福島県の中央に位置する郡山市は明治時代に士族救済(福岡県久留米藩、高知県土佐藩をはじめ多くの藩から入植があった)のため、それまで原野であった安積野に猪苗代湖から水路で水を引く国内最初の大規模疎水整備事業(安積疎水)がおこなわれました。その後、入植された方々と地元の血のにじむような努力によって現在、郡山市は県内最大の水田面積と生産量を誇るようになりました。
しかし、明治時代以前は平野部であるにもかかわらず、米作に必要とされる水源は溜池に頼らざるを得ませんでした。そのために郡山市から矢吹町にかけては数多くの溜池が作られています。マダラヤンマの生息に適した平地の溜池が多いのもこの理由なのです。
さて、アカトンボの季節になってきました。9 月下旬になると水田には多数のアカトンボが見られるようになります。主にみられるのはアキアカネ、ナツアカネ、ノシメトンボそしてマイコアカネです。残念ながら私はアカトンボへの思い入れが少なく、あまりその生態を知りません。最近アキアカネを観察するようになってきましたが、他はほとんどその生態に関心がありませんでした。
ナツアカネ 2007.9.28 会津若松市アキアカネの交尾 2026.9.23 猪苗代町
ノシメトンボの交尾 2007.9.28 会津若松市
この時期、郡山市周辺ではまだ稲刈りが始まっていません。コンバインが作業できるように水田の田面土壌を乾燥している時期なのです。したがって、水田には水が無い状態なわけで、そうなると産卵を水面におこなうアキアカネやマイコアカネは必然的にこの時期の水田に飛来して産卵しないと、私は高をくくっていました。
実はまだナツアカネの写真をデジタルカメラでは撮影していませんでした。そこで今年こそはと、この時期に記憶をたどって発生地に行ってみました。正直、交尾と産卵を撮ればいいや、と楽勝気分で出かけたのです。ところがかつて多産していたナツアカネはどこにいってしまったのでしょう。行けども行けども見当たりません。郡山市周辺をあきらめて、思い切って猪苗代湖畔の水田地帯に転戦してみました。しかし、同様にその姿は全くありません。周辺を探し回りました。湖畔沿いでようやくポツポツとオスが単独で水田わきの灌木に止まっているのを見つけました。すると少し離れた水田の上を多数の連結したナツアカネが飛び回っているではありませんか!早速行ってカメラで交尾と産卵を狙います。連結個体は稲穂の上を飛び回りながら、なぜかその下に潜り込みます。しばらくすると交尾態で飛び出して近くに止まって交尾を続けます。
しばらく不思議に思いながらも交尾の写真を撮り続けていましたが、次々に飛来するペアは一向に産卵する気配がありません。そのうちアキアカネのペアが飛んで来て、水田の縁に産卵を始めました。あれれ、水あんの?とその時初めて水田には前日までの豪雨の影響で水がたっぷりと帯水していることに気が付きました。ということは、今いるナツアカネは全てアキアカネなのか?そうです!皆アキアカネでした。結構苦労して撮った交尾も全てパーアとなりました。ナツアカネだと疑いもしませんでした。どおりでオスが真っ赤でなかったわけです。
私はこれまでアキアカネが稲穂がまだある水田での産卵を見たことがありませんでした。この時期飛んでいるのは全てナツアカネだと思い込んでいました。よくよく見ればアキアカネのペアは稲穂の上をゆっくり飛んでは稲穂の下に潜り込みます。チョンチョンとメスの尾を水面に付けて田面の状態を確認しているのでした。産卵場所として納得すればすぐに飛び上がり、交尾態となって付近に止まります。また交尾を終えたペアは再び稲穂の上を飛んでいきなり稲穂の中にもぐりこんで、イネの株間に出来た水たまりに産卵するのでした。思い込みの代償は大きいもので、この日は昼からの強風で一日をダメにしてしまいました。
ナツアカネはアキアカネに比べて平野部にある区画の大きな水田(30a 以上)、用排水が完備された水田地帯には非常に少ないように思えました。今回の生息地は大規模に整備された圃場ではなく、小規模の田んぼが集まった水田地帯で、すぐ近くに集落とその背後に森がありました。面積が平均 10 a の小さな24 枚の田んぼから成っていました。用水路と排水路は一緒になっていて、今では珍しい素掘りの水路でした。一部の水田にはまだ水が田面に残っていましたが、他は湿っていましたが長靴で歩ける状態でした。
同上しかし、不思議なことにナツアカネが見られるのは極限られた水田のみだったのです。さすがに気になったので、水田の特に田面の乾き具合を見てみましたが、特にどうだとは言えず、どういうことが理由で特定の水田に集まるのか分かりませんでした。
ナツアカネはアキアカネ同様にオスはメスを捕捉後、交尾した状態で飛んで近くの稲穂や地表の草などに止まって交尾を続けます。今回、2例ほどメスを捕え数分間交尾態で飛び回ったペアが空中で交尾をほどき、連結型になって産卵するのを観察しました。交尾態で飛び回るペアはオスがそうするのか、緩やかに上下にまるでメスに交尾をほどくのを促すような飛び方をしました。この様な交尾がナツアカネに頻繁に見られるのかは分かりませんが、アキアカネで私は見たことがありません。
交尾態で飛び回るペア 2026.9.26 矢吹町 同上
同上
交尾を解いて産卵モードに入ったペア 2026.9.26 矢吹町
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