2023年11月26日日曜日

平地のオツネントンボの越冬

 

      落日をむかえるいつもの観察地、右の斜面にオツネントンボが集まっている 11/23 須賀川市

 以前標高700mに位置する山間部におけるオツネントンボの越冬を観察して、このブログに概要を載せました。それらの結果から、越冬には温度よりも太陽高度の位置によって越冬時期が決まるのではないかと予想を立てました。
 それから20年、確実に温暖になって本種の越冬も変わったのではないかと思っていました。11月アキアカネを観察する須賀川市の水田地帯の雑木林には多くのオツネントンボが生息しているのが気になっていました。山間地に登らず、低地での個体群はどのように越冬するのか。山間地だと毎年11月10日以前が越冬開始時期となりますが、どうも低地だとかなり遅くなることが分かりました。そうすると越冬開始時期は以前予想した太陽高度によるものではない可能性が出てきました。うーむむむ。
 大体コーなります。勝手に自身で描いた予想は見事にはずれることが多いのです。そんなに甘く、単純じゃねーぞ、と。
 観察当日の23日は異常に暖かく、当地では最高気温が18℃を記録して、オツネントンボ、オオアオイトトンボ、ナツアカネそしてアキアカネが午前中活発に活動していました。普通ならほとんどトンボは見ない時期なんですが。午後3時すぎになると、オツネントンボは陽に当たる雑木林の縁にある農道の斜面にどんどん集まります。さらに3時30分あたりから斜面の小枝に止まって静止状態を保つようになって、全く活動しなくなります。気温は14℃で結構高めです。どうやらこのままの状態で夜を越し、樹上に上がって眠ることはしないようです。
 このまま、地面近くの植物体につかまったまま、越冬に入るのでしょうか?だとすればオランダなんかで報告されている越冬態と変わらないという事になります。
  
                                           まだまだ元気なナツアカネ、だいぶ老熟している 
                     
          日中は明るい南向きの斜面で小昆虫を捕食したりしながら過ごす
                     
                夕日を受けて静止する♂、このまま夜を迎える

 26日、この日は午前中は晴れでしたが、朝の気温が氷点下まで下がりました。これで、お陀仏となったトンボも多かろうと、いつもの観察地に出かけてみました。時間は9時半です。気温は6℃、現地に着くと何とアキアカネが交尾してます。こんな低温でも盛んに雌雄が飛び回っています。敏感でカメラで寄るとすぐに飛び立ちます。多くは雑木林の南側に作られた農道の法面に止まっています。10:00には気温は7℃になりましたが、こんな低温でもアキアカネはペアとなってどこかに飛んでいきます。ずいぶん低温には耐性があるようです。
                      
     気温6℃のなか、連結態のアキアカネ、交尾していたが驚かせてしまい、交尾を解いてしまった。

      この時期でも11時頃(気温8℃)になると♂は産卵に来る♀を捕えようと水田に飛来します

 オツネントンボは?と、法面を探しますが全く飛びません。よくよく探すと、刈り払われたササや小灌木の根元にしがみついている個体を発見しました。慣れて来るとそこかしこに厳しい夜を越したオツネントンボが静止しているのを確認することが出来ました。この温度では飛翔することは無いのですが、気配を感ずると止まっている枝の裏側に体を隠します。寒さで動けないわけではないのです。結構敏感で、すぐ裏側にまわりこんでしまいます。その動きはハゴロモ類やヨコバイ類のようです。「お前らトンボだよなと、」言いたくなります。
 こうなると、平地での越冬はこうした日当たりのいい斜面にある植物体の地際で越冬するのでしょうか?まだ、本種の越冬態は朽木や岩の割れ目に入り込んで越冬するイメージが強く、このような観察は意外でした。もう気候は冬になっていますから、これをもってオツネントンボの越冬態だとすべきなのでしょうか、悩みますねえ。もう少し観察を続ける必要があるのかないのか、分かんねーなあ😕
                                  

    
   どこにいるかわかりますか?

                         生息地景観
    
 つづく                                                          




                  
  
 
 









2023年11月5日日曜日

アキアカネの観察(2023)

                      
               いつもの観察地の景観、那須の山並みが遠くに見える

  アキアカネの観察はいつも10月下旬からになってしまいます。これまで、このトンボほど興味が無かったトンボはありませんでした。秋にはごく普通に見られるトンボですし、採集意欲なぞ全く湧きませんから。その感覚は一般の人と同じだったかもしれません。このトンボが持つ数々の不思議な生態についても、興味はなく「Tombo」や「昆虫と自然」なんかに特集が組まれても、またアキアカネかい、とすっ飛ばして読んでいました。
  20年以上前に尾瀬のホソミモリトンボを探索に行った時、8月なのに湿地の水溜まりにアキアカネが数ペア産卵しているのを見かけたことがありました。あれつ?何で尾瀬でこんなに早く産卵するのか、と。このことが少しずつアキアカネに関心を向けるきっかけを作っていたのではありますが・・・🙄

