2021年5月12日水曜日

今年は早いか、ムカシトンボ

 今年は福島でも発生が異常に早い?

 全国的に今年のムカシトンボの発生は早いと聞いていたので、はたして福島県ではどうなのか、とても気になるところでした。私が観察地にしているいわき市三和町は標高450mの低山地帯です。例年なら羽化は連休明けから、産卵は5月20日あたりから観察されることが多いのです。しかし、今年はサクラも異常に早く、また関東の各地ともかなり羽化が早まっていると聞いたので、4月下旬から探索を開始しました。ところが毎日行けども行けども、全く羽化個体が見つからず、とうとう連休に入ってしまいました。あれあれと、次第に意欲が失われ、全然早くないのではと思っていたところ、5月6日に羽化殻と、さらに林道を少数の成虫が飛翔しているのを初めて確認しました。これでは発生が特別早まっていると実感できませんでした。まあ、ちょっと早いか、ぐらい。ただ、4月下旬から連休にかけて福島県では寒気が入って、夜温は氷点下前後の低温の日が続きましたから、これによって羽化が大幅に遅延したとも考えられます。ここは後日確かめてみる必要があるかもしれません。         

    羽化殻があった場所の景観.

         いわき市三和町では結局この羽化殻しか見つけられなかった.
 
 2日後にしつこくまだ羽化があるかも知れないと同地を訪れましたが、ところが何と林道上で摂食行動中の2頭のムカシトンボが突然もつれて、目の前に落下してきました。2頭はすぐに連結態となって飛び上がって、スギの梢を飛び越えて視界から消えました。あれっ?羽化が始まってまだ数日しか経っていないはず、成熟していないはずなのに。確認のため、できる限り、捕獲して成熟度を調べてみました。捕獲虫は全て予想通り、羽化2,3日ぐらいではないかと思われる個体で、体は十分硬くなっていましたが、翅はまだ完全に硬化していないようでした。横紋も明るいクリームイエローで初々しい。15頭中、♀は1頭のみ、♂♀で林道上の飛び方に差があるようには思えませんでした。これらが交尾したりするのでしょうか?
                                                              
                                慌てて撮ったのでピンボケですが、連結態になって飛び去るとても若いペア

 この日の朝に、林道から離れた渓流沿いに羽化個体を探していたところ、小さな滝の脇の灌木に2頭の♂が静止しているのを見つけました。止まっている姿を見たのは初めてで、慌てて撮影しました。これらの個体は寝ているのか、全く動く気配はありません。翅に触れてみましたが、翅を開きはしましたが気温が低いのか、飛び立とうとはしませんでした。
                    
          ノリウツギの枝に止まる♂, 若々しい色調で、まだ成熟してはいないのでは.
                         
                  同じく別の若い♂, この個体は触るとすぐ翅を開いた.

 念のために沢の産卵ポイントに降りてウワバミソウをチェックしました。ガーン、何と産卵してあるではないですかあ!どういうことなんでしょう。時間は12時半です。どうでしょうまた産卵に来るでしょうか?しばらく待ってみることにしました。13時20分に確かに♀が飛来しました。この個体は撮影に驚いたのか、飛び去ってしまいました。その後、飛来は絶えて、やはりまだ数が少ないのかなと思いながら引き上げようと腰を上げたところ、いつの間にかそばのウワバミソウに産卵している♀を見つけました。全く気が付きませんでした。やはり、この時期すでに産卵可能となった♀を確認できたわけで、羽化とその後の成熟期間については良く調べる必要を感じました。
 林道上を飛び始めたのは明らかに6日からで、それ以前には全く見ませんでしたから、そしてその2日後には交尾、産卵していた。では羽化はもっと早かったのでしょうか?しかし、毎日、毎日、毎日見てましたし。どーも理解できません。

 産卵場所を探す若い♀
                         
                       いつの間にか足元で産卵していた♀

  5月14日、久しぶりにまた三和町の生息地を訪ねました。この時期でも林道を飛ぶ個体の多くは完全に成熟していないようで、中には羽化からあまりたっていないような個体も混じっていました。今日は本格的に産卵行動を観察しようと、ポイントの小さな流れに陣取りました。午前中はなかなか♂♀とも現れず、11時近くなって、次々に飛んで来ました。


産卵場所を探す♀
                          
                    産卵対象の上でホバリングする♀

                     スギの倒木に生えたゼニゴケに産卵する♀

 この生息地では当初、産卵対象が流れの縁にあるウワバミソウ、フキが主であって、ゼニゴケへの産卵は多くはありません。しかし、♂の探雌行動は明らかにこの2つの産卵対象(縁に生える植物と流れの内部に生えるゼニゴケ)を明らかに識別・認識しており、ゼニゴケが繁茂した平坦な場所でも丹念にその上をホバリングぎみに飛んで♀を探しています。♂には本能的にすでに2つの産卵対象で♀を探す能力が備わっているということでしょうね。両者に♀が産卵すると経験から学ぶことはなさそうです。また、これは同時に♀にもいえることで、生まれた時から全く形態・自生環境が異なる対象植物を選択的に産卵する能力が備わっているということです。これも結局、産卵時の危険分散の意味があるのでしょうか。流畔植物とゼニゴケの生き残りの確率が同じなら、こんな面倒なことはしなくて済みます。実際、産卵が多く見られる流畔植物は産卵後、野生動物に食べられてしまうことが結構多く、このような場合は同所のゼニゴケに産卵されたものは食されることはありませんから、多くが孵化するでしょう。もしかすると、時期的に、産卵対象が変わってくるのかも知れません。1度にたくさん産卵できる基質のウワバミソウが少なくなってくると(すでに産卵された株に新たに産卵しない?)、ゼニゴケを優先に選択するなど。
       

                      ウワバミソウに産卵する♀
            
                流れの中に繁茂するゼニゴケ(緑の部分)にも産卵が見られる     
                                                                             

 ♀を探す♂
                          
                     産卵中の♀を捕え、連れ去る♂
 
 ♂の探雌能力は非常に高く、ウワバミソウの群落内で産卵している個体を簡単に見つけ出し連れ去ります。今回は4回産卵が確認できましたが、うち2例が♂に見つかって連れ去られました(上の写真)。このうち1例は周囲の木立の枝(高さ約3mぐらい)に止まって、移精して、交尾しました。昨年もここで交尾個体が確認されましたので、写真にとれるかもと、内心期待しているのですが。

 
 

















2 件のコメント:

  1. こんにちは。昨日は観察日和でしたね。春先のトンボに加えて、ヤマサナエ多数、ギンヤンマ、サラサヤンマが出てました。季節が早めに推移しているようです。犬神にも行きたいですが、しばらく天気がイマイチのようですね。

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    1. お知らせ有難うございます。白河市はもうサラサやヤマサナエが出ているのですか。郡山市内ではまだ羽化が始まるぐらいです。表郷では溜池でアオサナエやホンサナエが飛ぶ所があって、ぜひ確認したいと思います。

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