2020年9月5日土曜日

秋の使者マダラヤンマ1



  雄の縄張り飛翔 2019.9.12 
 
 マダラヤンマは全国的に人気の高いトンボで、だれもが一度は捕らえてみたいトンボです。その美しく輝くブルーの複眼そして自然の造形物とは考えられないほど深い瑠璃色の斑紋は実際に手にした者でしかわからない感動を与えることでしょう。福島県のマダラヤンマは全県下の平地のやや大きなヨシやガマが繁茂した池沼に分布し、個体数の多い産地も少なくありません。しばしば河川の氾濫や水質の悪化などで、生息地が失われることもありますが、本種の特有の移動性の高さから、新な生息地への進出が絶えず起きているものと考えられます。ただ気がかりはこの温暖化です。マダラヤンマのタイプ標本はフランスのパリです。おおむね北緯35°以北のヨーロッパ~東アジアに分布する、好寒冷地種です。ですからこの温暖化によって、いずれは福島県より北に分布域が移動していく恐れがあります。

 福島県では決まって9月第1週に入ってから本種が見られるようになります。この時期、生息地の池沼はオオルリボシヤンマやギンヤンマの勢力が非常に強く、そのために本種本来の活動域である開放水面に進出することができません。それでしかたなく(たぶん)、ヨシ原内部に狭い縄張りを張ります。雌も中旬頃より現れて交尾が見られるようになりますが、不思議なことに産卵はさらに遅れて観察されます。なぜこのようにそれぞれの行動がずれるのか良くわかりません。ただ、同所に生息する大型ヤンマ類の圧力の影響が一因となっていることは間違いないでしょう。             
 😱赤字の部分は昨年までの観察から得られた推論ですが、2020年の観察で思わぬ事実をが判明したためこの部分はとりあえず削除されたとして読んでください                       
 
  
  若い雄の縄張り内での静止とホバリング. この時期は開放水面には出ていかない。2019.9.10 

 マダラヤンマの飛来は秋の訪れを毎年、変わらず教えてくれています。このトンボが来るといよいよトンボシーズンも終わりだなあ、という思いに駆られます。本種の撮影は、雄の飛翔や交尾はその生態から意外と簡単に撮れてしまいます。問題は産卵です。これは非常にむずかしい。産卵がヨシやガマなどの抽水植物の茎や水面に浮いている枯れ茎などにおこなわれるので、雌はこれらの群落の中に入ってしまい、手前の植物が邪魔になって全体象がクリアに撮れないこと、そして何よりアングルがどうしても上から見下ろす形になってしまうことです。
 私はあるトンボのスライド会で、陰ながら密かに師と仰ぐ方が「産卵管が写っていなくては産卵ではない!」と話したことが強烈に心に残っていて、正直ショックでした。帰りの新幹線の中で、これを自問していました。果たしてこれまで撮った産卵には産卵管は写っていたかと。以後自然と産卵管が写っているよう撮影することに腐心するようになってしまいました。しかし、マダラヤンマはそうやすやすとはいきません。だいたい下の写真のようなアングルになるのが一般的なマダラヤンマの産卵写真ではないでしょうか。

これだと産卵管は全く見えません。これでは師は産卵とはみなさないのです。要はいかにレンズを水面すれすれに持っていけるかに係ってくるわけです。そこで改めて水面に顔がつかるほど這いつくばって、胸まで浸かって決死の思いで産卵を撮ると、撮れるではありませんか!やはりこの世界も気合だ!気合だ。なのでしょうか。幸いグリーンとブルーの雌が互いにそう遠くない位置で産卵してくれたので、一緒に撮影することができました。飛来直後は非常に敏感で、すぐに近か
づいたり、カメラを構えたりすることはご法度です。パッと飛んでしまいます。十分産卵に専念させてから近づきます。
 ここに掲載した写真や内容は2019年のものについて述べています。2020年度のマダラヤンマはこれから随時掲載したいと思います。ただ気がかりは本来なら、もう来ていていいのですが。まだマダラヤンマを確認できていません(9月6日現在)。

             いずれも2019.9.
                                                   
  交尾は福島県の場合、9月中旬以降から観察されます。交尾が良く見られるのは午後3時以降になってからです。午前中はわずかしか見れませんでした。交尾時間は最初から最後まで観察できることは難しいでですが、14分と30分の2例のみ時間を計測することができました。交尾の写真を撮っていた時です。何やら黒い影が交尾個体の手前を飛びました。構わずシャッターを切りましたが、その影はクロスズメバチであることが分かりました。しかしこのクロスズメバチ、雄の腹部背面に止まり、かじりだしたからたまりません。ペアは驚いてどこかに飛び去ってしまいました。私は以前、エゾトンボの交尾でも同様な観察をしています(下写真、この時はエゾトンボが嫌がった行動を示したので、とっさに手が出て、ピンボケとなりました)。おそらく腹部が曲がり、一見芋虫のようにクロスズメバチには見え、噛みついたのかもしれません。


              
拡大して見てください 2019.9.26
                                                                        
                        交尾態のエゾトンボに止まろうとするアシナガバチの一種
(ピンボケですが)
                              

   



 








 






2 件のコメント:

  1. どの写真も素晴らしく眼福です。ありがとうございます。このマダラヤンマの産卵は低いアングルからのもので、凄いというありきたりの語彙しかないのが残念です。

    返信削除
    返信
    1. 有難うございます。なかなかこのアングルで撮影することは難しいと思います。その後は全く撮ることができませんでした。

      削除

アキアカネの配偶行動 (2)

  精子置換はいつおこなうか?  今のところ、新井論文が非常に的を得ているように思えました。このままではやはり妄想論でしかなかったことになってしまいます。そこで改めて、新井さんが述べておられる、ねぐらでのアキアカネの配偶行動を再度観察してみることにしました。           ...