用シャーレ、ゴム板および虫ピン 
7 実体顕微鏡(昆虫が好きな人なら必需品、解剖に使う、中古なら10000円程度からあるようです)
8 透過式顕微鏡 (これが無いと精子は見えない。中古で20000円ぐらいからか)
                                                            

♀の解剖の実際

 採集したアキアカネは冷凍庫に入れて保存します。凍結した個体は解凍後、腹部を切り離し、尾部に向かって正中線に沿って表皮を第9節付近まで切ります。これをシャーレにゴム板を敷いたものに置いて、第10腹節を虫ピンで固定して水を張ります(適当な深さまでに)。

                                                         
                                     ハサミの下刃を正中線に沿って入れれば消化管を切ることは無い
 
イ 適当な位置で表皮を左右に開き虫ピンで固定します。            

         
写真の上が斜めに切れているのはLEDランプの縁が当たっている

ウ ここからは慎重に行きます。生殖器と卵巣の上になって見える消化管を切除します(本来は第9-10腹節間の内膜を切って、さらに腹部側に切れ込みを入れて第10節を引っ張ると綺麗に消化管を一緒に引き抜けるのですがメンドクサイので)。消化管には多数の脂肪球や栄養腺が付着してますので、慎重に虫ピンで探りながら消化管を浮かし解剖ばさみで第9節にある肛門頂上部で切り離します。この際肛門基部まで刃先を下げて切ると、生殖器や卵巣を傷つける可能性がありますから必ず生殖器よりも高い位置で肛門部位を切り離します。
       
              
エ 余分な脂肪球や脂肪腺等をピンセットで除去し、生殖器と卵巣を露出させます。
                    

オ ここで生殖器と卵巣の繋がりや形・構造をしっかり頭に入れておきます。これを怠ると切除した受精嚢がどれなのか分からなくなってしまう可能性があります。
カ 慎重に受精嚢の基部からハサミを入れて交尾嚢から切り離し、ピンセットや虫ピンで掬い上げて、マイクロ遠沈チューブに移します。
                    
                  チューブ内の水滴中に受精嚢がある. こんなに小さい

キ 受精嚢を入れたマイクロ遠沈チューブに水道水0.1mlを加えます。
ク ホモジナイザーを指で同じ回転角度(大体でいい)で決めた回数でグリグリとマイクロ遠沈チューブ内の受精嚢を磨り潰していきます。
                    
             ホモジナイザーとチューブ内壁を密着させてグリグリとやる
 
ケ 血球計算板を用意します。あらかじめ計算板とカバークラスをアルコールで表面をクリーンアップしておきます。チューブ内から磨砕液をパスツールピペット(なければ百均で売っているビニール製ピペットでも良い)で吸い上げ、血球計算板にカバーグラスを載せ、その隙間に慎重に磨砕液を流し込む。余剰液は計算版の溝に溜まるが問題ない。
                   
               
コ 計算版を透過式顕微鏡を用いて平均精子数を計算する。計算方法は血球計算場の説明書を見ればよい。 
                    
         写真をクリックしてみると無数の短かく細い針の様な精子が見える (200X)
                                                       Sperm of Sympetrum frequens 

 アキアカネの精子は以前行った、マダラヤンマやオオルリボシヤンマのそれとは異なり、大きさ(長さ)は1/4程度しかなく、しかも明瞭なヘッド部分が見えません。通常、卵の受精には受精嚢内の精子が使われます。交尾時の精子は交尾嚢内に蓄えられると言われています。時間と共に交尾嚢内の精子は受精嚢内に移行します。この際、ルリボシヤンマ属では交尾嚢内で精子束として蓄えられた精子は♀から栄養物質を供給されてさらに発育するとされています。そしてある時期に達すると、精子束が♀からの分泌物で溶けてバラバラに遊離の精子となって受精嚢内に蓄えられるのだそうです。ただトンボ科では受精嚢がなく、交尾嚢と考えられるような器官だけを持つ種も多く、分類学的にもこの部分の比較は面白いと思います。
 アキアカネの精子は♀の体の中では特に交尾嚢内でどのような形態であるか、そういえばまだ確認していませんでした。精子束であればこれを遊離精子にしなければ受精できませんから、交尾から産卵までは少し時間が必要になるでしょう。はたしてそんなことがおきているのでしょうか?一歩進むとまた疑問がでてきて、この堂々巡りで、これは一筋縄ではいきませんね


 

2024年12月7日土曜日

福島県のネアカヨシヤンマとマルタンヤンマ

 トンボ好きのあこがれのトンボ

  福島県におけるネアカヨシヤンマとマルタンヤンマは、現在こそ多産地や記録が各地にあるなど、今ではトンボ仲間の中では普通に語られる種類となっていますが、以前はマルタンヤンマはともかく、ネアカヨシヤンマが生息しているなどと全く予想しておらず、わざわざ茨城県のトンボ仲間に水戸市周辺のネアカ産地を案内してもらったものでした。
 マルタンヤンマも同様に福島県内では無理かなと思っていました。ラオスに行った時、早朝の村のマーケットでヤゴがたらいに入って並んでいました。良く見るとヤンマ科のヤゴが混じっていて、それはAnaxとAnaciaeschna属のヤゴであることが分かりました。オバチャンの不信者を見るような視線を感じつつ、無数のヤゴの中からAnaciaeschna属のヤゴをつまみ上げ、ただ同然のような代金をはらって持ち帰りました。後日羽化したのはマルタンヤンマとトビイロヤンマでした。このように東南アジアでもマルタンヤンマはたくさんいるので、マルタンは南方系のトンボという感が強く福島県には居ないだろうなと思っていました。
 
