2021年6月18日金曜日

墓地のムカシヤンマ(2)

                      

                     正面の岩場とその上の草付きが発生地

  結局、この斜面から羽化したのは十数頭(予想)で、調査対象とした岩場(長さ15m×高さ5m) からは計9頭が短期間で羽化しました。羽化後、この岩場を含む斜面及び付近でムカシヤンマを見ることはありませんでした。その後いつこの岩場に現れるのか、毎日確認に行きました。6月5日、ようやく複数の♂が戻りました。成熟までには約17日かかったということになりました ( あくまで羽化した個体が戻ってくると仮定してでの話です) 。       
 そこで成熟した個体の活動を12日と13日後の6月17日と18日の両日に早朝から発生地に詰めて終日、観察してみることにしました。私はこの時期を発生中期と考えていました。17日の天気は前日の大雨からようやく天候が回復しつつある状況で、曇りですが、じょじょに雲が薄くなってきました。翌18日は朝から快晴でした。
 17日は当地の朝8時30分の気温は19℃でした。ムカシヤンマは9:21に♂1頭が飛来してきました。一方、18日は同じ気温でしたが、最初の♂は8:42に飛来し、晴れていて陽が射していると飛来は早くなるようです。                            
                                                          岩場に飛来した♂ 17/6/2021 郡山市       

                            同  

                              側溝で待機する♂, 岩場全体が見えてよく♂が止まる             

                         同じく見通しが効く岩場手前の草地で待機する♂

交戦好きなオスたち
 この岩場の広さから、オスが縄張りを張れる範囲は限られ、せいぜい2頭が良いところでしょう。しかし観察を続けると、どんなに離れて岩場に定位している♂たちでも一方の♂が飛び立つと必ず他方の♂がスクランブルをかけて激しい空中戦になります。ガシャガシャとかなり激しくやり合います。この時期すでに♂の翅は相当痛んでます。とにかく飛び立てばすぐ空中戦です。翅もすぐにぼろぼろになるわけです。侵入♂に対して待機中の♂が飛び立って争い、空高く上昇して、決着がついて一気に両方が降下して劣勢だった方がこの場を離れます。そして再び勝者が待機。午前中この岩場には1♂が定位しているのがほとんどで、2♂の場合はそう長く続きません。結局どっちかが追い出されます。そして新な♂がたまに侵入すればまたすぐにスクランブル、こりゃたまったもんではありません。ひっきりなしに新たな♂が侵入すればさすがのムカシヤンマも体が持ちません。
 両日とも午前中は岩場には大体常時1~2♂が見られ、午後になると侵入♂の頻度が増えました。そして午後3時以降は岩場に3~4頭の♂が入れ代わり立ち代わり常駐し、そのたびに3,4頭による激しい空中戦がおこなわれ、はちゃめちゃになります。これは特に終日快晴で気温があがった18日に顕著となりました。見ている私も、もはやこの状況にくたくたになってしまいました。もうこの連中に付き合うのはコリゴリです。やっと♂が姿を消してくれたのは17日が15:30、18日が16:45で、気象条件によって異なりました。
          
           この野郎、まてー!とばかり同じ岩場に定位していた♂同士の争い             
                     
                        車のすぐそばで争う♂たち

                                             争いの終盤, この状態でどんどん上昇して勝敗が決まる

監視オスの死角で産卵
 このように、常時雄によって見張られている岩場とその上部の草付きの湿地に♀は産卵のためになかなか近づけません。しかし、♂たちが好んで定位する岩場は角度が垂直に近い角度で、ここに止まると岩場の上面にある草付きの湿地は全く見えません。逆に考えれば、なぜ見通しの悪い場所に陣どって何やってんだいと言いたくなります。この位置だとほとんどがライバル雄対応の止まり方になってしまいます。10:31♀は湿地の上部から現れました。しかし岩場の上の湿地までしか来ません。分かっているのでしょうか、それ以上下の岩場には降りようとしません。岩場には♂が1頭張り付いています。♀は草のなかに潜り込んで産卵を始めました。わずかに移動する際にかなり翅音がしますが、♂は全く無反応です。♀はそんな♂を後目に産卵を続けます。産卵は20分継続しましたが、その間♂は♀の存在を知ることはありませんでした。ゆうゆうと産卵を終えると♀は一気に飛び去って行きました。
                       