10月25~31日の観察
 まず、福島県中通り地方中部で成熟個体が大挙飛来して来るのはいつなのか、あまり注意してみていませんでしたが、2022年だと9月10日に初めて多数の連結個体が飛んでいるを観察しました。また以前水田地帯の農道でアカトンボ類の発生消長を調べたことがありましたので、その図を見てみると、9月13日に初めて観察されていますから、まあ9月10日前後といったところなのででしょうか。
                  
                          ふくしまの虫 (1997) 17:15-16より
   
 ただ、この時期はまだイネの収穫は始まっておらず、田面はコンバインが作業できるよう乾燥させているので、アキアカネが産卵できる環境にはなっていません。全く水田で見ないわけではありませんが、溜池や河川周辺で多く見ることができます。
 この時期のアキアカネはマダラヤンマが本格的に生殖活動を行う時期と重なるので観察はしたことはありませんでした。
                                                             
            産卵するペアたちとそれを狙うミズグモの1種、下のペアが狙われている

                                                        産卵中の♀に飛び掛かり仕留めたクモ
                        
                  産卵場を決めて、付近で交尾するペア

 25日以降、天気が良くてアキアカネの観察にはもってこいの条件となりました。単純な疑問なのですが、福島県内各地のアキアカネ個体群には大きさで違いがあるのか興味があります。それぞれの地域で、平地の水田や湿地で羽化したものが山に登って成熟して、また平地に帰って来て産卵する。単なる地域内の行き来だけなら、会津の山間地や浜通りの海岸部などではかなり地理的な、あるいは気象的な違いがあります。したがって個体群にそれぞれの地域の特徴が出てきそうに思います。そこでまず、浜通り、中通りおよび会津地方平野部(ただし磐梯町は標高540m) のアキアカネ♂の大きさを調べてみました。下はその結果です(標本数は30頭ですが、これが大変でこの時期の30頭を採取することはとんでもなく苦労することとなりました。どこでも30頭採取するのに1時間以上かかってしましました)。
                           

 
後翅長と腹長の関係をみると、何となく関係性はありそうに見えます。相関係数は低いのですが、回帰直線を入れてみました。こうして見てみると各地域のアキアカネ個体群の大きさにはいずれの地域でもかなりのバラツキがあることが分かりました。一方、何か共通性があるのかについては判然としません。これが地域差なのでしょうか。極わずかですが、タイリクアキアカネ程度の小さな個体もポツンといることがわかります。回帰直線の下のエリアは翅が長い個体が分布していることを示し、これも大体ですが、長さが32mm以下になるとその個体数が多くなって、同時に変異幅が大きくなるように見えます。一概に特定地域の個体群といっても異なる特徴を持った複数の小さな群の集まりだという印象を持ちます。
 これらについては、何か言えるまでにはまだまだ記録の集積が必要であることを感じます。もちろんだからと言って何か出て来るとも限りませんが。特に今回はいずれの地域も平地ですので、今後は山間部や、夏山の山頂部に集まる個体群なんかを調べたいと思います。
 なお、アキアカネの生活史については生方秀紀さんの「北海道におけるアキアカネの生活史 」 (2016) Tombo, 58: 1-26. がアキアカネにおける過去の膨大な知見を総括していて、とても参考になります。アカトンボに関心のあるトンボ屋以外の自然志向の一般の人は意外に多く、その人たちにもアカトンボの生活史がどこまで分かって、何が問題なのかを知ってもらうことは大切だと思うのですが、残念ながらこの文献は一般の人たちにとって入手が難しく、日本トンボ学会(本会はいわゆる一般の学会には当たらず、任意団体に該当)に問い合わせしようにもホームページはおろか、事務局の住所すら検索できません。どんどん利用してもらいたいのに、せっかくの重要な文献がこのまま埋もれていくのは誠に勿体ない話です。

 今回はもう1つ、10月下旬の交尾行動をもう一度観察してみたいと思いました。昨年も感じたのですが、本種の生殖期間がかなり長いため、マダラヤンマで見られた、時期によって交尾行動を含む配偶行動全般が変化する可能性はないのか?文献を見ても見つからなかったので、手初めに交尾時間を調べてみることにしました。一般には10分程度の交尾持続時間であるように書いてある文献が多いようです。この10分の根拠を示す出典元には当たれませんでしたが、石田さんたちの「日本産トンボ幼虫・成虫検索図鑑」には10分とありました。一方、数分から十数分としているのは井上さんたちの「日本産トンボ大図鑑」です。はたしてこの時期はどうなのか、♂♀共にかなり老熟個体になってきていますから。
 田んぼの中の水溜まりに飛来するカップルはオス主導で♀を2,3回振り下げて疑似産卵をおこないます。そして♀が気に入れば(何を判断基準にしているかは全く分かりませんが)、交尾態になって付近に着地します(産卵に不適とする判断は♀がするようで尾端をそり返して♂に合図するようです)。その時から交尾を解くまでの時間を計測しました。しかし、この測定が意外なほど難儀するのです。この時期に特有なのか、交尾態で同じ場所に留まり続けるケースは意外と少なく、ちょっと飛んでは止まるを1,2回繰り返すのです。そこで見失うのです。また他のペアに気を取られている内にどこに居たのか分からなくなってしまうことも多く、なかなか計測数が増えないのです。2日かかって、最初から最後までの交尾継続時間を計測できたのは32ペアに留まりました。これをグラフにしました。
                     

これを見る限り、この時期は10分より明らかに継続時間が短いことが分かります。また、5分以内の個体が19%(赤円の部分、データ数が少ないのですが)あって、井上さんたちの図鑑の記述に合致します。しかしこの短時間で切り上げ産卵するペアについては何となく、なにかを含んでいる気がしてもう少し精査する必要を感じました。







 

2023年10月4日水曜日

マダラヤンマはどこから来るのか?

