2021年5月1日土曜日
春のオオトラフトンボ、羽化の季節
2021年4月13日火曜日
ムカシトンボ Epiophlebia superstes の羽化直前の上陸行動
ムカシトンボが羽化直前に陸上生活することについて
トンボの写真を撮っている方々にとっては、何と言っても春先のムカシトンボの撮影は避けて通れない年中行事、あるいはこれで本格的な撮影シーズンの始まりと捉える方も多いと思います。そしてその最初が、羽化直前の終齢幼虫の探索と撮影になるのでしょう。私は結局、毎年似たような写真が大量生産されるだけなのですが、飽きもせず毎回この時期になると、背後に妻の視線を感じつつ、いそいそと出かけていくのは、一種の中毒症状なのでしょうか?
ここ数日、上陸した終齢幼虫を探して各地を歩き回っていました。福島県は広大で、ムカシトンボの成虫発生時期も5月中旬から8月までと極めて長く、その分、ポイントを絞り切れない贅沢な悩み(?)がありました。今回もまず雪上を歩く終齢幼虫を撮影してやれと、会津方面に出かけてみました。今年は桜が2週間も早く開花して、幼虫の上陸も早まると予想していたところ、やっぱり会津は会津、まだしっかりと雪が残っていて、生息地には近づけませんでした。さらに、熊の巣に踏み込んだようで、熊棚がたくさんあって早々の撤退となりました。
何だい、この先雪じゃねーか! はい、ここで終了。そもそも、ムカシトンボが羽化1か月前に渓流から上陸し、最大10mも離れた石や落ち葉の下で過ごすことは、図鑑などに書かれてトンボ同好者では周知の事実です。私たちはこの図鑑の記述を知ったからこそ、今日、ムカシトンボの幼虫を地上で羽化前に写真に収めることができるわけです。ところが実際この終齢幼虫を探し出すことはやってみて分かりますが、そう簡単にはみつかりません。だから最初にこのことについて幼虫を探し出した先人の取り組みを一応は知っておく必要があると思い、今回はこれら先人の偉業に敬意をはらいつつ、書き進めたいと思います。
一体だれが羽化前に幼虫が1か月も地上で過ごすことを見つけたか
とにかく、終齢幼虫はそう簡単に見つかるものではなく、最初から明らかに渓流付近の石の下(落ち葉はお手上げ)にいることが分かっているから探す気力も持続するのであって、もし、そんなことが分からなかったら、誰もこの時期、渓流脇に来て石などひっくり返さないでしょう。はたして、だれがムカシトンボの終齢幼虫が羽化前に陸上に上がって生活することを記録したのだろうか?すでに当時、複数のトンボ好きの人々は本種が羽化時期以前に陸上に上がっている生態に気が付いていたと思われますが、記録として最初に報告したのは誰なのでしょうか?そこで色々調べてみると、Tombo, 7 (1964)に枝 重夫(元蜻蛉学会会長)氏が羽化直前のムカシトンボ幼虫の行動と題した報告を詳しく書いておられました。
それによると、日本で初めて終齢幼虫が羽化数日前より水を離れ、地上を活発に歩行することを記録したのは徳永・小田柿 (1939)であるとしています。一方、この報告には不均翅類の幼虫のように、直腸から水を出して移動することはない、という記述があると、石田省三氏が1969 出版の名著 原色日本昆虫生態図鑑Ⅱトンボ編の中で引用していることが分かりました。さらに、枝氏は首代(1946) が1946年3月14日に水辺より1m離れた石の下より1頭を採集して、4月3日に羽化させたこと、また石田 (1959) が1950年頃の4月3日に流れから10m以上も離れたところを歩行中の1頭を採集、さらに石田・杉田 (1959) では1959年4月2日に流れから約10m離れた湿った石の下から1頭を発見したと既往の観察・採集例を詳細に紹介しています。
さらに枝氏はこれらの事例と自身の観察記録を挙げたうえで、初めてムカシトンボの終齢幼虫は羽化前、少なくとも20日間は地上生活するものと予想しました。これですね!こういうことだったのですねえ。ずいぶん昔に調べていて、一部の生態が解明されていたのですね。こうやって改めてみてみると、石田省三さんは凄い人なんだなあだという事が改めて分かります。日本産トンボの生態解明の多くは彼によるところが非常に大きいと思います。私は石田さんに一度、石垣島のヒナヤマトンボについてお尋ねしたことがあって、採集当時の状況や、その標本を東京の朝比奈先生が記載用にと借りた経緯や、その後の顛末が興味深く書かれたお手紙を頂いたことがありました。
