今年、これまでの♀の観察でわかったことと、問題点。
わかったこと
1 ♂の再飛来から20日後に♀が飛来した。
2 飛来した♀は直ちに産卵した。
3 初飛来した♀は全て交尾ずみであったが、交尾嚢内の精子は遊離精子ではなく全て精子束であった。
4 初飛来7日後までは、交尾嚢内の精子は精子束の形態であった。
5 飛来した♀は決して交尾しなかった。
当面の問題点
1 交尾嚢内の精子が精子束の場合、受精は不可能であるため、これまで7日間は無精卵を産卵
していたのではないか?
2 このまま遊離精子が出来なくて、どうやって受精に漕ぎつけるのか?
3 いつ、どこで交尾していたのか?
すべてが重要なのですが、このまま精子束の状態で、受精はどうやって行うのかが直近の関心事となります。そのために、足しげく観察地に通わざるを得ません。
今年もまた、このオオルリボシのために貴重な時期を費やされるのは正直壁壁です。マダラヤンマもすぐそこまで来てるし、ナゴヤサナエの確認もしなきゃならないし、うかうかしてるとマダラナニワトンボも出てきてしまうし、、、。なんとか早くこいつを片付けなくてはと、この時期になるとあせってくるのです。
運命の8月22日
8月22日、精子束なら無精卵を産むだろうと、数匹の♀を採取して産卵させてみました。翌日卵を見ると、何だ皆受精してるではないか!でも良ーく見ると明らかな無精卵の割合が多いものもあり、これはと思って、ほとんど受精したと思われる卵を産んだ♀を断腸の思いで、解剖し、交尾嚢を観察しました。すると、交尾嚢内には精子束が認められましたが、かなりの部分が白濁した粘液で占められていました。早速、その粘液をシリンジで吸い上げ顕鏡したところ、初めてオオルリボシヤンマの遊離精子を確認することが出来ました。♀が初めて池に戻った日から10日後という事になります!この時期になってようやく精子は♀の体内での発育を完了して、精子束のクリップが溶かされて遊離精子になったのです。
オオルリボシヤンマの♂の縄張り、♀の産卵行動の意味を考える
やはり、♀は10日間近く産卵に訪れては無精卵を産み続けたのだと思います。なぜなのか?
以下は♂の問題をも含め、この際トンボの常識的な生態を頭から外して、私なりのオオルリボシヤンマの性成熟(配偶行動も含めて)を考えてみたいと思います。
このトンボは我々のトンボに対する考えをはるかに超えた、我々の知識には全くなかった新たなトンボの生態を示しているのものかもしれません(妄想、もうそう、話半分😅)。
まず配偶行動です。このトンボは池やその周辺部で交尾は原則しない種類だと思います。池や縄張りに♀は関係ないのでは、というこれまでの配偶行動の概念とは真逆の考えでオオルリボシヤンマの配偶行動・性成熟を考えてみたいと思います。
まず、なぜ♂は羽化から20日間も早朝から夕刻まで、♀が飛来する事もない時期に池をめぐる激しいバトルを繰り返すのか?この問題は頭を悩ませた最大の疑問でもありました。
今回、精子がかなり長く♂の体内で生育することが分かったことから、以下の新たな考えが浮かびました。
オオルリボシヤンマの♂は自ら積極的に縄張りをつくって激しい闘争を繰り返すことで、飛翔筋を発達させます。当然、強い羽ばたきは大きなエネルギーをつくりだします。その時、同時に精巣の発達・維持に必要な分のエネルギ―が羽ばたき作用によって供給されている可能性があるかもしれません(トンボはほとんどが同じ機構がある?)。一方、羽ばたき運動中、激しく振動する中胸後背板と精巣を繋ぐ一部の神経や背脈管も精巣を活性化させる何らかの刺激物質を伝達しているのではないかと想像します。オオルリボシヤンマは長期間精子束を生産し、それをこれまた長期間育成する必要があるために、始終争いを続けなければならないのだと思います。♂は常に闘うことを欲していて、ありとあらゆる場所で闘争する。それは強い♂(池で縄張りを持つ個体)ほど精子束の生産量が多くなって、より長期間♀と交尾するため必要なのではないかと。
でも池に♀が来ると♂がすぐに反応して♀を追いかけるのは?上の説と相反するのでは?まあ、一応相手は異性ですから、ようよう、ねーちゃんようと寄っていくのは人間もトンボも同じ。追いかけたところで結局交尾できませんから。
池での縄張りは、実は♀と交尾するために待つことではなく、主に他♂との闘争を行うためだとしたら妙に、これまでの♂の行動が納得できるのは私だけでしょうか?
