2026年5月26日火曜日

サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri の観察記Ⅰ

季節はあっという間に初夏に

 今年のムカシトンボは何かいまいちパッとしないまま終わろうとしています。代わってサラサヤンマのシーズンとなってきました。郡山市ですと、例年連休明けの10日ごろから羽化が始まります。大体月末になると成熟虫が湿地に飛来してきます。
 昨年観察していて、このヤンマは基本的に縄張り内に静止してメスを待つトンボでは?という考えを持ちました。多くの文献では縄張り内をホバリングしながらメスの飛来を待ち、一部では静止して縄張りを張ると記述されています。要は縄張りは飛翔が主で、一部静止してメスの飛来を待つということです。
 
 5月25日に郡山市郊外のハンノキ林にある生息地に行ってみました。すでに多くの個体が見られ、交尾・産卵も観察できました。早朝から縄張りを張る場所で待っていると、最初のオスが飛んで来ました。それは縄張りを含むやや広い空間を高さ1mぐらいを上下動しながら数十秒から1-2分飛び回った後、今度は地面から50cmぐらいの高さをホバリングを交えてせわしく飛翔します。数十秒から1分ぐらいでしょうか。その後さらに低く、ブッシュや低灌木の方を向いて30cm2ぐらいの狭い場所をホバリングして、おもむろに枯れ枝や植物の葉などに止まります。
                  
                  
                  縄張り内でのオスの飛翔

 静止したオスはその後、自発的に(他の小昆虫の刺激や風にあおわれたりしてなど)、あるいは侵入してくるオスの迎撃、そしてメスの飛来によって飛び立ちます。自発的な場合はわりに短時間でまた同じ場所に戻って静止します。迎撃の場合は追い払った後に、再び縄張りに戻りますが、ホバリングを交えながらまるで自身を誇示するがごとく数十秒から数分縄張り内を飛翔してから静止します。メスが縄張り内外に飛来するとオスは瞬時に飛び立ち、メスをあっという間に捕捉して草むらに落下します。そしてメスを把握すると飛び立って、タンデム状態から移精、さらに交尾態となって樹上に上がって枝に止まります。この間、縄張りはがら空きで、多くの場合、新しいオスが飛来して縄張り主となります。
                   
                 縄張内で静止してメスを待つ
            
             メスを捕えタンデムとなって飛び立とうとするペア
                   
                  
               交尾はいつも高い場所に上がってしまう
       
                  まだ初々しいメスの産卵

 さて、今回は飛翔型と静止型の縄張行動を比較してみました。まずそれぞれの継続時間です。上述したとおり、静止型の継続時間がとぎれるのは3つの原因からでしたが、考えてみれば、それらの刺激原因がなければ逆に延々と静止状態が継続されるのでしょうか?さらにサラサヤンマの場合、縄張りの目的はメスを捕えることです。静止型と飛翔型ではメスの捕捉数に差があるのでしょうか?それらを念頭に観察した結果が下の表です。調査個体数は示してありません。
                  

     注目すべき交尾率ですが、明らかに静止型が2倍高くなっていることが分かりました。これは継続時間が静止型が4倍以上も長いことが主な要因と考えられます。飛んでエネルギーを消耗するよりも、止まって楽して交尾したほうが絶対に良いと思います。飛翔型が静止型より長時間継続するなら結果は逆になったと思います。
 しかし、観察していてサラサヤンマが飛翔型と静止型の両方の縄張行動を使い分けるとはどうしても思えないのです。つまりサラサヤンマには積極的に縄張り内をホバリングしながら飛翔警戒する気がさらさらないというか、もしそうなら、もっと静止状態から自発的な縄張り飛翔が頻繁に起きて、飛翔時間も逆に長くならなければなりません。それが全く観察できなかったことは、本種の縄張は飛翔型でなく静止型である可能性が高いんと違うんかい?
                  
 もし、静止型縄張りのオスが外的な刺激を受けなかったとしたら、一体どのくらい長く止まっているのでしょうか?ある時間以上は我慢できなくなって、自発的に飛翔型縄張り行動に移ることはないのでしょうか?5月27日の観察はその点非常に興味のある出来事でした。この朝はどんよりした天気で、8時頃に日が射しこんできました。オスの飛来は8:30を回ってからでしたが、2オスのみが飛来してきました。片方は直ぐにメスが来て、それを捕え交尾態となって飛び去って行きました。残る1オスは縄張り内の小さな枯れ枝に止まってメスを待ちます。でもなぜか、その後メスはおろかオスも全く飛んできません。結局このオスはしきりに翅を震わせながら28分43秒も止まったままの状態でいました。 
                                                                                           
                                                         中央のハンノキの手前のくぼ地が縄張りの場所
     
 この日の観察からも、縄張り内でホバリングを交えた飛翔行動は、全てが静止縄張り行動中のオスが主に3つの外的刺激を受けて飛び立ったもので、自ら飛翔型縄張り行動に移ったものではありませんでした。しかも短時間の飛翔でまたすぐに止まります。
                   
                 縄張りから離れた草地で占有飛翔する若いオス
                        
                     同じ場所で産卵する非常に若いメス
                        
                占有オスに見つかり確保された. この後交尾態となって樹上へ

 確かにオスが5分あるいはそれ以上長くホバリングを交えた旋回飛翔を行うことがありますが、これは未熟個体(発生後期なら縄張りに入れない弱く経験の浅いオス)が縄張りに侵入できずに離れた湿地の上で行う行動(サテライト行動)のようで、この場所でも交尾が観察されます。この辺はここに焦点を当てた観察が必要で、課題と言えばそうなんでしょうね。
             



        

 


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