何だかまたおかしくなってきたぞ。
トンボ好きなら誰でも、トンボは羽化からしばらくの間、例えばヤンマなら2週間ぐらいの性成熟する前の期間(成熟前期間)があって、この間はひっそりと林の中で暮らすらしいということを自身の経験や文献(オリジナルの文献を見てる人は少ないかも)から知っています。
この羽化から成熟するまでの期間を調べた事例を、Corbet ( 1999) で見ると、かなり前に、なんとオオルリボシヤンマを生方秀紀さんが調べていました!札幌市近郊の無意根山山麓の沼における調査では、♂が19日、♀は27日であったと報告されています( Ubukata, 1974 )。さらに Corbet の本には ドイツにおける Aeshna cyanea (ヨーロッパで普通なルリボシヤンマ)の例を挙げています。羽化個体にマーキング( 756頭)して、その後池に戻った個体(579頭)を毎日記録したという信じられないよう調査なのですが、それによれば、羽化初日では戻って来る個体は約1ヶ月後であるのに対して、羽化最終日は2ヵ月後と2倍差がつくことが示されています(下図のイメージ図を参照)!羽化が遅れる個体ほど戻ってくるのが遅くなるというのです。しかし、この調査、どうやって調べたのだろうと思います。原著に当たれないので何とも言えないのですが、こんなにきれいなデータを出すには、毎日通って、成虫をことごとく採集したのでしょうか?
しかし、何が原因で遅くなるのでしょうね?外的要因(気象や種間、外敵ストレスさらにエサの量等)よりは内的な要因(個体自身に内在するもの)による気がします。
今年の羽化は異常な高温が羽化時期以前から続いたせいなのか、これまでとは少し異なった消長を示しました(下のグラフ)。
羽化は例年(といっても3年分の記録しかありませんけど)、より約1 週間早くから始まり雌雄の羽化ピークの間隔はさらに広がりました。例年だと♂の再飛来は羽化初日から11~14日後でしたが、今年は何と22日後となりました。もっとも、この池で羽化したものが必ずしも再飛来するとは限らない(500m離れた猪苗代湖岸には大発生地がつらなる)ので、はっきりしたことは言えません。だから生殖前期間を知るには羽化個体にマーキングしないといけないのでしょうが、毎日朝方4時(本種はこの時間に飛び立つ)までに現地に行ってマーキングする気力はありません。
一方の♀は羽化初日からなんと42日となりました。雌雄間では20日の差が生じています。毎度のことですが、なぜこんなに性成熟に至る期間に雌雄間で差があるのでしょうか?
精巣、卵巣の発育度を経時的に見る
♂の場合
羽化した池に戻って来た♂♀を捕えて、それぞれの精巣と卵巣の発達状況を経時的に調べてみました。さらに♂は貯精嚢の状況、♀では交尾嚢の状態も観察しました。
飛来直後の♂の精巣末端部(貯精嚢に繋がる部分)を見てみると、精子は上からだと丸く、側面からだとマッシュルームのような形をした精子束で存在しましたが、大きさは不ぞろいで、全体に小さく、これらの精子束は発育途中であると推察されました。また、貯精嚢内の精子束数は非常に少ないことが分かりました。
さらに初飛来10日後の♂でもまだ見られる精子束の大きさはまだ小さく、大きさにばらつきが見られました。
これが初飛来19日になると、半数以上の個体でほとんどの精子束は十分な大きさに生育し、また、互いの精子束が粘着様物質に覆われ集団化するのが観察されるようになりました。一応♂の性成熟はこの段階で完了したといえ、この集団化した精子束がこのまま貯精嚢に送られ、移精した後、♀体内に取り込まれます。これらの精子束の掲示的変化はマダラヤンマでも同様であり、広くルリボシヤンマ属に共通したことがらであると思われました。
以上のことから、水域に再飛来して来た♂は性的にはまだ未熟で、飛来後19日程度の生殖前期間があると思われました。したがって、今年の場合、池に再飛来するまでの期間22日と飛来後19日、合わせて41日も生殖前期間がある?ウソだ!これほど長いはずはない!これはどう見たっておかしい。しかし確かにこの期間は池に♀はほとんど飛んで来ませんし。では、♀もしばらくは来ない池で、あのような激しい縄張り争いを続けるのかますます不思議になってきます。
♀の場合
つづく
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