2020年9月17日木曜日

市街地のカトリヤンマ

 カトリヤンマ属は熱帯地方を中心に約100種が世界中から知られ、現在最も繁栄しているヤンマです。日本には2種が知られ、福島県にはカトリヤンマが広く分布しています。かつては福島県産ヤンマのなかで本種ほどポピュラーなトンボはいなかったように思います。私は郡山市生まれですが、幼年時代は夕刻、市街地の道路(砂利道でしたが)や空き地をたくさんのカトリヤンマが飛んだのを記憶しています。発生地は木立の中の小さな湿地や周辺の水路(当時は素掘り)などで、このような環境はいたるところにあったのです。

 ところが、1960年代からの高度成長時代に都市化が進み、町はコンクリートで覆われ、水路はほとんどがU字溝か暗渠になって、湿地も宅地に代わりカトリヤンマはいつの間にか姿を消しました。一方、郊外の丘陵地帯でも環境が激変しました。それは、食料増産・農家所得向上の名の下で、水田の基盤整備事業が盛んにおこなわれました。その結果、水路の改修が進んでカトリヤンマの発生地であった湿田が激減しました。また、とどめを刺すように7月下旬から8月上旬におこなわれる中干(イネの過剰分げつを抑えて、コメの充実を図る,田面を固めてコンバインが入りやすくする等を目的におこなう)を取り入れる農家が増加して、一挙に水田の乾燥化が図られて生息地が失われました。そしてあれだけ数多く見られたカトリヤンマは10数年前には、県内でほとんど見ることができない希少種になってしまいました。ここにあげるのは当時撮影したカトリヤンマでその後、その生息地は失われてしまいました。以後なかなか撮影の機会がなく、その間に相馬市の大産地が新たに見つかったりしたのですが、長らく近間で撮影できる場所を見つけられませんでした。  

                 茂みの中に止まっている雌を探して飛ぶ雄 1999.10.5 矢吹町

     収穫された水田の中で産卵する雌 1999.10.26 矢吹町

9月15日、午前10時、犬と散歩でいつもの道を歩いて郡山市の中心部にある大型文化施設の裏手に差し掛かった時、不意に目の前の水路からヤンマと思われるシルエットが飛び出してきました。そのトンボは周囲を上下しながら飛び回り、水路に入ったり、出たりを繰り返していましたが結局飛び去ってしまいました。カトリヤンマの雌です。産卵してたのでしょうか?少し時間が早いように思いますが。本当に驚きました。こんな市街地のど真ん中のしかも3面コンクリートの水路で産卵?
しばらく納得がいきませんでした。だいたいなぜ、こんな都市のど真ん中に湿地もないのにカトリヤンマがいるのだろうと、改めて雌が飛び出してきた水路を覗いてみました。深さは1m以上あるでしょう(写真左2枚)。水はほとんどなく、堆積物も少ないようです。ところどころにマツや広葉樹の葉と泥が堆積している場所が見られました。ここで産卵していたのでしょうか。ということは発生をくりかえしているのでしょうか?
 この日は用事があって、すぐにこの場を離れなくてはなりませんでした。夕方、再度訪れてみようと思いました。夕方、5:30に行ってみると、木々に囲まれたわずかな空間を数頭のヤンマ(それは明らかにほっそりしたシルエットからカトリヤンマと直ぐ分かりました)が盛んに摂食飛翔をおこなっているではありませんか。
 どうやらこの周辺で本当に本種が発生しているのだと確信しました。もうマダラヤンマのことなど、どこかに吹っ飛んでしまいました。
 翌朝から水路周辺で観察を始めました。天気は薄曇りで気温は28°、でもなかなか姿を現しません。ようやく10:40にフェンス沿いに作られた灌木の垣根に沿って、雄の探雌飛翔が観察され、正真正銘カトリヤンマの雄であることが確認できました。以後12:00まで3回同様な飛翔を観察できました。また、毎回確実に飛ぶポイントも確認できました。そこはクワやエノキの幼木の枝が水路上に張り出し、まわりに灌木が密生しており、かなり薄暗い環境となっていました(写真上)。個体数は非常に少なく、こんな場所で本当に産卵を確認できるのでしょうか?しかし、この場所で探雌飛翔が確認されたことはやはり、最初に見たのは産卵だったのかも知れません。いよいよ佳境に入ってきました。あまり例のない生息地になるかも知れません。
 今回は残念ながら写真を撮るチャンスがありませんでした。



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