一方の♀はなぜ10日間も受精卵を儲かることができないのに、産卵におとずれるのか?
もしかしたら、これは♂に執拗に付きまとわられたいからなのではないでしょうか?そうすることで性的な刺激が卵巣の発達を促し、追いかけられる時の激しい回避運動が飛翔筋を刺激して♂同様に卵巣・精子束の発育に寄与すると考えることは出来ないですかねえ。だから10日間は♀も必死に♂と接触を図るのだと思います。
そして、ここが肝心なところですが、♀は初めて池に再飛来した時にはすでに交尾を経験し、未熟な精子を受け取っていることです。だから池に飛来してわざわざ出向いて、またメンドクサイ交尾なんかする必要はないのです。
こう考えると彼女たちは池に再飛来するかなり前の段階で、しかももっと若い段階で、我々がまだ知らない時間、時期・場所で交尾しているとしか考えざるを得ません。この点については結局また振出しに戻ってしまいましたけれども。
そこで気になるのはどうしても、あの加納さんの報告。♂は産卵を終えた♀を追って、追った先で♀を確保、落下してタンデム状態になって森方向に飛び去るというくだりです。これが普通に観察されるなら、また上述の考えを白紙に戻して考え直さなければならないでしょう。
また、尾瀬に行きゃならんなあ。脚がもつか心配ではありますが。
続き
8月28日に尾瀬の小淵沢田代に強行登山してオオルリボシヤンマの行動を観察して来ました。当日は快晴で気持ちの良い高原気分を味わいつつ、例の問題点、♀を追う♂は交尾するのか?縄張りを追い出された♂はどうするのか?を主として観察しました。
結論からいえば、交尾は観察できませんでした。産卵を終えた♀は♂の追尾が無い場合、草原状湿地を1~2mをそう早くない速度で近くの森方向に飛んで行きます。森に到達すると上昇して梢の中に消えました。追尾する♂は多くが縄張り♂です。しかし、郡山市での観察と同じく、延々と飛んで視界からは視認できなくなって、その後が分からずじまいでした。見失った地点を周囲の地形からグーグルアースで計測すると、短くて30m、長い場合100m以上飛んで行くことが分かりました。交尾この後するのかなあ?♀を追尾する行動は6例ほど観察しました。
次に縄張りを追われた♂はどうなるか?ですが、この池では最大3♂が縄張りを持つことがわかりましたが、ほとんどが1~2頭でした。何か郡山市のように高密度で♂が乱戦状態になるのと違って、ここでの開放的な湿地にある池をめぐる縄張り争いは、さほど頻繁には起きず、闘争も開放的な環境からなのか意外におおらかで、排除された♂もさほどダメージは無いらしく、また参戦してくる場合も見られました。多くの排除された♂は池の周囲でゆったりと、風に乗ってホバリング気味に旋回飛翔します。その時間はさほど長くなく、いつの間にか姿を消す個体が多かったです。また、縄張♂が縄張維持している時間もそれほど長くなく、長くて約10分ぐらいで、縄張りを放棄してどこかに飛んで行ってしまいます。全体に個々の♂は淡白で、あまり池や闘争にこだわりが無いように見えました。環境なのか発生が末期に近づいていたからかは分かりません。全体に郡山市の様な個体数が非常に多いのとは違って、♂の個体数は常時1~3頭で、多くて5頭と少ないことも要因かもしれません。湿地の上を飛んでいる個体同士の争いも観察できませんでした。
今年はこれで終わりです。
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