  福島県におけるマダラヤンマは8月下旬(だいたい8月25日前後)に繁殖地のヨシ原に飛来します。ただこれらの個体は飛来した繁殖地、あるいは周辺で羽化したものが戻って来たものではないように思います。この地域の特徴で繁殖地の池は11~5月まで水を落として池底をカラカラに乾燥させることが多いからです。こうした池から羽化は確認できません。にもかかわらず毎年、決まった時期に多くの個体が広範囲に飛来してくるのです。
 不思議なことに8月に、繁殖地に飛来する個体は全てオスで、メスは見たことがありません。しかもこのオスたちも、日の出前後のわずかな時間にしか繁殖域(ヨシ原にパッチ状の小さな開放水域)で活動せず、日中はほとんどヨシ原内部に入ってしまいます。夕刻若干、水域に出てきて飛翔する個体もありますが、黄昏飛翔はほとんどありません。


 
  上のグラフは飛来直後のオスの1日を通した延べ飛翔回数を30分ごとに表したものです。通常マダラヤンマの採集や撮影は早くて8:00ころ現地到着になりますが、この時すでに繁殖域での活動(ホバリング)は終了しているのです。ヨシ原内部を飛ぶ個体も高台からでないと確認できません。オスの出現時間はだんだん遅くなるのですが、基本的なパターンは交尾期までの約10日間は変わりません。その後色々調べて、この時期のマダラヤンマは性的に未熟の可能性があることが分かってきました。
   いきなりマダラヤンマが大量に広い地域に同じ時期に未熟の個体として飛来して、しかも繁殖地で交尾前に10日もオスだけで活動していることは、何となくどこからか極めて多数の個体がいっぺんに飛来して来たのではないかと想像させます。もしかしたら、北から?

 北海道では成虫の活動期は本州と同じだ、という方は多いのですが、実際 SNS ではしばしば8月上旬に繁殖地で普通に見られるという報告があがっていますし、大陸のハバロスク近郊ではやはり8月第1週の記録やウラジオストック近郊でも8月上旬の記録が散見されて、その状況は北海道と変わりません。
 前の項で Aeshna mixta (ヨーロッパマダラヤンマ)の移動の中でオランダの観察例や米国でのギンヤンマの一種の移動を紹介しました。もしかしたらマダラヤンマもそのようなどこか遠い北の地域で羽化したものが、オスだけまとまった数十のグループが南に移動して、適当な場所に数日あるいは数時間滞留してはまた移動を繰り返しながら、北関東や中部地方に飛来するのではないかと妄想は膨らむばかりです。じゃ福島や北関東や中部地方で羽化した個体はどうなるのだということをおっしゃる方も多いと思います。私も分かりません。でも案外逆に北に向かうのではないでしょうか?.....こうなると、もはや誇大妄想狂でしょうか😓

 ところで、前に紹介したバルト海沿岸のヨーロッパマダラヤンマの移動を調べるために巨大な網で捕獲する調査をおこなっている例を紹介しました。このほどこの研究に関し、水素安定同位体をもちいた本種の移動元の推定を行った論文がやっと公開されました。我が国のマダラヤンマについてもそうした調査ができるといいなあ、と、内容を紹介します。
 Oelmann et al. (2023) によれば、マダラヤンマの翅の水素安定同位体割合を測定するに当たって、まず複数の種類のルリボシヤンマをもちいて、地域間の年間降水量とトンボの翅に含まれる水素安定同位体割合の関係を調べたところ、両者の間に高い相関関係があることを確認しました。次にこの回帰式を基に、ヨーロッパのおけるトンボの翅に含まれる水素安定同位体割合とヨーロッパ全域の降水量の関係を調べて、ヨーロッパのそれぞれの地域のトンボの翅の水素安定同位体割合マップを作成しました(図1)。こうして測定した値からマダラヤンマの飛来元をマップに落とし込んだのです。
            図1 ヨーロッパ各地のトンボの翅に含まれる水素安定同位体の割合の分布推定図 
           (Oelmann et al. 2023 より) 
 
      図2 捕獲したmixtaには2つの個体群があり(a)、それらは飛来時期によって    
                            異なる割合(b)だとする図 (Oelmann et al. 2023 より)   

