今季初飛来した雄、色がやや淡い個体 2020.9.6
1. 飛来初期の行動
2020年はマダラヤンマが昨年にくらべ、4日ほど遅れて9月6日に初飛来してきました。今年はいつも観察してきた生息地の状況が少し変わって、排水口の扉が全開になっていて池の水位がほとんどありません。マダラヤンマが飛ぶ水路は幸い水位が確保されていますが、流れができて、結構流速が速い部分もあります。
この事態は、この時期の優占種ギンヤンマがほとんど居なくなってしまうという思わぬ状況を作り出す原因となりました。ギンヤンマが居ない。このことは本当にギンヤンマの圧力によって、飛来したマダラヤンマが駆逐され開放水面での縄張り飛翔できないという仮説を証明する絶好の機会となりました。これまで曽根原(1964)や木村(2009)の報告でも飛来初期には同所に生息するオオルリボシヤンマやギンヤンマの勢力が圧倒的に強く、開放水域に本種が入れないとしていました。私も昨年同様なことを観察し、それを福島虫の会会誌に報告しました。
今回、悪役のギンジがいない状況下で、私の予想では、すなわち、マダラヤンマは飛来直後から開放水域に出て縄張り飛翔し、探雌飛翔するだろうと。なにしろ面倒なギンジがほとんど居ませんから、もうマダラヤンマの天下です。好きに飛び回れるはずです。9月11日(初飛来から6日目)に観察してみました。ところが、何とマダラヤンマはこの時期でもヨシ原内部の縄張りから出ようとしません。わずかに開放水面上空に出ても軽く旋回したり、数秒ホバリングしたりすることもありましたがすぐにヨシ原に戻ってしまいました。ヨシ原内部の縄張りでは午前中、摂食行動やホバリングすることもありましたが、大部分の時間は縄張り内のガマやヨシに静止しています。午後は3時ごろから活発に縄張り内をホバリングを交え飛翔しました。またわずかな時間でしたが開放水面のガマやフトイの根ぎわを探雌行動のような飛翔もしました。これは予想だにしなかった行動でした。このことはこれまで考えられていた、飛来初期の縄張り形成の成立要因が全く違っていたということを示します。他の大型ヤンマに追い出されて、ヨシ原内部にしか縄張りを持てなかったのではなく、マダラヤンマは最初から開放水域に出ていくつもりは全くなかったということです。
どういうことなのでしょうか。今回観察できた行動から考えられるのは、マダラヤンマが生息地に飛来した時には、まだ完全に成熟していないのではないかということです。配偶行動はまだ先です。昨年の記録からは初飛来から10日後に交尾がみられましたから、今年の場合は16日あたりに交尾が見られるのかも知れません。本種は初飛来後10日間をヨシ原内部でほとんど過ごして完全に成熟する。それから開放水域に出て配偶行動をおこなうのではないでしょうか。本当ならば、これまでのよう大型ヤンマ類の開放水域での排除行動の結果であるとする考えは修正しなくてはならないでしょう。
2. 成熟雄の探雌飛翔
本種の探雌飛翔はなかなか観察することができません。まずその行動が見られる水域に容易に近ずけないことが最大の原因でしょう。下に示すのは探雌飛翔の連続写真です。雄は水面から10cm程度の高さをフトイやガマの根元(水際)を縫う様に、あるいはホバリングして産卵に来ている雌を探して飛びます。結局、その様はコシボソヤンマやミルンヤンマなどと変わりません。抽水植物の茎や葉を縫う様に飛ぶさまはアオヤンマを水面ぎりぎりに飛ばしたような感じです。大した飛翔技術です。一回の飛翔は15~20mに及びます。しかし往復することは意外に少ないように思います。必ず途中で他個体と出会って小競り合いになってヨシ原に入ってしまう個体が多いからです。
マダラヤンマの探雌行動 開放水面に面するフトイの水際を縫う様に飛翔する.
(上から下に飛ぶ)
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