小淵沢田代へ
8月3日に尾瀬の入り口にある小淵沢田代へ行きました。福島県側の入り口である大江湿原の途中から東に分岐する登山道があり、この先に目指す小淵沢田代があります。標高は1,800mです。昨年、確か10日前後に登ったところ湿原中唯一の大きな池塘にオオルリボシヤンマが多数いて、乱戦騒ぎを起こしていた記憶がありました。例のオオルリボシヤンマの観察で、郡山市の観察地は両側が杉林に囲まれ、言わゆる閉鎖的環境でした。それでは反対に開放的環境ではどうなのか?そこでこの湿原が頭に浮かびました。縄張りはどのように維持され、ライバルはどのような行動を示すのか?
湿原までは一ケ所も下りのない約2kmの登りで、すでに沼山峠を越えてきているオンボロ脚にはかなり応えました。この湿原はなだらかな丘状の地形で湿原手前に池があるほかは東の端と北側に多少開放水面のある池塘がちらほらとあります。湿原自体はミズゴケの高層湿原になっていて、乾燥化が進んでいます。
現地には8:20に着きました。湿原に敷かれた木道を端まで歩いてみました。湿原の端にわずかな水溜まりがあって、ルリボシヤンマの♂が縄張りを張っています。水溜まりに目を落とすと3頭の♀が羽化していました。一方、産卵していたのでしょう、成熟した雌が草むらから飛び出していきました。オオルリボシもそうですが、このルリボシも♂♀の相当の性成熟期間にズレがありそうですね。
さて、先ほどの大きな池塘へ引き返します。どれどれオオルリボシヤンマはいるかなあ、と見回してみますが、1頭の♂しか飛んでいません。時期が少し早かったのでしょうか。しかし、それにしてもほとんどトンボがいません。もちろんアキアカネは無数にいるのですが。前に訪れた時にはエゾイトトンボやカオジロトンボさらにアオイトトンボが多数いたのですが、どこに行ったのでしょう。わずかにカオジロトンボは2♂、アオイトトンボは1♂しか見れませんでした。おかしい。何かおかしな感じがします。一方、何とショウジョウトンボが複数活動していて、優占種のよう他のトンボを追い払っています。ここは標高1,800mです。と、ショウジョウトンボが交尾しました、カメラを向けているといっこうに離れず、そのまま連結したまま、産卵を始めました。へー!こんなこともあるのかと、いや、いや、待てよ、これはネキトンボじゃ!ネキトンボが複数、産卵しているではありませんか!尾瀬や尾瀬周辺でネキトンボはポツポツと記録があるのですが、単なる飛来種かと思っていましたが、産卵まで行っていたとは!
一方本命のオオルリボシヤンマは広い水面の全てを支配しているように、空域に侵入するアキアカネを蹴散らしつづけます。午前中♀の飛来は2回あって、そのうち1回のみ産卵がありました。産卵に飛来した♀は瞬時に♂の接触を受け、♂はピッタリと張り付いて離れません。ここからが今回この湿原に来た最大の目的なのですが、加納一信さんは産卵が終わって飛び去る♀を♂が追いかけ、湿原内で確保しタンデム状態になって森に飛び去ると報告しています。開放的環境では見通しが効くため、そういうことが確認できたのか確かめたかったのです。♀を追った♂が交尾するのかと。
今回観察は1例のみでしたが、産卵が始まると♂はこれまでの観察と同じく、興味を失って♀から離れ、再び縄張り飛翔に移ることが観察できました。産卵終了まで張り付くようには見えませんでした。一方、産卵はしませんでしたが、池塘のわきを飛び去る♀(比較的ゆっくりと飛んだ)を縄張り飛翔していた♂が瞬時に後を追い湿原のかなたに飛び去るのを観察しました。その後、2時間以上(私が引き上げるまで)この池塘には♂が不在でした。
この視界から消えるほど♀を追っていった縄張り♂はその先で交尾したのでしょうか?分かりませんが、すぐ引き返してこなかったところを見ると、あるいは交尾したのかも知れません。いずれにせよ、この湿原での観察はまだ早かったようです。♂が多数飛来して来るころまた来てみようと思います。
気になった事があります。それはどうして標高の高い発生地ほど成虫の出現が早まるのでしょう。郡山の観察地ではようやく♂が戻り始めた時期で、♀の産卵はあと7~10日後です。20日ほど早まっているのではないでしょうか?おそらく、幼虫は複数年を経て最終年の冬は終齢で越冬しているのかなーと思います。確かヨーロッパのルリボシヤンマではそんなことが報告されていたように思います。