 飛来したヨーロッパマダラヤンマは、水素安定同位体の割合からが異なる2つの個体群からなっていて、さらに、それらの飛来時期が前半に飛来するものと後半に飛来するものに分かれることを確認しました。また、図1作成に用いた回帰式よりサンプルの分析値を検討したところ、下の図のとおり、最初に飛来が多い個体群1は、(a)の緑の地域が発生地である可能性が高いとしています。そして後半飛来が多い個体群2は(b)に示された緑の地域から発生したものとしています。ただ個体群2の発生地はあまりにも広く、この水素安定同位体の分析値だけで飛来地域を絞ることは困難だとも述べています。
               図3 2つの個体群の分布域 (a)は個体群1、(b)は個体群2. 図の赤ポチは捕獲網の設置場所
              赤いラインは両個体群の分布境界線、破線は A. mixta の分布北限ライン  (Oelmann et  
                          al. より)

 しかし、これまで捕獲した個体がどこから来たのか、憶測の域を出なかったことを考えれば、飛来したヨーロッパマダラヤンマが全く発生地が異なる2つの個体群から成ることや、その時期別の飛来割合、捕獲されるのはほとんどオスである点、さらに何と言っても具体的な飛来元を広範囲ではあるけれど、推定できたことは大きな成果だと思います。このようにミリ波レーダーや水素安定同位体などの最新の技術を駆使して昆虫の移動に関して研究者の知りたい、解明したいという研究者の好奇心の原点を追い求め、それを実現できる海外の研究環境は何と羨ましいことか。日本も良くやってはいるけれど、まだまだ欧米のようにはいかないですね。

引用文献
Oelmann et al. (2023) Autumn migration of the migrant hawker (Aeshna mixta) at the Baltic coast. Movement Ecology, (2023) 11:52. https://doi.org/10.1186/s40462-023-00415-z.      

     
             
 


                      










2023年9月14日木曜日

なんとなくマダラヤンマ

   この数年、マダラヤンマをある時は遠くで、ある時は深く見つめてきました。一つのトンボにこれだけ長期間関わったことは無く、それだけ飛び切り面白い対象でもあったと思います。マダラヤンマは全国的にも人気のあるトンボで、この季節になると落ち着かなる人も多いと思います。
 このトンボを見ていると感情移入ではないのだけれど、何か深い感情・思考を持った生き物のように感じます。その基本はわれわれと変わらないのではと思うのです。私にとってマダラヤンマはそうしたことを強く意識させるトンボです。
 今年のマダラヤンマを少し写真から。ただし産卵は昨年のものです。産卵は中旬以降になります。


 それから、お願いがあります。福島県中通り地方の白河市、矢吹町、須賀川市、郡山市および本宮市の溜池には広く本種が生息していますが、なぜかその多くは鯉養殖池となっています。昨年、一部の池に県外の採集者の皆さんが複数来られ、養殖池に入って採集されました。私は年末にたまたま養殖業者さんと話をする機会があって、いろいろ話を伺いました。9~10月の時期は鯉の最終的な成長期になっていて、養殖業者さんとしては毎日餌の量や水質に非常に神経を使う時期だそうです。
 養殖業者さんは昨年、池に入ってトンボ採りしている人がいるので注意しようと思っていたと言います。実は、私もそれまでその池に入って歩き回っていましたので、それは私だと、その時お詫びしました。業者さんは採集は全くかまわないのだけれど、どうか池には絶対入らないでほしいと言っていました。まあ、そういうわけで、このブログを見ている方で、採集のために来県される方はくれぐれも養殖池には入らないよう、ご協力お願いします。また、どうしても入る場合(こういうのがあるかわかりませんが)、業者さんに了解を取ってください。だまって池に入られる事を皆さん非常に嫌がります。養殖池には水車が回っていて、人が定期的に給餌に来ます。
 鯉養殖業者さんと話をした結果、やはり私としては新たな生息地を探さざるを得なくなりました。今年は早くから候補の池を探索していて、すでに個体数は少ないのですが、水田用の溜池の生息地を見つけることが出来ました。前と同じようなわけにはいきませんが、トラブルを起こすわけにはいきません。地元ですし。
                     
                            ヒメガマの群落内に開いた典型的な繁殖域、オスのホバリングも多く見られ、縄張りを張る
 
                     
           定番のホバリング、慣れて来ると目の前数10cmで飛んでくれる
        
             ここが特別なのか交尾が見られる場所は集中する

       産卵は運まかせ、一日待っても1匹も飛来しないかと思うと、連続で飛来する日もある 
      
本種の黄昏飛翔は群飛することは無く、単独で散発的にヨシ原低く飛び回る。写真はマルタンヤンマと飛ぶ♂

つづく




                     



2023年9月3日日曜日

マダラヤンマを知ること

マダラヤンマの交尾器の機能
 これまでマダラヤンマの生態を観察してきて、まだまだ不明な点が数多くあることが分かりました。そしてそれらを解明する中で、初期飛来オスの性成熟度を知ることは重要なカギとなります。そのために、オスの生殖器内の精子の有無、場合によっては精子量をどうしても知る必要が生じます。
 オスは交尾に先だって、精巣から貯精嚢に貯められた精子を腹部第9節にある生殖孔からを腹部第2-3節の副生殖器に移す、いわゆる移精を行います。したがって、成熟して交尾可能となれば副生殖器内に精子が存在し、まだであれば副生殖器には精子はみつからず、また精巣に繋がる貯精嚢に精子は無いか、あっても量が少ないはずです。でも副生殖器と言ってもどの部分を見ればいいのか私には分かりません。確か不均翅亜目と均翅亜目では生殖器の作りが全く異なり、射精時に精子が不均翅亜目では生殖器内部の管を通るのに対して、均翅亜目は外側の外皮に沿って移動するのだと記憶してます。

