必要な器具をそろえる( 1-6まではネット通販で簡単に購入できます)
1 解剖バサミ・ピンセット 先が細ければ細いほど良いが高くなる。写真に示したものは1200円ぐらい。
2 ホモジナイザー 小さなサンプルを磨り潰すので最小のものを用意する。今回はアズワン ホモジナイザーペッスル 0.5mLチューブ用を1700円で購入した。10本入り。
3 マイクロ遠沈チューブ0.5ml用 これには目盛りが付いているが1000個入りで2500円
4 血球計算板 中国製だがまあまあの出来。2500円
5 メスピペット 1mlアズワン製980円
6 解剖用シャーレ、ゴム板および虫ピン
7 実体顕微鏡(昆虫が好きな人なら必需品、解剖に使う、中古なら10000円程度からあるようです)
8 透過式顕微鏡 (これが無いと精子は見えない。中古で20000円ぐらいからか)
♀の解剖の実際
ア 採集したアキアカネは冷凍庫に入れて保存します。凍結した個体は解凍後、腹部を切り離し、尾部に向かって正中線に沿って表皮を第9節付近まで切ります。これをシャーレにゴム板を敷いたものに置いて、第10腹節を虫ピンで固定して水を張ります(適当な深さまでに)。
ハサミの下刃を正中線に沿って入れれば消化管を切ることは無い
イ 適当な位置で表皮を左右に開き虫ピンで固定します。
ウ ここからは慎重に行きます。生殖器と卵巣の上になって見える消化管を切除します(本来は第9-10腹節間の内膜を切って、さらに腹部側に切れ込みを入れて第10節を引っ張ると綺麗に消化管を一緒に引き抜けるのですがメンドクサイので)。消化管には多数の脂肪球や栄養腺が付着してますので、慎重に虫ピンで探りながら消化管を浮かし解剖ばさみで第9節にある肛門頂上部で切り離します。この際肛門基部まで刃先を下げて切ると、生殖器や卵巣を傷つける可能性がありますから必ず生殖器よりも高い位置で肛門部位を切り離します。
エ 余分な脂肪球や脂肪腺等をピンセットで除去し、生殖器と卵巣を露出させます。
オ ここで生殖器と卵巣の繋がりや形・構造をしっかり頭に入れておきます。これを怠ると切除した受精嚢がどれなのか分からなくなってしまう可能性があります。
カ 慎重に受精嚢の基部からハサミを入れて交尾嚢から切り離し、ピンセットや虫ピンで掬い上げて、マイクロ遠沈チューブに移します。
キ 受精嚢を入れたマイクロ遠沈チューブに水道水0.1mlを加えます。
ク ホモジナイザーを指で同じ回転角度(大体でいい)で決めた回数でグリグリとマイクロ遠沈チューブ内の受精嚢を磨り潰していきます。
ケ 血球計算板を用意します。あらかじめ計算板とカバークラスをアルコールで表面をクリーンアップしておきます。チューブ内から磨砕液をパスツールピペット(なければ百均で売っているビニール製ピペットでも良い)で吸い上げ、血球計算板にカバーグラスを載せ、その隙間に慎重に磨砕液を流し込む。余剰液は計算版の溝に溜まるが問題ない。
Sperm of Sympetrum frequens
アキアカネの精子は以前行った、マダラヤンマやオオルリボシヤンマのそれとは異なり、大きさ(長さ)は1/4程度しかなく、しかも明瞭なヘッド部分が見えません。通常、卵の受精には受精嚢内の精子が使われます。交尾時の精子は交尾嚢内に蓄えられると言われています。時間と共に交尾嚢内の精子は受精嚢内に移行します。この際、ルリボシヤンマ属では交尾嚢内で精子束として蓄えられた精子は♀から栄養物質を供給されてさらに発育するとされています。そしてある時期に達すると、精子束が♀からの分泌物で溶けてバラバラに遊離の精子となって受精嚢内に蓄えられるのだそうです。ただトンボ科では受精嚢がなく、交尾嚢と考えられるような器官だけを持つ種も多く、分類学的にもこの部分の比較は面白いと思います。
アキアカネの精子は♀の体の中では特に交尾嚢内でどのような形態であるか、そういえばまだ確認していませんでした。精子束であればこれを遊離精子にしなければ受精できませんから、交尾から産卵までは少し時間が必要になるでしょう。はたしてそんなことがおきているのでしょうか?一歩進むとまた疑問がでてきて、この堂々巡りで、これは一筋縄ではいきませんねえ。