ムカシトンボの羽化場所について
最近は、トンボの撮影だけでは物足りなさを強く感じるようになりました。毎年同じ様な写真がたまる一方、ほとんどそれをじっくり見返すこともなく、ただ良い写真が撮れたと、フォルダーにしまい込むだけ、まるで標本収集と変わらないような気がしてきました。一方、トンボをファインダーごしに見ていると、その行動に次々に疑問がわいてきます。しかもそれらの回答は図鑑や文献にもほとんど載っていません。こうして写真よりも「なぜ、どうして」というトンボ本来の生態面での興味が強くなってきました。
ムカシトンボもその一つで、気になることがいろいろあります。その一つが羽化場所です。このトンボはかなり羽化場所が広域で(河川源流域から、かなり下流域例えば河川区分なら上流から中流に変わる当たりまで)、私が通ういわき市では確認できた羽化場所が上流から下流約2km、標高差が200m以上にもわたります。もっと下流域で羽化するかまだ確認していませんが、場合によってはもっと大きくなるかも知れません。当然同じ地域でも羽化時期は変わってくるでしょう。
以前、桧原湖に注ぐ長井川では湖水に流入する地点で各齢期の幼虫を数頭確認したことがあります。当日、この場所には多数のアオサナエ♂が見られました。とても不思議に思いました。どうしてこんなに下流にいるのかと。果してムカシトンボは川を下るのか?
源流域で最初に成虫の飛翔が見られる日には、同時に交尾も観察されます。しかし、この場所では羽化がまだ始まったばかりです。恐らく、飛翔している個体はずーと下流で10日以上も前に羽化したものと思われます。下流で羽化した個体はしだいに源流域に上がって来て成熟するのかも知れません。下流域で本種の飛翔を見たことはありません。そこで、終齢幼虫がどのくらい下流で見つかるのかは非常に興味があるところです。晩秋に確認しておきたいと思います。
とりあえず羽化が見られた源流域と下流域(便宜上そう呼びます)の水温を現時点で測定してみました。産卵部である源頭部の水温は11.9℃で、この流れが本流に流れ込んだ場所は13.2℃、その2km下流は何と12.4℃と低くなっていました。恐らく、この渓流は鬱蒼とした杉林に川面を覆われて太陽による水温の上昇が抑えられていること、さらに支流からの流入が原因だと思われます。
ムカシトンボの幼虫の生息と河川水温との関係は、田原鳴雄さんが熊本県下の生息地で測定しており、冬季が 4~5 ℃、夏季が 16~17 ℃であったとしています (TOMBO, 27: 27-31.) 。多くの図鑑類はこれを引用しているのだと思います。また、関東では大森武昭さんが多摩川水系において調査され、それによれば夏季水温でおおよそ14~16℃ の範囲内にあることが示されています( 大森武昭, 1998, 多摩川水系のムカシトンボの分布と生態, p1- 52, とうきゅう環境浄化財団)。
ただ、河川水温の測定については、一般的に8月の水温が年内の最高温度を記録することが多く、しかも日内最高水温を示のは14~15時であることから、各地の生息地における水温の比較に際しては上述の条件で測定されたものかを確認する必要があります。特に源頭部から離れればはなれるほど水温は高くなりますから、そうした場所での測定時期、時間の不一致は信頼性の低下につながります。
先に示した檜原湖に注ぐ河川での観察事例はまさにこの水温が関係しているものと思います。今季8月に遠征して確かめてこようと思います。生息可能な水温であれば幼虫は活発に下流に(場合によっては上流にも)移動する可能性があるかも知れません。
でも、あそこはクマの巣窟だからなあ😓 。3年前に裏磐梯五色沼の環境省ビジターセンター裏の沼でトンボの写真を撮っている時、広い砂利道に停めてあった車に交換レンズを取りに戻った際に、運転席のドアに母熊と2頭の子熊が寄りかかっているところに鉢合わせしました。幸い逃げてくれたので、事なきを得ましたが、多くの観光客がビジターセンターを訪れ、車の往来も多い場所だけに驚きました。それ以来、常に熊よけスプレーを携行しています。しょっちゅう暴発して、そのたびに死ぬ思いをしているのですが.......
つづく
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