移精のメカニズム
 さて、ここで私は普段、移精の現場を目撃したり、会話の中で移精という言葉を何気なく使ってきましたが、どの部位が精子を受け取るのかについては全く知識がないことに気が付きました。はて、精子の受け渡しは具体的にどうなっているのだろう?と。
 トンボの図鑑や解説書を調べてみると、この件に関してはほとんど触れられず、多くが副生殖器に精子を渡す、といった具合で、そのメカニズムについて明快に説明しているものはありません。そこで海外の文献に当たると、Dumont, H. J. (1991) Odonata of the Levant にたどり着き、この中にオス生殖器の機能について詳細な図が示されていました。内容を見ると、図並びにその説明はどうやら Pfau, 1970 を引用・転載していることが分かりました。そこで原著のPfau にあたると、ギョエー!なんと日本トンボ学会誌でねーの!Tombo 13: 5-11に同じものがさらに詳しく載っているではありませんか。当時のTombo の内容は著名なトンボ学者がしばしば重要な論文を寄稿し、さらに国内のトンボの生態に関する論文掲載も多く、個人的には現在のTombo に比べはるかに面白かった。でもこんな重要な論文があったなど迂闊にも知りませんでした。
 さて、本題に戻って。この論文は残念ながらドイツ語で書いてあって読めません。スキャンしてグーグルで訳していては面倒なので、先の Dumont を参考にします。これによると、、、やはり話は図を載せないと分かりずらいので、図を転載して話を進めることにします。Tombo からだと、すでに公表以来30年は経っているので、著作権の問題は無いとは言え、後からごちゃごちゃ言われるのもいやだから、 Dumont から転載しちゃえ、と。

  Aeshna cyanea (オランダ)Dragonflies and Damselflies in and around Europe より

 論文ではヨーロッパに広く、最も普通に見られる Aeshna cyanea (上図参照)を材料に生殖器の機能を詳細に述べています。このトンボは外部形態が A. mixta によく似ていて、生殖器の形態も mixta 、しいてはマダラヤンマとあまり変わりません。
                  
                     オス生殖器(ゲニタリア)の全体図 Dumont (1999)より

 この図は生殖器をやや斜め背面から見た図です。一対のAp1, Ap2は生殖器全体を吊り下げる硬い腹骨に4か所で固定する役目があります。ゲニタリアはV1~V4の部位から成って、交尾時にはV2~V4 の部位が起立し、さらにV4部位が膨張して内側に収納されていた精子置換に必要なパーツ等が飛び出るようになっています。ここで注目されるのはMRの部位です。ここはゲニタリアの背面にあたり、すぐ上にフック状の突起があります。
           オス生殖器(ゲニタリア)の内部構造  Dumont (1999)より

 上の図はゲニタリアの内部を表したものです。V1は各部位の起立とV4の部位の拡張を行う大容量の膨張組織 (Sdw)と精子の貯蔵室 (r) から成っています。MRは開口部を持つ柔組織から成っており、直接V1の精子貯蔵室に繋がっていて、腹部第9節の生殖孔とMRが密着して生殖孔から精子がV1の精子貯蔵室に供給されるとあります(なお、Waage, 1984 では開口部MRを、なぜかV3の真ん中に図示しています。これはおかしな図です。Corbet, 1999の大作Dragonflies ではこの Waage の図がそのまま掲載されています)。なるほど、この部分から精子を受け取るのですねえ。良くこの場所を見つけたと思います。フック状の突起ついては何も記述が無いようですが、多分この突起が移精時に生殖孔の覆いを押し開けるのではないかあ、と思いますがどうでしょう?
                    
         Cordulegasterの1種におけるゲニタリア内部の精子の流れ Dumont (1999)より

 精子の流れを図で見てみましょう(矢印)。まずP1 (MR) の開口部から精子がV1の貯精室(ここでは描かれていない)に送られます。次にV1の膨張組織が膨張して隔壁を押し上げることで精子がV2~V4部位に送られてさらに、V4 周囲を取り巻く膨張組織が働いて射精口 (Pe) に精子が運ばれるといった具合です。しかし、どうやってこの部分を調べたのだろうと、関心してしまいます。キチン質でV2~V4部分はおおわれていますから、カミソリなんかではうまく切れないと思うのですが。まさかミクロトームで切片にして観察したとかなんでしょうか。
                     
           マダラヤンマのゲニタリア全形と精子取り入れ部位 矢印の部分
        
           矢印:フック状突起、楕円:精子の取り入れ部位(閉まっている)