                         
                       集中して産卵に勤しむ♀
交尾のために飛来する♀
 ♀はこの岩場に飛来する目的は明らかに産卵ですが、どうも明らかに交尾が目的で飛来する個体があるようです。♂が複数、例によって大騒ぎしている中にわざわざ飛び込んで来て、♂の目の前を産卵するような仕草をしながら飛んで、♂の注目を引く♀がいるのです。複数の♂がたちどころに♀に殺到し、地面に団子状になって転がります。その様はお、お前たちほんとにトンボかよ、と。そして大体3連結になったりしながら、連結ペアが岩場を離れ、近くマツの木の幹や梢に止まって移精して交尾します。♀にも感情(私はそう思わずにはいられません)があって、産卵中の♀は♂が強襲して強引に交尾のために連れ去るのが不本意なんでしょうね、いやいや♂に捕まって、連れていかれる時に、全くやる気なしで、だらんと飛ぶ気なしの雌がしばしば見られます。この時はさすがに雄は♀の巨体を自身の飛翔力だけで持ち上げることはできず、付近の草むらに不時着し、そこで雄も不本意ながら交尾する姿があります。「産卵中の♀が♂に捕まる例は決して高くはなく、見つかって、♂の捕捉行動があった場合、ほとんどの♀は産卵を中断して猛烈な勢いで逃げ去ることが多いようです(この部分は昨年までの観察から)」。    
                     

                      
          
 ♂は♀を拾い上げたと同時に移精して、近くのマツの梢と飛び去る (18/6/2021郡山市)
                       
        
        

                    マツの幹で交尾するペア ( 4/6/2020 郡山市)

 ♂の配偶行動問題点
 ♂は上述したとおり、♀が産卵にやってきそうな水が滴る斜面で、他の♂と果てしない競争をしながら待ち伏せして、運が良ければ産卵に訪れた♀と交尾します。しかし考えてみれば、今回の観察で、終日見ていて産卵に飛来した♀の数は、わずかに2日間で5頭で、うち交尾したのは2頭のみでした。この間、この岩場には延108頭の♂が着地しました。この108頭が全て異なる♂では極端に1頭あたりの交尾可能な確率は低下してしまうでしょうが、限られた複数の♂だけだったにしても、♂にとって、交尾は並々ならぬ努力が必要だと考えざるを得ません。ですが、今回これを証明するすべがありません。羽化時や発生初期にマーキングすべきだったと悔やまれます。ただ空中戦で入り乱れた時の最大個体数は5頭でしたから、この岩場を対象に集まった♂たちの数は、もっと多かったことは予想がつきます。ただそれらがどの程度新規個体と入れ替わり続けたのか、肝心の部分がわかりませんでした。
 またあぶれ♂?の存在もあります。岩場では午前中は1、2頭しか定位できませんでした。それとてしょっちゅう小競り合いで追い出されたりの繰り返しで、どのくらいの個体が追い出されているのかは分かりませんが、岩場から30mほど離れた斜面に複数の♂が間隔をとって止まっているのを観察しました。岩場の状況を見ながらそちらの方も気にしていたところ、産卵を終えた♀がそちらの方に飛んで行って、たちどころに複数の♂によって捕捉され連結態となって飛び去るのを見ました。
 このことから、岩場に定位できない、いわゆるあぶれ♂(意外に数が多いかも)が周辺で産卵が終わった、あるいは産卵に訪れる♀を待ち伏せしている可能性があります。
 今年はさすがに食傷気味ですので、来期あたりにこの問題を調べてみようかと思います。
                      
           手前の岩場が発生地. 奥の30m離れた赤い矢印の地点に複数の♂が止まっている







 


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