さて、話を終齢幼虫の探索に戻します。会津がだめなら今度はいわき市に向かいます。いわき市の阿武隈高地東斜面には数多くの生息地があります。ほとんどの沢の源頭部には分布していると思います。ただ、個体数となると意外に全般に少ないような気がします。この中で、いわき市三和町のある生息地は、個体数も多く安定した絶好の観察地であったのですが、最近スギの伐採作業が行われ、環境が激変してしまいました。昨年、それでもいくらかの個体数を観察しましたので、当地にでかけました。
10年ぐらい前に伐採用に造られた作業道跡、両側の流れに本種が見られる中央の矢印の石、水際から約50cm離れている(上流から撮影)
探索する沢は川幅2mぐらいで、昨年の台風でかなり両岸が削られ、一見荒れた沢のように見えます。この一帯の渓流は最上流部でも台風の影響を受けていて同様な景観を呈しています。そもそも小さな河原などもなく、わずかに増水時に打ちあがった土砂が所々にたまった場所が点々と見られます。早速降り立って、そんな場所の石をめくって幼虫探索を始めました。2,3の石をひっくり返していた時、オツ!突然、ムカシトンボが現れました。幼虫がいた石は底面が平たく、地面にトンと載っているような石で、大きさは多くの報告にあるように手のひら大の石でした。めくった石にしっかりしがみついていて、動きません。何だ、簡単に見つかるじゃないか。幼虫は動かずジっとしていますが、刺激を与えると、意外に俊敏に動き、その動きはトカゲのようで、これはもう陸上生物のような気がしました。
下流から見る石をひっくり返したところ、石にしがみつく幼虫
ムカシトンボ終齢幼虫 10/4/2021 いわき市三和町
しかし、その後1時間、2時間とうとう追加発見はできず、腰が、、、、。やはり上陸した幼虫を探し出すことは難しい、というより非常に困難だと実感しました。上陸初期であれば、まだ水際の石の下にいる場合が多いでしょうが、時間の経過と共にどんどん遠くに分散するとすれば、見つかる可能性はより低下するはずです。撮影するなら上陸直後が良いのかも知れません。
別の沢で同様の探索をしてみました。今度は県道わきを流れる小さな沢です。一方の山側は急峻な斜面で、樹齢は50年近くあるスギの植林地となっています。そう遠くない時期に伐採されて、この沢の環境は相当変わるのでしょうね。また、片方の県道側は補修工事(のり面が増水時に削られたり)が頻繁におこなわれているらしく、その跡がいたるところに見られます。しかしそうした環境にある中でもムカシトンボの個体数密度は高く、網を入れれば一度に複数頭が入る状態です。
舗装された県道わきを流れる小さな沢赤丸の場所を掬ってみます
どれ、入るか?
矢印のムカシトンボ幼虫とサンショウウオ
こうした、両側が急な斜面(県道側は1m以上いきなり高くなっている)の沢ではどちら側に、というよりどの程度幼虫は沢から離れるのでしょうか県道側によじ登って移動すればすぐ舗装道路です、道路の向こう側に渡るのでしょうか?これは羽化をぜひ確かめたいです。多くの生息地では林道を越えて山側の斜面まで移動して羽化することが良く知られていますから、ある時期、ワラワラと多くの幼虫が道路を渡るのかも知れません。しかしこの時期でもまだ水辺から数10cmしか離れていない石の下に幼虫が潜んでいました。この個体も移動中なのかも知れません。
矢印の石に幼虫が潜んでいる気温が低く、全く動かない幼虫
羽化は来週遅くか? 17/4/2021いわき市三和町上市萱
いよいよ、福島でもあと1,2週間でムカシトンボの羽化が始まり、トンボシーズンが本格的に幕開けです。
2021年4月4日日曜日
越冬トンボにも春本番(このブログはパソコンでご覧ください)
ホソミオツネントンボの越冬場所の一例
今年は、雪が例年どおり降って、結構冬らしい冬だったと思っていましたが、オツネントンボが2月21日に郡山市の自宅庭を飛んで、ツツジの葉に止まって日光浴しているのを見ました。気温は確かに16℃となって、この時期としては暖かな日でした。しかし、これまでの経験で、本種がこの時期に庭先を飛ぶことなど予想もできませんでしたので、正直びっくりしました。いよいよ福島にもトンボの季節が例年よりも早く確実に近づいて来たのを感じました。
