福島県中通り地方の平地では、現在、ホンサナエが最盛期をむかえています。アオサナエやヤマサナエはまだ完全に成熟しておらず、河川での配偶行動は見られません。サナエ類の発生は浜通りでは1週間ほど早く、会津平野部では数日遅くなっています。福島県のホンサナエは全県下の平野から丘陵地帯の河川に普通にみられるサナエトンボです。
石に止まって♀の飛来を待つホンサナエ♂. 25/5/2012, 須賀川市岩瀬この須賀川市岩瀬の生息地は丘陵地から平野部に流れ出る小河川で、水田地帯にあります。河川の水は水田に引き込まれ、また河川自体その排水路の役目も担っています。水田へ取水するため各所に堰が設けられていて、その結果、帯水している部分が多く、サナエ類の配偶行動が見られる、浅く流れがある場所はむしろ限られているといえるかもしれません。
ホンサナエが点々と流れの中の石に止まっています。ここでは羽化が5月10日頃から始まりました。♂は♀が産卵に飛来するのを待っているのですが、私の目の前の石に陣取っている♂は傍に♀が産卵のために飛来しているのに全く気づきません(多分)。観察していると♀は一度、産卵前に高速で飛来して産卵場所を下見して行くような気がします。しかし、この時はあまりにも不意に、しかも非常に高速で飛来してくるので♂はほとんど捕捉することができません。一方、産卵のために飛来した時には、本種は産卵に先立ち、一瞬ですが緩やかに産卵場所付近を飛んで植物や地面に止まって卵塊を作ります。♂はこの時♀を捕捉できるチャンスがあります。そしてもう一つ、本命は産卵飛翔中の♀とです。これがほとんどの♂が♀と交尾できる場面になるのですが、何分一瞬のことで、アッという間に♂に連れ去らわれてしまいます。他のトンボのようにじっくり配偶行動を観察するわけにはいきません。
さて、目の前のホンサナエ♂は♀に関心が無いのか、盛んに川虫を捕ってはまた石に戻ることを繰り返していました。その間に♀が2頭来て卵塊を作っています。もうすぐ産卵が始まります。カメラを♂から♀の方に向けると、片方の♀が飛び立ち、直下の流れに産卵を始めました。2,3回素早く往復飛翔したと思ったら、突然、バッシャっと水面に落ちてしましました。見ると水面に落ちた♀を♂が捕捉しようとしています。しかし、なかなか持ち上がりません。♀の翅が完全に水面に浸かってしまっています。もがく♀に引き込まれ、とうとう♂も水面に落ちて翅が水面に浸かってしまい、もうこうなると自力で飛び上がることは不可能です。とうとうこのペアは流れにもまれ見えなくなってしまいました。どうやらあの♂は、写真に撮っていた、食事に夢中だった♂のようです。20m先の堰の淀みには多くの川魚が住んでいます。多分、この不運なペアは無事に、また大空を羽ばたくことはないでしょう。
サナエ類にとって産卵中の♀を♂が捉えることはごく普通の配偶行動なのですが、ホンサナエの場合、なぜか水面に落下することが多いように思います(この生息地ではダビドサナエが多産して混生していますが、ホンサナエが強く、ほとんどの石は占拠されています。このダビドサナエも産卵時に♂の捕捉行動が見られ、この場合もペアがほとんど水面に落下します)。しかもその水面への落下は今回の例のように命を落とすかも知れないほど危険が伴うことであることが分かり、少々驚きました。なぜこのような危険な配偶行動をとるのか不思議です。多分我々には分からない理由があるのでしょうね。同様な事例をコオニヤンマでも観察していて、写真にたまたま記録してありましたので、参考のために見ていただきたいと思います。
ホンサナエ、がっしりした体型がカッコ良いですね。
返信削除家の小さな庭池でもオオシオカラトンボの羽化が始まっています。