 今度はマダラヤンマのゲニタリアを摘出して観察してみます。Aeshna cyanea ほどV2背面の突起は顕著ではないけれど、Pfauが描いたものと基本的に同じであることが分かり、また精子取り入れ口付近の柔組織を観察することができました(上の写真ではわかりずらい)。その部分を針で探ると確かに開口していることも確認できました。50年以上も前に1mm程度の対象を、異常なほど詳細に形態学的な研究を行っていたとは恐るべきドイツの研究レベルです。
 以上のように、個人的に不明であった移精の物理的機構が分かり、腹部内の貯精嚢と外部に露出している副生殖器のV1の部位を調べれば成熟しているか否かを知ることにつながると確証を得ることが出来ました。

出典は以下のとおりです。
Corbet, P.S. (1999) Dragonflies, Behaviour and ecology of odonata. P 829. Harley            Books, Essex.

Pfau, H.K. (1970) Die vesica spermalis von Aeschna cyanea und Cordulegaster 
      annulatus. Tombo 13: 5-11.

Waage, J.K. (1984) Sperm competition and the evolution of odonata mating 
      systems. In Smith, R.L. (ed.), Sperm competitiom and the evolution of       animal mating systems. pp. 251-290. Academic Press, New York.

つづく
                  










                      
     
      
















2023年8月17日木曜日

今期オオルリボシヤンマの交尾について分かったこと(整理)

ひとまず今期分のまとめを

 羽化から今日までその生態を、特に交尾の実態について観察を続けてきましたが、結局ますます交尾については謎が深まったという状況になってきました。そこで、一旦、これまでの分かった事実を整理して、頭のもやもやを払拭したいと思います。

(1)羽化
 交尾が全く見られない理由に、雌雄で羽化時期がかなりずれるため、性成熟期が一致せず交尾を見るタイミングを逸している?という疑問。

 このために羽化調査を行いましたが、羽化期間において羽化ピーク(50%羽化率)は5日程度のずれしかなく、確かにオスの羽化が早まるも、同時期にメスも羽化していることから、この疑問は却下!

(2)早朝に交尾しているのでは?
 多くの、というよりオオルリボシの採集や写真撮りを目的に早朝から行う人はさすがに少ないでしょうから、まだ知られていない?のではという疑問。
 
 観察を行えば行うほど振り出しに戻るのがこの疑問。いまだ、明らかな交尾行動を確認したことはありません。確かに、本種はトンボの中でも際立って早朝。暗いうちから活発にオスは活動するのですが、何のためにというか、何してんだか全く分かりません。これもひとまず保留。

 一方明らかになった個人的な新知見(かも?、すでに報告されているかも)
(1)羽化消長と性比
 具体的な数字で示すことができました。羽化は7月上旬から下旬までだらだらと続く。性比について、文献では性比が偏っているとするものがあるのですが、郡山の山地帯において羽化時の性比はほぼ1:1でした。

(2)オスの成熟度(日齢)によって行動様式が変わる
    ①早朝の摂食飛翔
 オスの累積羽化率が初めて100%になった7月29日(約半数はほぼ成熟、残りの半数は未成熟)の早朝の摂食飛翔は4時前後から始まり、未成熟個体は地上から10数メートルを大集団で飛翔しました。一方、成熟虫は地上すれすれから2mほどの高さを不規則に俊敏に飛び回る。摂食時間は未成熟が短く、成熟はその倍でした。
 ②摂食飛翔時間の変化
 日齢の経過とともに摂食飛翔時間の開始時間は遅れ、7月27日と8月17日では35分の差が生じました。
 ③摂食飛翔と制空飛翔の関係(生態学でいう縄張りの語句は、まだ使えない。確かにそうなんだろうと思いますが、今のところ、オスにとっての意義やその利益が認められないので、当面軍事用語の制空飛翔、制空権および制空域を使用します。その方が見ていてしっくりします)
 8月15日以前は摂食飛翔後、約30分後に制空飛翔が始まりましたが、8月16日より摂食と制空飛翔は区別できなくなって、制空飛翔のなかで摂食がおこなわれることが多くなりました。

(3)オスの制空域について
 本種の制空域は池、隣接する草地、林道および隣接する杉林の樹冠・樹頂の3つであり、彼らにとって価値の高い(今のところその価値自体が曖昧ですが)制空域は池>草地、林道>スギの樹冠・樹頂の順であると推察されました。
 ただしこれは検討の余地があります。すなわち、早朝池に初飛来する時刻にはスギの樹冠で同様に活発に飛翔するオスを多数確認できます。この時、まだ林道では制空飛翔はありません。となると、本種は夜はスギの樹冠部で過ごしている可能性が出てきます。多分メスもそうなんでしょう。もう少し樹冠部での観察が進むと3つの制空域の持つ意味がより明白に分かって来る可能性が考えられます。樹冠で制空飛翔している個体はしばしば池への侵入を図るため、降下して、池周辺の個体と乱戦になることがあります。でも直接池には侵入しません。
 いずれの制空域でも摂食、巡回、ホバリングおよび侵入個体との闘争が見られました。樹冠と林道で制空飛翔している個体は常に池への侵入を狙っているが、池の先住オスの排除力が圧倒的に勝るようでした。