3月29日、栃木県境に接する白河市表郷金山の低山地に、白河市未記録のムカシトンボはいるのだろうかと探しに行ってみました。白河市の和尚さんM氏から、ムカシトンボ探索のお誘いを受けていたのですが、ついフライングをしてしまいました。この日は晴で、気温も20℃をこえるほどの日和となりました。とある林道の車止めから歩いて沢沿いに登って行くと、広大なスギの伐採地が広がっています。「これじゃいねーな」と思いつつ歩いていますと、ふと、林道沿いのスギの木立にそってオツネントンボが多数飛び回っているではありませんか。こんなところでも越冬しているのかと写真を撮っていましたら、何とある場所から上はほとんどがホソミオツネントンボに変わって、また、個体数の多さに驚きました。大雑把に数えてみると、約30m(歩幅で大体)に18匹のホソミオツネントンボを数えることができました。この調子で林道沿いに居るならものすごい数です。多分この地が本種の越冬地なのだと思いました。陽だまりに集まって、盛んに摂食行動を行っていました。周辺は皆伐状態で半分あきらめ気味で林道脇の小さな沢でヤゴ掬いをすると、何とムカシトンボが簡単に捕れました。白河市初記録です。このムカシトンボが生息するような沢沿いの杉林にホソミオツネントンボの越冬地があるのです、多分。当日は午後から訪れたので、後日、ホソミオツネントンボをメインに観察することにしてこの日はこの場所を後にしました。
ムカシトンボを求めて林道を進む越冬イトトンボの生息地、スギ林の林床に生える灌木に多数止まっている
ササの葉に止まるオツネントンボの雌
ホソミオツネントンボが見られる林道脇のムカシトンボが生息する荒れた沢
捕れたムカシトンボのヤゴ
4月3日、再び当地を訪れました。しかし、曇りで気温も低く、11時すぎまで陽が射しませんでした。この間、ホソミオツネントンボは1頭も現れませんでした。陽が射してもすぐにはスギの樹上から降りてきません。12時近くなってやっと姿を現しました。いずれも地面近くにある植物の小枝の先に止まっています。多分、地表面からの輻射熱を受けて暖かいのでしょう。しかし、驚かすとすぐにスギの樹上に上がってしまします。雄は半数以上が青みがかった色調に変わっていましたが、一方雌はわずかにほんのりと色づいた個体が混じる程度で、雌雄で性成熟度にかなり差があるように思いました。また、ほとんどが雌で、雌に比べ雄の個体数はかなり少なく感じました。
これまで春先に本種が飛来してくる水域に、雄しか見られないことをしばしば経験していました。越冬場所で、雄が先に成熟するのであれば、雄が先に水域に飛来するのかも知れません。雌の卵巣が成熟するためには、雄より多く餌を捕食する必要があり、その分時間がかかるのだと思います。これまで本種の越冬個体(越冬色を呈した個体)を冬期間から春先に見つけたことは数えるほどしかありません。このように限られた場所に極めて多数の越冬個体を確認したことはこれまでありませんでした。ましてこんな山中で。このトンボの生態もまだまだ分からないことばかりです。
ようやく気温が上って林道脇に降りてきて小枝で休む♀ 3/4/2021 やや青みがかった体色に変化してきた♂2021年2月16日火曜日
有機農業とトンボたち (このブログはパソコンでご覧ください)
有機栽培の水田はトンボのオアシス
職場の近くに普通の水田 (以下、慣行栽培)と有機栽培の水田が設置してあります。水田は平野部にあらたに造成された新しい水田で、周辺に林や池沼はありません。両者は水路と農道によって5m以上隔てられています。有機栽培の田んぼも前は慣行栽培の水田でしたが、ある年から有機栽培がおこなわれるようになりました。その3年後あたりから有機の水田には多くのトンボが見られるようになり、大変驚きました。5月中旬の田植時期にはどこから飛んできたのかオツネントンボやホソミオツネントンボが見られ、6月に入るとモートンイトトンボやアジアイトトンボがたくさん飛び出しました。
平地の水田地帯に作られた有機栽培の水田 郡山市日和田町そして6月下旬から7月いっぱい、ノシメトンボから始まってマイコアカネとアキアカネが次々に羽化しました。さらに7月下旬にはアオイトトンボも少ないながら確認できました。8月上旬になると連結したノシメトンボが見られだし、9月に入るといつ産卵していたのか、ギンヤンマが羽化してくるといった具合です。そして、10月に入って本格的に稲刈りがはじまると、いよいよ水田の主役のアキアカネが産卵に訪れます。このように周囲に森も池沼もなく、圃場整備された水田地帯の中に造られた有機栽培の水田は、いつの間にか多くのトンボの生息地になっていたのです。
