2021年6月4日金曜日

キイロサナエとヤマサナエ

福島県のキイロサナエ 
 アジアサナエ属は東南アジア~東アジアから28種が知られ、うち日本には5種が固有種として生息しています。今後、中国及び東南アジアからはまだまだ新種が出てくると思います。東南アジア産に比べ中国南部~日本産の種類は体が大きい特徴があります。しかし生態はいずれの地の種類も日本産と大きく変わることはありません。                                                                    
 これまで福島県からはヤマサナエのみが全県下に分布しているとされていましたが、2019年6月に樋尾隆氏(苫小牧市)によって初めていわき市の茨原川からヤゴが採取されました。さらに 樋尾氏から連絡を受けた玉田明洋氏(仙台市)はいわき市南部を中心に10ヶ所を精力的に調査して、複数の地点から成虫と多数の幼虫を得られ、それらの内容を2021年度の日本トンボ学会誌に報告されました(TOMBO 63: 81-82.) 。
 これとは別に私も樋尾さんから茨原川のヤゴの採取、本種と思われる産卵の写真を撮影した場所をうかがっていて、3回ほど現地で探索しましたが、全く手がかりすらつかめませんでした。そうこうしている内に、2020年に樋尾さんから玉田さんがいわき市南部で成虫を採集したとの情報をお寄せていただいて大変驚きました。その後、玉田さんからは直接採集地の情報を詳しく教えていただきましたので、7月下旬におおよその目星をつけていわき市の生息地と思われる場所に行ってみました。
 いわき市の生息地は平地が少なく、非常に入り組んだ丘陵地帯にあると言えます。環境に最も影響を及ぼしている水田は、会津・中通り地方にはあまり馴染みのない小面積の谷戸的な水田景観を呈している所が多いようです。また、溜池や小河川からの用水路も流域面積が小さいので、そのまま小規模に整備された河川水路を利用している例や、簡単な素掘りの水路がかなり目立っていて、日本の農村の原風景的な印象が持たれるほどでした。
                  
                          いわき市のキイロサナエの生息地の景観 20/7/2020
 
 9時に到着するなり、細い流れの河畔にキイロサナエの姿がありました。あまりにもあっけなく出会えて、ずっこけてしまいました。しかし、個体数はさすがに発生末期となっているためか少なく、2、3頭の♂が生き残っているように見受けられました。生態はヤマサナエと変わりません。最初はヨシの上の方の葉に止まっていたのが、時間が経過するにしたがって、岸辺の下草に止まって♀を待つようになりました。当初警戒して、近づくと敏感にパッと飛んでヨシ原の方に飛び去りましたが、次第に警戒心が無くなるのか、飛んでもすぐに岸部に戻ってくるようになりました。
 ♀はなかなか現れず、昼前に1♀のみが産卵にやって来ました。♀は結構流速のある川面に密生するヨシの間に潜り込んで間欠打水産卵を行い、すぐに飛び去りました。また、ちらほら見られた♂たちも午後になると姿を現さなくなりました。まあ、発生末期ですので、来期、もう一度ゆっくり生態を観察したいと思います。キイロサナエの生息地は河川環境がU字溝でないことや、草深く河床が泥深いことなどの特徴がありました。圃場整備が進んで用排水路が完備されている稲作地帯では生息の可能性は低いのかなあと思わざるを得ません。
                    
       ヨシの葉にとまる♂, かなり老熟した個体.9時ころはまだ川岸の低い場所には降りてこない
            
                川岸で♀を待つ♂
                                                      
                                  唯一観察できた♀, 卵塊を作ってこの後産卵に移る

 今回のブログは樋尾さん、玉田さんの記録・報告が公になったことを受けて作成しました。福島県初記録となったキイロサナエは樋尾さんと玉田さんお二人の発見が無かったら、ほぼ永久に分からずじまいだったと思います。本当にお二人には感謝、感謝です。

森林公園のヤマサナエ
 福島県におけるヤマサナエは全県下(南会津地方では非常に少ない)に普通に見られます。一般には中小河川が丘陵地帯から平野部に流れ出る一帯に多く見られます。いわき市茨原川ではキイロサナエが平野部に流れ出る場所から下流域に、ヤマサナエがその上流に分布します。また、郡山市では山間部に入った、その時期にはミルンヤンマが飛ぶような木々が覆いかぶさった渓流にも見られたりします。最近はこのトンボを追いかけることは無くなりましたが、近くの森林公園に多産し、このコロナ過をやり過ごすのにもってこいだと、時々見に行ってます。
 今年は5月15日に羽化が始まり、31日に最初の♂の待ち伏せが観察されるようになりました。私は知らなかったのですが、羽化した個体は雌雄共に羽化場所から飛び去ってしまうのかと思っていたら、多くの個体はその羽化場所周辺の樹林というよりは流れの周辺のツツジの植え込みや草地に滞留して、時折飛んで餌を採ることを繰り返していました。夕方は周囲の樹林の梢に飛び去りますが、翌日は再び羽化した流れの周辺に集まってきます。体色が黄色の♂個体は決して川岸に飛来して配偶行動を行うことはありません。
                     
                                            ヤマサナエが多産する生息地の景観


     驚くとホバリングするため写真を撮りやすいが、意外とピントが合う事は少ない苦手のトンボ
                      
                        陽を避けて止まる♂
                                                                               
 森林公園の流れは人工的なもので、水深はほとんど無く、チョロチョロと流れていて、少々本来の生息地とは異なるような場所なのですが、個体数は多く、本種の生息条件としては問題がないのでしょう。川底はコンクリートで、こぶしより大きめの石が規則正しく、全面に埋め込まれています。♂はそうした石に止まって♀を待っていますが、1頭づつ、約2.5~3mほどの間隔で止まっています。♀は♂が待ち構えている場所に来るとは限らず、思わぬ場所に飛来したりしますが、おおむね好みの場所があって、産卵は毎回この場所に集中します。しかし、♂はなかなか気が付かないのか、その場所で♀を捕獲することは非常に少ないように思えます。
                    
                 産卵に飛来した♀を真上から撮影

                    ホバリングして卵塊を作る最中の♀
                         
                発生末期の♀. 体色がくすんで毛羽立っている 25/6/2020

 
産卵は私の場合、うまく撮れたためしがありません。毎回、♂よりも焦ってしまいます。これは個人的な感想なのですが、産卵は発生期間中、成熟して川に戻り始めた頃が最も多く観察されるような気がします。当然、生息密度は死亡による減少と♀自体の能動的な分散によって低くなっていくものだと思いますが、考えているよりも早い段階で分散が起きてはいないか気になります。


                          
 



















 7月19日、

2 件のコメント:

  1. こんにちは。
    ヤマサナエ、白河では5月11日から羽化を確認出来ました。今年もキイロサナエ探してみます。

    返信削除
  2. コメントありがとうございました。白河市南部、白坂あたりは環境が似ています。可能性があるのではと思います。

    返信削除

ミルンヤンマ、アオヤンマ、ネアカヨシヤンマ、そしてヤブヤンマの学名が変更になった!

(このブログはパソコンで読んでください。携帯では文字化け行づれが起こります。)  先ごろ行われた日本トンボ学会で、トンボ界を代表する若い講演者がクイズ形式で最近のトンボ事情を面白おかしく発表されました。その中にミルンヤンマの学名変更の話があったような気がしました。あまり事の重大さ...