(4)成熟オスとメスの飛来時期について
 メスの池への頻繁な飛来はオスの飛来に比べ2週間以上遅くなることが再確認されました。こんなに差が生じることは極めて不自然なことだと思います。これも謎。

(5)メスの早朝産卵
 メスは朝6:00前後から池に飛来し、産卵する個体が居る一方、飛来目的が分かりませんが、オスを引き連れて放浪的飛翔(かなりの距離を飛翔する)をおこなって池を離れる個体が多く観察されました。このメスの行動は要注意で、この先、交尾が起きる可能性も考えられます。メスの飛来は約30分間で、以後、飛来が絶えました。

(6)連結飛翔の確認
 今回の観察において、早朝2例ほど連結してスギ林に沿って飛翔しているのを確認しました。いずれも10m以上の高さをゆったりと飛んでいましたが、すぐに見失いました。どこで連結したのか確認できませんが、もしかしたらスギの上部でオスがメスを捕捉しているのかも知れません。なお、オスがスギ等の樹木の枝先や幹に沿ってメスを確認するよう上昇飛翔する行動が少なからず報告されていますが、ここでは期間を通じて2例しか見ていません。これが頻繁に起きたなら、連結飛翔の最初の雌雄の出会いに関連がありそうです。

以上をもって、今期のオオルリボシヤンマの交尾に迫るは終了します。敗北宣言!「相手が悪すぎました」。

                   
                                                               

                   オスの制空飛翔、上から2番目までは池に侵入できずにいるオスのホバリング。ライバルオスの飛来  
       を警戒して頭を林の方向に、斜め上に向けている
                                                               
 

 








 

2023年8月14日月曜日

迷宮入りになるかオオルリボシ参り

 さっぱり分からん!8月14日の巻
 この日の天気は非常に不安定で、現地には4時15分に着きましたが、まだほぼ真っ暗で、太陽高度が低くなって日の出が遅くなったことを実感しました。そろそろ摂食飛翔が始まるかという時、天気が霧雨になってしまい成熟虫の飛翔はありませんでした。その後霧雨が小雨になったり、突然止んで晴れてきたり、そしてまた霧雨と、目まぐるしく天気が変わりました。そんな中、オオルリボシヤンマは5時29分に池の上を複数のオスが飛翔し始めました。その後しだいに個体数を増し、それぞれの干渉が激しくなってきましたが、その間メスは現れません。8日にはメスを確認していますから、当然飛来があっても不思議ではありません。すでに多くは成熟しているはずです。
 6:45に何気なく、一番下に位置する池に降りていくと、何と複数のメスが数頭のオスを従え池の中を飛び回っているではありませんか!メスは一見すると産卵に訪れているように見えますが、産卵はせず、池の縁や周囲の草むらなどに入り込んでホバリングを繰り返します。時折水面に出て、水面の植物(ジュンサイ)に止まろうとするしぐさはしますが、すぐにまた、群がるオスたちを従えてふらふらと池の中や周囲を飛び回ります。そしてなかなか池を離れようとはしません。この行動は9月などに見られる、産卵メスに対するオスの行動とは少し異なる感じがします。オスはメスの捕捉にはるかに積極的で、しばしばメスにつかみかかり団子状に草むらや水面のジュンサイの群落上に落下します。ただいずれの場合も交尾には至りませんでした。
 飛来するメスは全てがオスを引き連れて池を飛び回るわけではなく、産卵行動を示すものも複数見られ、そうしたメスに対してオスは直ぐに興味を失うようでした。
 複数のオスを従えたメス(もちろんオスは必死に追いかけるのですが、メスは低速で飛んで、むしろわざと追いかけさせているような気がします)は最終的にどうなるか、ここが問題なのですが、延々と林道を地上低く飛び去るものや、スギ林の中に消え去るものもあって、その後どうなるのかは全く確認できませんでした。しかし、産卵個体もようやく確認できたことから、いよいよ本格的なオオルリボシヤンマのシーズンを迎えたことには間違いなさそうです。
                     
                      まだ薄暗い水面を飛翔するオス AM 5:30                                              
                                                 明るくなってつばぜり合いが多くなったAM6:10ころのオス
                           