一方、隣接する従来の慣行栽培の水田には、まったくといっていいほどトンボの姿は見られませんでした。わずかに8月以降、9月までは何回かシオカラトンボとノシメトンボの連結産卵を見たにすぎませんでした。周辺の水田にはほとんどトンボが見られず、いても一過性で、定着していませんでした。この有機栽培の水田だけにトンボが集まっている。ここは、いわば水田という砂漠の中のオアシスなのです。
夕刻産卵に訪れたギンヤンマ産卵場所を求めて水田内を連結飛翔するアキアカネ
トンボにとっての有機栽培と慣行栽培の違い
この違いはどこから来るのでしょう。当然有機栽培の水田は農薬を一切使用していませんから、農薬の影響が無くなったためとも言えるでしょう。また、慣行栽培ではアカトンボ類の羽化時期である6月下旬から7月上旬にかけて田面水を落としてしまう(これを中干といって、この時期に水田の土壌表面ををカラカラに乾かすことで、イネの過剰な茎数を減らすことや、土壌中の窒素発現を促すなど良質なコメ作りには欠かせない技術といわれています)ことも、トンボ(ヤゴ)にとっては致死的な影響を受けるともいえるでしょう。つまり、両者の栽培の違いは、農薬の散布の有無と栽培方法の違いが大きいということが言えます。
水田の農薬
水田に使用される農薬には殺虫剤、殺菌剤そして除草剤の3つがあります。特に最近話題となることが多い、殺虫・殺菌剤(混合してある)に育苗箱施用剤というのがあって、これがアカトンボの激減の元凶だとする話を耳にする方も多いのではと思います。特に平野部の圃場整備がされた地域ほど、この薬剤が使用されるようです。福島県内の水稲栽培において、本田内での農薬散布だけでも標準散布回数で11回も行われています(他県もだいたい同じ。農水省のホームページ www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/tokusai.pdfを参照)。これを半分以下にできる箱施用剤の導入は画期的でした。特に最近開発された新殺虫剤(フェピオニルなど)は人への毒性が低く、反面イネ体内に長期間残効し、しかも殺虫スペクトルが広く多くの害虫に有効だといいます。種まき時に一度散布すれば主要な病気と害虫をいっぺんに防除できるよう工夫され、さらに除草剤の箱施用剤もありますから一緒に散布することができます。県内でも水稲における農薬の主流になってきました。
マーキング法によるオオルリボシヤンマの縄張りの観察 Ⅰ
身近なヤンマやサナエ類にマーキングを施して縄張り行動を観察できないものか?もし種によってマーキング法が有効なら、これまでの経験知とその憶測からしか言えなかった生態が、具体的な実例と数値をもってして科学的に示されることになります。 これまで人懐っこい?トンボであるムカシヤンマと...
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トンボ好きのあこがれのトンボ 福島県におけるネアカヨシヤンマとマルタンヤンマは、現在こそ多産地や記録が各地にあるなど、今ではトンボ仲間の中では普通に語られる種類となっていますが、以前はマルタンヤンマはともかく、ネアカヨシヤンマが生息しているなどと全く予想しておらず、わざ...
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いつの間にかいなくなったコバネアオイトトンボ よくよく考えてみたら、このトンボについては以前からあまり積極的に観察したことがなかったため、気が付いたらほとんどの既産地から姿を消してしまっていることに唖然としています。あれほどいた猪苗代湖畔もほとんど見ることができなくなり、赤井...
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裏磐梯長瀬川 長瀬川と言えば、秋元湖から流れ出て猪苗代湖に注ぐ河川を思い浮かべるのですが、実際には、桧原湖がその源で、中瀬沼さらに乙女沼を介して小野川湖に注ぎ、秋元湖からの流れと合流しています。この一帯は磐梯山噴火時の火山岩が厚く堆積していて、その間を縫う様に無数の流れが...















































