2025年10月2日木曜日

消えゆくコバネアオイトトンボ

 いつの間にかいなくなったコバネアオイトトンボ

 よくよく考えてみたら、このトンボについては以前からあまり積極的に観察したことがなかったため、気が付いたらほとんどの既産地から姿を消してしまっていることに唖然としています。あれほどいた猪苗代湖畔もほとんど見ることができなくなり、赤井谷地周辺にも姿がありません。迂闊でした。個体数が多いことにかまけ、注意していなかったことが悔やまれます。
 オオルリボシなどに係わっているどころではなかったのです。

       かつてのマダラナニワトンボの大産地、現在はアシが繁茂して姿はない。なぜかコバネも見ない
                          
       マダラナニワとコバネアオの個体数が多かった沼、環境は変わっていないが姿はない

 かつて知った沼のほとんどが、開放水面が無くなりそうなくらいに水生植物が生い茂るなど、環境の変遷が激しく、個体数の多かった本種やマダラナニワトンボの姿は確認できません。その一方で、さほど環境が変わったとも思えない沼でも両種の姿はありませんでした。3年前にはそこそこ見られたはずだったのですが。他のトンボの数も少ないように思います。何かが起きているように感じます。
                   
            ようやく見つけたコバネがほそぼそと生きている沼

 既産地は全てダメ。これは大ショックでした。コバネは何時でもいいや、と高をくくっていたらこの始末です。ここから虱潰しに、ここと思う場所を毎日見て回りました。そして磐梯山山麓のとある沼でようやく数は少ないのですが、コバネアオイトトンボに出会うことができました。しかしこの沼も渇水状態で、開放水面はごく一部しかありません。枯死したコナギやヒシが絨毯のように一面に広がっています。コバネアオは水面に面した岸部の植物群落周辺にしか見られませんでした。
 とにかく個体数が少ない!歩き回ってもしょうがないと、1所にとどまって待っていると、9時ごろから♂が現れだして、10時ごろからは連結個体や産卵個体がしだいに見られるようになりました。
                   
               ♂この時期だと9時前後から活動開始となる。気温は17℃
                         
                    ♀はやや遅れて出て来る感じ

          連結して沼に飛来する。気が付くとこの状態でヨシの枯れ枝などに止まっている                 
 

         産卵は10時前後から始まり、午後にかけて産卵個体数は増加する。これは産卵のまね事
               
                 多くが枯死したヨシに産卵をおこなう 
                          
                サンカクイの群落があって、ペアが産卵のために訪れる
 
                 
                 水域から離れたブッシュ内の枯れたヨシにも産卵する
 

                     最初から単独産卵する♀も
                          
                    枯れた細いアシに産卵する♀

                 最初は結構神経質だが、産卵に熱中すると無警戒に

  この地域ではコバネはマダラナニワトンボと一緒に見られるため、マダラナニワトンボも含めていなくなった理由をいろいろ考えてはみるのですが、一向に分かりません。なぜ急激にみられなくなったのか?コバネに限れば、同様なことはすでに青木典司さんのホームページ「神戸のトンボ」でも述べられてます。
 一方、「日本のトンボ」には本種の生息地が限られているのは硬い植物に産卵できないことも原因だみたいなことが記述されていますが、この沼での産卵は主に細い枯れたヨシにおこなわれていて、別に変わった植物ではありません。もし産卵植物の分布によって生息域が限られるなら、それはそれでとても面白い現象でしょう。
 
 コバネアオイトトンボを見ていて、なかなか面白い生態をしていることが分かりました。このトンボについては青森の奈良岡弘治さんが、それまでの知見を網羅しつつ、生殖行動の日周変化等を詳細に報告しています(TOMBO 50: 59-64 )。
 ただ、そこに示されている観察の結果は、ここ福島県猪苗代町での10月3 日における観察とはかなり異なる部分がありました。これは青森での観察が山間部の湿地内で行われたことや、時期が9月中旬(?)であったことなどにより異なったのかなと。
 私は朝8:30頃から16:00まで1ケ所にとどまって、コバネアオイトトンボの行動を写真を撮りながら観察しました。9時をまわるといつの間にか♂が沼の岸部や沼の水面にある主にヨシの枯茎などに飛来して水面上20cm の低い位置に止まります。気温が上ると緩い縄張りを主張するようになって、水面上で活発に他♂と競争するようになりました。水面上よりも水面から1.5mほどのややぬかるんだ岸部(水位が低下して露出した沼底)にある細いヨシの茎が多いせいか、むしろ水面上で縄張りを張る♂よりも個体数は多いようです。♂たちは活発に地面から10cmを低く飛び、丹念に茎に止まっているライバルを探し回っては闘争を繰り返します。
 9:30を過ぎると沼を取り囲む低灌木の茂みから次々に連結態のペアが飛来して、沼内外のヨシに止まりますが、交尾は観察されませんでした。これらのペアは繋がったまま水面を飛んだり、移動を繰り返したりしてましたが、10時ころになると水面上の枯れたヨシの茎に飛来して産卵を開始しました。ほとんどが水面から30cm以下の低い位置で、他のオスの干渉を受けながら産卵を続けました(この間頻繁に産卵場所を変えるペアも多い)。また最初から単独で産卵に飛来する♀も観察できました。
 産卵は昼から午後にかけて増加しました。産卵域は水面から陸地へと移動し、交尾が観察されるようになる2時前後からは沼周囲を囲む茂みの混み入った灌木類の根元付近の枯れ枝に産卵する個体も多く見られ、ほとんどは地面から10cm程度と低い位置でした。生きている植物体への産卵はサンカクイ(沼内の岸近くにある小さな群落)が唯一でした。
 一見すると水が全く無い場所での産卵はオオアオイトトンボを連想します。ただ産卵位置が極めて低い違いはありますが。
                     
            昼すぎになると地上10cm程度の高さに止まる♂が多くなる

              茂みの中の地際で産卵する 
          
             全く水がない20cmほどの高さの枯茎に産卵

 13:51に初めて交尾が見られました。その後夕方近くになるにつれ交尾個体数が増加しました。さすがに交尾はいずれも地上0.3~1m以下の位置で見られましたが、沼を囲む灌木の茂みに沿って(沼に面した方)ヨシやサンカクイの茎に止まっておこなわれることが多いようです。
                    

               同じペア、♂の翅が1枚失われている
                    
                    
                     
                交尾のいろいろ

 交尾が終わるとどうなるか?見てません。朝から見ていて疲れてしまいました。こんなに生態が時間と共に変化することを予想していませんでした。交尾後、♀は産卵するのか、もしかするとこのまま分かれて産卵はせず、翌朝ねぐら付近で再連結となって飛来・産卵するのかも?最もそうなると午後遅く産卵するのは飛来するのが遅くなっただけ、かな?それもおかしな気がしますね。やはり交尾したらその日のうちに産卵するのかなあ?このことについての報告はないのかな


 

 





  
 

 
                         

 
 


















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