 運命の電話
 忘れもしない2006年夏のある夜、梁川町の三田村敏正博士から電話が掛かって来ました。何でも松川浦でネアカヨシヤンマが多数見られたと。ネアカ?咄嗟に何を言っているのか理解できませんでした。はて、何で松川浦なのか?ちぐはぐな返答に、当の三田村さんは私がとうとうラオス病に罹り日本のトンボを忘れてしまったと思ったそうです。
 まあ、そのぐらいありえない事と自分では思っていたのです。翌日、半信半疑でカメラもバカチョン(当時のコンパクトカメラ)だけを持って、松川浦に出かけて行きました。本当かいな?
 震災前の松川浦の産地は公園化され遊歩道も完備していましたが、何処にネアカがいるのか皆目見当が付きません。遊歩道を歩っていてもそれらしい姿はおろか湿地も見つかりませんでした。しばらく行くと、水溜まりにヤンマの死体が浮いていました。近寄って良く見てみると、ムムッ!何とネアカの雌ではありませんか!えっ、本当かい、本当にネアカかい!三角紙も持って来ていません。震える手で、ほぼ原形をとどめていない個体をフキの葉に包んで、大切にリュックにしまいました。
 その後散々歩き回ってようやく発生地を探し当て、夢にまで見た生きたネアカヨシヤンマに出会うことができました。そして黄昏の大群飛、うわー!なんとういう素晴らしい光景!ここは福島、本当に目の前の光景は現実なんだと実感した瞬間でした。中学生の時、初めて石田省三さんの日本のトンボで衝撃的なネアカヨシヤンマのカラー写真を見て以来、やっと念願のトンボをしかも福島で見ることが出来ました。本当に三田村さんには感謝、感謝しかありません。
                     
                         初めて見た感動の産卵
 生息地は一面のヨシ原で、所々に倒木・流木(海岸が近いため、満潮時に時として海水が入り込んでいる可能性がありました)があって、樹林に近く日陰になった湿地のそうした木に♀が産卵に来ていました。最初に見た時には大きな蛾がバサバサと飛んで来てドタッて木に止まるように見えました。この日はものすごく個体数が多く、いっぺんに5頭もの♀が同じ木に押あうように産卵している場面も見ることが出来ました。
                    
                                                        非常に敏感な♀、最初5頭いたが次々に飛ばれて、結局2頭のみ
                        
                         後日の撮影、ストロボを弱く当てたもの
                          
                            自然光で撮影
                          
                     昼過ぎの猛暑時に下枝に止まる♂を見つけた
                          
           当地を訪れていた茨城の友人Sさんが見つけた交尾個体、ちゃっかり撮らせて頂いた
                                            
 ネアカヨシヤンマの産卵は昼ごろまでで、それ以後全く観察できませんでした。図鑑や解説書あるいはSNSでは昼ごろから午後にかけて産卵が見られると記述されています。どうも解せません。また、♂の行動も交尾を含めてほとんど観察していませんので、オオルリボシが片付いたらいよいよ本丸を攻める必要がありそうです。
 このネアカヨシヤンマの生息する湿地にはアオヤンマやヤブヤンマさらにマルタンヤンマも多産していています。マルタンヤンマが福島県で初めて記録されたのは2004年でしたが、その後急速に県内各地で記録されるようになってきました。この松川浦にも本種は多産していて、当初その存在にだれも気付かなかったのです。まさかマルタンがいるとは思いもしなかった、と言うよりその生態を知りませんでした。夕刻のヤンマ類の群飛の観察において、はじめて本種が混じって飛んでいることに気が付いたわけです。
 私はどうしても♂の写真を撮りたくて、確実に見られるこの松川浦に足しげく通ったわけですが、現在まで♀はともかく♂はファインダーに収めることができていません。納得いく♂の写真が撮れるまでは写真の発表をあえて控えようと考えていました。しかし2011年の東日本大震災でこの湿地も津波に呑まれ、より海岸部にあったヒヌマイトトンボの生息地は消滅。湿地内外の環境も地形そのものが変わるほどの被害を受け、トンボ類も大打撃を受けました。こうなるといつまでも写真をストックしていても全く意味がないように思う様になって、次第に機会があれば出していこうと思う様になりました。
 本種の交尾は論外ですが、♂のいわゆる「ぶらさがり」は他県の生息地では一般的なのかも知れませんが、松川浦では1度だけ♂が足元に止まっていて、気づかず飛ばれてしまったっきりで、その後1度もぶらさがりを見ていません。♀は見るのですが😢。なんで♂はぶらさがりがいないのだろう?何としても♂の写真をものにしたい中で、ぶら下がりが見れないのは痛い。
 ただその一方で、昨年の9月中旬に(マルタンの発生時期としては当地でも遅い)、樹林に囲まれた沼で夕方遅く♂が池に飛来して、水面上1mほどを1分ぐらいホバリングするのを見ました。また、同刻に複数の♂がホバリング気味に池を不規則に旋回するのも目撃しました。これ、撮影できるんじゃね?と今年期待していたのですが、コロナの後遺症で行けずじまいでした。

 来年こそ♂を撮りたーい!
 
                         
                      羽化した♂、♂の写真は羽化時のしかない
                          
                     沼の土手が笹薮で、♀はその根元に良く止まる
                          

    ルタンも落ち着くまでは非常に敏感ですぐ飛び立つ


アキアカネの精子を見る

必要な器具をそろえる( 1-6まではネット通販で簡単に購入できます) 1 解剖バサミ・ピンセット 先が細ければ細いほど良いが高くなる。写真に示したものは1200円ぐらい。 2 ホモジナイザー 小さなサンプルを磨り潰すので最小のものを用意する。今回はアズワン ホモジナイザーペッスル...