アキアカネの謎
昨年までの観察で、アキアカネは産卵前に2回交尾(ねぐら周辺の地上部と産卵直前の田んぼで)するのではないか?という疑問を持ちました。そこで詳しく調べてみようと思います。
アキアカネの産卵はとにかく水域であればどこでもその対象になります。でも観察ではなるべく多くの複雑系要因を取り除き、単純なモデルとしてを捉える必要があります。そうなるとやはり見通しの良い平地の水田が適地でしょう。しかもねぐらとなる雑木林が近くにあると良いと思いました。そんなことで、今回も須賀川市仁井田地区のいつもの水田地帯で以下の観察を行いました。
1. 平地の水田地帯でのアキアカネのねぐらは?
まず、この時期(10月中旬)のアキアカネのねぐらはどこなのかを調べてみました。これまでの観察で水田に隣接する雑木林や木立がねぐらになっているのを確認していました。今回もまだ落葉していないコナラの葉などに静止している多数の姿が見られました。高さはまちまちで10m以上の梢から地表の雑草まで確認できました。
一方、産卵場所の水田の周辺の雑草の上で、あるいは草ぐさの中に入り込んで夜を明かす雌雄も相当数いることも分かりました。
2. 夜を明かしたアキアカネの行動
雑木林の樹上で夜を明かした個体は陽が射すようになる8時すぎになると、樹上の個体は次々に地上に降りてきます。また地表で夜を明かした個体も夜露が取れる頃、活動を始めます。9月中旬だと気温にもよりますが、だいたい8:00には♂は草むらをぬう様に飛んで♀を探します。樹上からおりてくる♀や農道わきの斜面に止まっている♀を見つけるとすかさず挑みかかって♀を確保、この時ペアは地上に落ち、♂は瞬時に移精と♀を尾部付属器で♀の後頭を把握して飛び回り、交尾態になったペアはすぐに近くの地面や草むらの葉に止まって交尾を続けます。一方♀を把握し、飛び上がって移精・交尾しようとしても♀が応じない場合があります。このこのペアは連結態となってしばら飛びまわったり、近くに着地します。♂は交尾したいのですが♀が拒否するわけです。しかし、オスはあきらめず連結態となったまま一旦付近に静止したあと、飛び去る?(ここがはっきり確認できません)もし完全にねぐらから飛び去るなら、飛んだ先に水田があって、ここで交尾、産卵する可能性は捨てきれません。もしそうなら、この2回交尾の可能性はアウトです。
産卵までに2回交尾があるとすれば、それぞれに目的があるはずです。交尾の機能に違いがあるなら交尾継続時間に差があるかも知れないと思い、9月13日に調べてみました。まずねぐらでの交尾を見てみます。
交尾継続時間は 4分50秒~8分54秒、平均7分でした(n=8)。
次に水田の水溜まりに産卵に飛来するペアの交尾継続時間を計測しました。結果はグラフのとおりです。
今回も交尾継続時間は2山を示しました(昨年は10月下旬の調査)。何なんでしょうねこの二山は。それぞれの山の平均値を求めると、おおよそ5分と10分でした。しかし、ねぐらでの交尾時間と大きく異なる値だとも思えず、両者の関係は交尾持続時間からは分かりませんでした。やはり交尾場所が違うだけで、産卵前の交尾は1回なのでしょうか?
さらに私の考えを揺るがすような観察をトンボ界の大先輩、埼玉の新井裕さんが熊谷市で50年近く前にすでにおこなっています(新井, 1976 昆虫と自然 13 (2): 23-25 ) 。新井さんによれば多分9月に調査したんだと思いますが、ねぐらで夜を明かした雌雄は上記したように♂は♀を見つけるとこれを確保、連結態となって、飛びながら移精をおこなう。この辺りは同じ。問題は、、、、その後です。
1. 連結態のまま10分前後休息した後、飛び去る。
2. 休息することなく飛び去る。
3. すぐに交尾態となって静止する。
と3つのケースが観察され、内1が最も多く、3の交尾は稀であったとしているのです。
須賀川市での観察とはかなり違う内容です。これはちょっとショックですね。交尾しない方が多い。言い替えれば、これはねぐらで交尾することもたまにはあるということでしょう。
さらに新井さんは産卵場所となる水田でのアキアカネペアの行動を調査しています。ねぐらから連結態のまま飛び去るペアが多いので、交尾はいつ、どこでおこなうのかが最大の関心ごとであったようです。そうすると下の表のように産卵場所となる水溜まり周辺で40%のペアが交尾することがわかったのです。このことから産卵水域周辺が主要な交尾場所であることが具体的な数字でしめされたのです。
ねぐらと産卵場所でそれぞれ1回交尾するのが一般的であるとすれば、直接産卵する個体があるとは考えられません。しかも16%もある。産卵場所で交尾するのは、ねぐらで交尾せずに連結態になって飛んできたペアなんだ。あーやっぱり妄想であったかと。
(新井, 1976 より)
私もめげずに須賀川市の水田でも同様な調査をしてみました。ただ、新井さんのように4つの項目に分けて飛来するペアを瞬時に区別して記録することは実際やってみて非常に難しいことが分かったため、今回は明らかに水田の水溜まりに産卵様行動を示したペアが、その後産卵せずに飛び去った数をとりあえず数えてみました。
調査時期は9月中旬で新井さんが熊谷で行った時期と変わらないと思いますが、産卵場所として関心は示すものの、♀が気に入らず、飛び去るペアは半数以上にのぼることが分かりました。新井さんは観察のなかで、交尾は連結態となったペアがある程度飛翔することで促されるのではと、興味深い考えを示されています。でも、まだまだ隠されて見えないものがあって、真実はもっと複雑なのではないかと思えるのですがねー。
頭の上を飛び去る多数のペアを見上げると、「どこに行くんだ、どうしてみんな同じ方向に一心不乱に飛んでいくんだ!教えてくれー!」と叫びたいです。
3. 精子量でねぐらでの交尾と産卵場所での交尾の違いをみる
外見上、異なる2か所で見られる産卵前の交尾はこのままだと、単なる交尾場所が異なるだけで、交尾は1回だけ産卵前に行われるということになりそうです。そこで、最後の手段で一発逆転を狙います。
つづく
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