はじめに
一般的なオツネントンボの産卵形態
オツネントンボがアスパラガスに産卵することを知ったのは、2018年の夏のことでした。福島県農林水産部の F さんからオツネントンボと思われるイトトンボがアスパラガスに産卵しているので、こうした事例はあるかという問い合わせを受けたのです。その時送られてきた写真を見てさすがにビックリしました。本種が畑の作物に産卵することなど聞いたことがないですから。Fさんに詳しく聞いてみると、会津地方に広くそうした事例が見られ、一部で問題になりつつあるとのこと。翌年、F さんの御厚意で実際に現地を見て回ることができました。しかし産卵が確認されたアスパラ畑を見れば見るほど、何でこんなところで産卵するのかという謎が深まるばかりでした。残念ながらその時は産卵は見ることができませんでしたが、アスパラガス畑にオツネントンボが集まっていて、交尾を確認することが出来ました。
こうなると、オツネントンボは明らかに新農業害虫となり、本邦産トンボにおいてオオアオイトトンボと肩を並べる(実害ではアスパラガスがはるかにインパクトがある)害虫となったわけです。また、当然こうした事例は農業分野でのトピックとなり、ネットではすでに2019年の第3回全国アスパラガスシンポジウムにて、オツネントンボがアスパラガスに産卵する事例報告(福島県関係者が発表したのかも?)があったと紹介されてます。
しかし、一部の生産者や関係機関の方々以外にはこの話は伝わっていません(たぶん)。今後、公的機関の専門誌、あるいは関係する学会誌にこのオツネントンボの産卵生態が報告されるかもしれません。アスパラガスへの産卵については、以上のような経緯・背景があるなかで、今回ブログでは、トンボ屋目線で観察した奇妙なオツネントンボの産卵を掲載しました。
産卵が見られるアスパラガスの露地栽培の畑
現地へ
4月25日、前日までの強風と低温が一時的におさまるのを見越して現地に出発しました。当日は19℃とまずまずの気温になって、以前 F さんに案内してもらった畑を見て回りました。さすがに時期的に早いらしくアスパラガスは以前見た時よりまばらで、茎丈も全く伸びていません。生産者の方がいないので畑には入らず、農道から目視でトンボを確認しましたが、姿はありませんでした。昼食後、13:30頃近くの溜池に行ったところ、多数のオツネントンボが産卵しているではありませんか。
もしかしたら午後にはアスパラガス畑にも飛来しているのではと思いながら、目を付けていた畑に向かいました。車を止めて降り立つや否や、一番手前のアスパラの畝から2頭のオツネントンボが飛び立ちました。さらに畝に沿って歩くと何と産卵中のペアを発見しました。午前中は1頭も居なかった畑で産卵を確認できるとは感激です!
いた!アスパラガスの茎に産卵するオツネントンボ
上の写真のクローズアップ、ムカシトンボと同じような産卵痕です. 疑似産卵かと思って表皮を剥ぐと間違いなく卵を確認できました.
この畑には1~2ペアのみが飛来していたように思います。その他オスが数頭確認できました。すでに溜池では産卵盛期に入ったように思いますが、アスパラガス畑ではまだ早いような気がします。オツネントンボは強くアスパラ畑に執着しているようで、追い立てても畑からは出て行かず、必ず戻ってきました。さらに以前の観察などから、雌雄とも明らかにアスパラガスの畑に集まって来て、そこで交尾し産卵するものと考えられます。本来ならありえませんね。こんなこと。写真のとおり、地面は乾燥しており、土ぼこりが立つほどです。綺麗に管理されていて雑草1本ありません。周辺にはコンクリート製水路(水田用)がありますが、水量はさほど多くはありません。その周辺を含め一帯に本種の姿はありませんでした。このような環境下において、なぜ産卵行動が見られるのか、まったく雲をつかむような話です。
この件で思い出したのが、オオアオイトトンボです。自宅の庭に秋になると何処からともなく雌雄が飛来してきて、ある夕刻、何とヒイラギの木の枝に産卵を始めたではありませんか、その個体は延々と産卵を続け、21時すぎてもまだ産卵を続けたことを思い出しました。庭には全く水がありませんから、産卵は無駄な行為です。オツネントンボと共にアオイトトンボ科のグループは不思議な産卵生態を持っているようです。
ヒイラギに無意味な産卵を続けるオオアオイトトンボ, 21時の撮影
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