2021年5月18日火曜日

墓地のムカシヤンマ(1)

福島県内のムカシヤンマ 

 ムカシヤンマは県内全域に広く分布していて、必ずしも珍しいトンボではありません。しかし、発生地での詳しい観察の報告は無く、ほとんどが採集・目撃記録として報告されています。成虫発生期は低地(浜通り地方)で5月中旬から、標高の高い桧枝岐村では8月中旬と、かなり発生期間に幅があります。また、豪雪地帯となる桧枝岐村御池から奥只見湖にかけては非常に小型の個体が多く見られます。                                                                          本種が良く見られる場所として林に囲まれた林道脇の水がしたたり落ちる苔むした岩盤や斜面などを思い浮かべます。しかし、私のこれまでの経験では水田地帯の田んぼや溜池の法面、さらに宅地造成された場所の山際だったり、また都市公園内の斜面だったり、要は流れ出る水が絶えず、ある程度の面積(最低10×5mぐらい)で植生を有する斜面であればどこにでも生息できるトンボなのではと思います。昨年、彼岸の墓参りに、時間があったので墓の背後の山際に足を向けたところ、墓地の敷地に接する山際が岩盤になっていて水が滴っているではないですか。25年も通っていたのに全く気が付きませんでした。線香を上げるとさっさと帰ってしまう不届き者でしたから。                                                                                 改めて観察すると、結構斜面に穴が開いています。これ全部ムカシヤンマかな?と良く見ると幼虫が確かに顔を出していました。郡山市近郊の大規模造成された墓地でムカシヤンマが居るとは少々驚きました。  

              何処にでもあるような正面の斜面が発生地 

                    斜面に開いた多数のムカシヤンマの巣穴
    
                           外をうかがう中齢幼虫

羽化の観察

 この墓地は頻繁に下草の刈り取りや松くい防除がおこなわれており、この斜面にも年に何回か作業の人たちが入ります。結構人手が入っているにもかかわらず、個体数は多いように思いました。さて、年が変わって今年の5月17日、これまで数回現地での羽化を確認に訪れていましたが、なかなか羽化せず気をもんでいました。この日初めて羽化殻一つを見つけて、いよいよ羽化が始まったことを確認しました。翌18日は終日雨。改めて19日早朝現地に行ってみました。羽化しているか、草によじ登っているであろう終齢幼虫を探します。なかなか見つかりません。腰を低くして下から見上げるようにして探します。お!いたいた♂が羽化中です。さらに近くで♀も。でもこの♀、岩にオーバーハングして定位していて、大丈夫なのだろうかと心配してしまいます。       

             写真の対角線上に左上が♂右下が♀( 岩に定位していて、落ちそう!)                     

                                                                          羽化中の♂ 6:42撮影        

                         ここまでは順調な♀の羽化 6:40
                                                                         
                                                        順調に翅を展開する♂, 7:02 撮影
                                                                            
                          急にモゾモゾしだして、直後羽化殻が岩から外れて落下した♀, 6:57撮影
                          
         羽化中の♂とその環境. 斜面は45°ぐらいの急斜面、右側の岩に♀が定位していた.
                                                                             
                                          腹部がだいぶ伸びてきた. 7:54
                           
                 かなり色づいた.もうすぐ翅が開く. 9:06 撮影

  危惧したとおり、♀は足場が悪かったのか盛んに身動きしているうちに殻ごと落下してしまいました。かわいそうですがそのままにしました。♀は新たに羽化場所となるシダの葉によじ登っていきましたが、翅に大きなダメージを受けていました。5年以上斜面の穴で暮らし、生き抜いてきたのに、最後の最後で、この一瞬のミスで生き残れなくなってしまうとは、きびしい自然の現実にあまりにも哀れに思いました。
 その後、♂の方は順調に進み、間もなく翅が開くころになりました。私も少し余裕ができて、周囲をさらに詳しく観察してみましたところ、足の下で♂が羽化しているではありませんか。よかった、踏まないで。さらに、周囲では1♀、1♂が羽化していることを確認できました。羽化した個体の中には、翅が展開中に障害物に当たると、かなり長い時間をかけて翅が伸ばせる場所に移動します。その間は完全に羽化に関わる体液の循環は止めているのでしょうか?

                   足元で羽化していた♂
                          
                    赤矢印が羽化個体, 最初の♀は示さなかった.
                                                                               
                                 草むらの中で新たに見つけた♀、背面からだとイメージが違う. かっこいい!
                          
               いよいよ別れの時. 翅を開いて小刻みに翅を震わす. 9:58 撮影
                          
                           大空へはばたく. 9:59 撮影
                     
                                           無事, 羽化成功
 この場所での羽化は始まったばかりです。これから何日かけてどのくらいの数が羽化してくるのか楽しみでもあります。また成熟期間はどのくらいなのか、追ってまた報告できると思います。今後ムカシヤンマの観察・写真はこのページとは別に集約していきたいと思います。

追. 5月20日、観察場所には前日羽化した♂が居残っていました。昼前から降り出した雨で飛べなかったのでしょう。朝6:15に終齢幼虫が這い出してきました。なかなかよじ登る草が見つからず、結構歩き回ります。この斜面では朝6時を回ってから終齢幼虫が現れることが多いようです。昨日の羽化は1♀を除いて全ての終齢幼虫が6時すぎから、定位するまでの歩行が観察されました。この斜面は年末に草刈がおこなわれるので、定位しやすいような枯れ枝や丈の長いスゲなどの植物残差が無いため、自然状態の崖などに比べると彼らにとって羽化は難儀する場所かもしれません。
                         
                      前日の雨で居残った♂

                   
              のろのろと羽化場所を求めて歩く終齢幼虫
 
 ムカシトンボだと飼育はムカシヤンマより期間が長くなって、困難でしょう(低温の流水下での飼育は面倒です)からムカシヤンマあたりを飼育してみようかとも考えています。でもどうやって?ネットでは結構飼育されている先駆者の方々もいると聞いていますのでぜひお話を聞いてみたいと思います。穴に入ってしまった幼虫はともかく、若齢幼虫はどうしているのでしょう。生態をぜひ垣間見てみたいです。 
 「誰か:あなたは何かペットを飼っているのですか?私:いや、大したことないのですが、ムカシヤンマを飼っています」なんて、カッコいいですよね。
 






                                                                       






2 件のコメント:

  1. この墓地には行ったことがあるような…
    ムカシヤンマ、白河市内ではしばらく見てないです。

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  2. 白河市は起伏に富んだ丘陵地が多いので、生息地は多いと思います。ぜひ探してください。

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