                            同

8月15日の観察
 昨日、メスの飛来とその行動を観察することができたので、さらに詳しく観察しようと出かけてみました。前日とは違って、雨は全く降っていませんでした。アカショウビンの鳴き声を聞きながら摂食飛翔が始まるのを待ちました。4:48に池の上を飛ぶオスと林道の上を低く飛翔するオスを2,3頭を確認しました。しかし、飛翔するのはこれだけでした。この飛翔も5:00には全く見られなくなりました。
 池に再び現れたのは5:35になってからでした。これまでの観察ではそれぞれの池に制空権を持てる個体数は決まっていて、陽が登るにつれ、新たなオスが次々に飛来して池に侵入しますが、多分、先住オスによってほとんど駆逐されるようです。マーキングしていないので識別は出来ないのですが、闘争して帰って来たオスは元の場所で何事もなかったように落ち着いて飛翔するので、先住オスだと思われます。新たに勝利したオスなら池を不規則にそして敏速に飛びまわりますから。
 追い出されたオスの一部は再び池に隣接する林の空間や林道の決まった場所を長時間旋回していますが、だんだんその旋回する場所は池に近づいて、隙あらばという風に池への侵入を狙っています。ほとんどが成功しませんが。こうした個体を捕えてみると、まだ色彩が淡い若いオスである場合があります。
 6:00をまわりさらに昨日、メスを観察した時間帯になりましたが、いっこうにメスは現れませんでした。そればかりでなく、全く予想外でしたが6:24に何と連結になったペアが上空を杉林の中へと消えていくのを見つけました。予想していたように、ついに早朝の交尾を確認できたわけです。しかし、どこでオスはメスを捕捉したのでしょう。メスなんかまったく見ていませんし。さらにこの日8:00まで、確認できたのはこのペアのみで、ついにメスは1頭も飛来しませんでした。昨日はあんなにメスが飛来して、産卵まで行ったのにです。どうも腑に落ちません。結局、また明日も行かなくてはならないのです。まさにこれを泥船状態というのでしょう。交尾個体がワーっと飛んでくれないかなあ、オオルリボシ様🙇

8月16日 こんなに奥が深いトンボだったとは、とホホの巻
 というわけで、本日も行ってまいりました。台風7号ははるか西に位置していても、台風から伸びた長い腕は福島にも架かっていて、この数日天気が目まぐるしく変化しています。昨夜から朝方までは当地は雨で、早朝の摂食飛翔は当然全く飛びませんでした。それでも6:00には雨は上がり、直後の6:05にはオスが池に初飛来しました。その後6:24までにすべての池の納まる場所にそれぞれのオスが制空権を確保しました。
 次はメスの飛来を待つだけです。今日こそ来るか?6:28のことです。何とマルタンヤンマのメスが20mほどの高さで真っ直ぐやってきました。やはりマルタンヤンマは良いですね。そんなことで、つい上空が気になり時々見上げていると、スギ林の樹冠部をオオルリボシヤンマが数頭飛んでいるのに気が付きました。高さは20mあると思います。

 
                      

       オスが排他的に制空飛翔していた場所(赤円)



         スギ樹冠部をホバリングを交えながら制空飛翔するオオルリボシヤンマのオス                                      6:40-7:10
                                                                           
     
   侵入オスとやり合う

それぞれ単独で、ホバリングを交えながら決まった空域を制空しているようです。他個体が接近すると激しく追い出します。良くみれば、かなりの個体がスギの樹冠部あるいは樹頭部で同様な行動をしています。これらの個体は時折、降下して池の上空に侵入することがあり、猛烈な先住オスの迎撃を受け追い払われます。
                    
           樹冠部から降下してホバリングするオス、すぐに駆逐された。

 これまでの観察から、本種オオルリボシヤンマのオスは生息地の池を中心に、3つの異なる空域の中で、自らが制空することに必死になっているように思えます。まず、彼らにとって一番重要な空域は池上空で(交尾が観察されないのに重要とはおかしいのですが、まっ、トンボ屋の感覚からは自然かと)、ここは最も強いオスたちによって支配されます。池の空域を確保するには、なるべく早く飛来することが重要で、早ければ早いほど良い。8月中旬は5時20分前後には入らないと制空は難しいでしょう。次に、池上空に入ることができないオス(池のオスと闘争で敗れた者)は林道あるいは隣接する空域とスギ林上空の空域にそれぞれ自身の制空域を確保するようです。この際、林道のオスたちとの闘争で負け、林道の空域にも入ることができなかった最も弱いオスたちは(若いオスだと思います)、高所の樹冠に追いやられるのだと考えられます。
 池の中で見られる闘争様式は、林道さらに樹冠部でも場所は変わるが、そのまま同じことが行われていると見ます。そして、樹冠部のオスたちは林道へ、林道のオスたちは池へと侵入・定着を常に試みているのではないでしょうか(妄想部分多し)。
                    
             観察地の景観 池と林道さらに隣接する杉林  

 このように、オスたちの行動はそんなに単純ではないことがわかってきました。相当これは手強いです。今日は結局のところ。早朝から朝9時にかけて、交尾行動を狙ったわけですが、飛来したのは1メスにすぎず、数頭のオスを引き連れて、どこかに行っちまいました。したがって、この件に関しては全く進展がありません。早朝からオスたちはいったい何を目的に活動しているのでしょうか!オオルリボシに直接聞いてやりたいです! 

別タイトルへ続く
                    








                                                                           






      



















 

 

マーキング法によるオオルリボシヤンマの縄張りの観察 Ⅰ

 身近なヤンマやサナエ類にマーキングを施して縄張り行動を観察できないものか?もし種によってマーキング法が有効なら、これまでの経験知とその憶測からしか言えなかった生態が、具体的な実例と数値をもってして科学的に示されることになります。  これまで人懐っこい?トンボであるムカシヤンマと...